あやもも様&なち様より【2024/2/16】

まろやか毎日(略)

 

ラストにあやもも様からのイラスト有◎

まずはなち様からの「ついのべ」をどうぞ!

 


 

《好きだけ詰め込んだスイーツ》

 

二月の初旬、とある昼休み。

大豆は残った午前中の仕事を終わらせるために早めに休憩を切り上げていた。

茂木は手伝おうかと申し出たのだが、 「これはおれの仕事だから、茂木くんはちゃんとお昼休みしててね」 と言い残して行った。

 

神は俺の休憩時間までも授けてくださる。

と、もはや「お前それネタだろ」と言いたくなるような事を考えながらとある投稿サイトで豆乳先生以外の新作を漁っていた。

他の人の作品を見てても大豆は何も思わないし、なんなら「あ、おれもその人好きー」などと言ってくるのだが、茂木の方が大豆先輩の前では彼の事だけを考えていたいのである。

 

この時期になるとバレンタインのネタが一気に増えるな……。

いちゃらぶが多いがたまにチョコレートを中に入れるとか受けにまぶして舐めるとか特殊性癖が紛れ込んでるから油断できん。

 

「しょうゆ?これ、あれか?」

妙に縁のある腐女子の名を見つけて、手が止まった。

タグはバレンタイン、美形✕平凡、n番煎じ、順調に煽られる攻め、などと付いてる。

「ふむ」

短編で休憩時間には丁度いい。茂木はさっと目を通し始めた。

 

「なかなか良かったぞしょうゆ」

いいねボタンを押して、小さく息をつく。シチュエーションは確かによくある話だ。

しかし平凡受けが自分をプレゼントして相手が喜ぶわけがないという自信のなさとその葛藤も含めて興奮する攻めの心理描写が秀逸だった。
性描写はあっさり目だが、想像を煽る上手い書き方だ。

「上げる前に言え!絵描かせろ!!」と怒りマーク付きで本みりんがコメントを残しているのも面白い。挿絵付きで再掲されるかもしれないのでブクマした。デスクに戻り、午後の仕事の準備をしながらぱたぱたと行き来する大豆を目で追う。

「なんであんな日直みたいな感じなんだあの人」

基本、デスクに張り付く仕事で、何をそんなに動き回る必要があるのか。
いやまあ食料を運ぶ小動物のようで可愛いので茂木限定午後のカンフル剤になるだけだが。

 

茂木くん……あの、あのね、チョコね、人が一杯で、恥ずかしくって買いにいけなかったんだ。それで、代わりに、あの、おれを……。

 

無表情で仕事をしながら、茂木の脳内では大豆チョコの妄想が爆速で展開されていた。

いや、あの人は時々思い切りこっちを煽ってくるからな。小悪魔の方が……。

リボンされた受けって好き?攻めがどんな気分になるか教えてくれる?ね、これ茂木くんだけの限定品だよ。ここの解いて?

 

「……イイ」

それまで無表情だった茂木がでろりと蕩けるように笑うのを見かけた十勝がドン引きしたのだが本人は気付いていなかった。

 

気がつけば茂木はスマホで買い物サイトのページを開いていた。「リボン」「赤」で検索すると膨大な商品がヒットする。幅、長さ、素材、光沢の有り無し、ワイヤー入り、縁が金糸、柄入り。種類は余りにも多い。

茂木は目に付いたものを片っ端から買い物かごに入れた。こうなると誰も止められないしそもそも止める人間が居ない。

数日も経たずに届いた山のようなリボンを前に茂木は腕組みをしていた。

「あまり細いものはダメだな。包帯くらいが映えて良い」

ざっと細すぎるもの太すぎるものを除外する。
残ったものをパッケージから出してみた。

「ん?結構固いものもあるんだな。触り心地の悪いのもダメだ。肌が赤くなっては楽しさが半減する」

固めのもの、ごわつくものも横に避けた。
そうして選別を繰り返し、柔らかなサテン生地と、濃い色のベルベット風が残った。
試しに、大豆が執筆する時に腹とテーブルに挟んで使用している姿勢矯正のぬいぐるみに巻き付けてみる。

 

「これは……結構難易度が高いぞ……」

滑らかな光沢のあるサテンリボンはつるつるとしてリボンなど扱ったことの無い茂木の手から逃げていく。肌に吸い付くような手触りは良かったが、美しく結ぶのは難しそうだった。

「ならばこっちか」

ベルベット風のものは少し厚みがあったが、なんとか結ぶことが出来た。

ワイン色に近い濃い赤は肌に当てると良く映えそうだし、なんだかちょっとかなりエロさを感じる。
しかし。

「……なんでちょうちょが縦になるんだ?」

リボンは何度結んでも想像するような美しい形にはならなかった。

「く……そんな不器用ではないつもりだったが……難しいな」

リボン、結び方、可愛い、で検索したラッピングの動画で手順を確認しては何度もぬいぐるみ相手に練習する。

ちなみに、候補から外れた幸運なリボン達は妹に送り付けた。ちょうどバレンタインの手作りチョコのラッピングに必要だったと喜ばれたが、その種類の多さにはドン引きされた。
注文ミスだ。と言い切って、茂木は数日かけて完璧なリボン結びをマスターした。練習に付き合わされたぬいぐるみは勿論何も言わなかったが、心なしかくったりしている。

 

「よし!次はいよいよ本番だな!!」

そうして、神の下僕はバレンタインネタを神に献上する。神をリボンで愛らしくエロくするのが自分の使命だと、茂木は信じて疑わなかった。

当然、それを解くのも、自分である。

 

後日アップされた豆乳先生の新作には

ドS攻め、射○管理、鬼畜、(ここからユーザーによる大喜利)

 

文字通り食べられる受け、やっぱりこうなった、カモネギ=受けにリボン、その後リボンの姿を見たものはいない、

といったタグがつけられていたとかいないとか。

 

《終》