12:同日

 

 

 

 

 

 

「えっと、そちらはどちら様?」

 

庄司はやっと現れた待ち人に何故か謎の眼鏡男が付いて来ている事に目を瞬かせた。本当に誰、である。
その戸惑いをダイレクトに伝える為に、庄司は眼鏡男の隣に立つ伊中に視線を投げかけてみる。すると、そこには予想外にも、自身と同様かそれ以上に戸惑いの表情を浮かべる伊中の姿。

 

「(いや、お前が連れてきたんだろうが)」

 

そう声を大にしてツッコミたい程、伊中は戸惑っていた。なんなら、初対面の庄司に助けを求めん勢いだ。

 

「伊中を知っていて、俺を知らないとは……」
「す、すみません。先輩」

 

どうやら、伊中とは親しい間柄のようなので一応敬語を使っておく。庄司は29歳のしがないサラリーマンではあるものの、此処では17歳、高校2年生の橘庄司なのである。

 

「まぁ、生徒会長の伊中ほど、俺は余り表に立つ機会も多くないからな」
「へ?」
「俺は一応、この学校では生徒会で副会長をしている。坂田 喜一(さかた きいち)だ。」

 

庄司はその瞬間、副会長という眼鏡の男の名前だけが耳を通り抜け、ある情報の1点だけが強い衝撃となって、頭を殴りつけてくるのを感じた。
伊中の事を、この眼鏡の男は何と言った。

 

あぁ、確かに言った。
生徒会長、と。

 

その瞬間、庄司は心底「やってしまった」と頭を抱え込み、その場に倒れ伏したい気持ちになった。もちろん、実際にそんな事はしないが。
庄司は一瞬にして、伊中と初めて出会ったあの日に脳内をトリップさせてみた。

 

 

『伊中?珍しい名前だな。そんな先輩いたっけか?』
『俺は……目立つ生徒じゃねぇから。知らないのも無理ない。部活にも入ってねぇし』

 

 

そう、確かこんな会話をした筈だ。
わざわざ名前が珍しい生徒会長という、そこそこ露出の高い先輩を忘れ切っているなんて、今思えば不自然極まりない。しかし、起こってしまった過去を今更どうする事もできない。
庄司は、倒れ伏しそうになる自身の体を必死に支えると、一つの決断をした。

 

「(この件は全力でスルーしよう)」

 

幸いな事に、伊中が生徒会長である事を知らなかった庄司を、今の今まで伊中自身が何とも思っていないようであるし、正直学年も異なれば知らなくとも、不審がられる程変な事でもないのだ。

庄司は一気に気を取り直すと、急に黙り込んだ庄司に「どうした?」と声をかけてくる伊中の腕を勢いよく掴んだ。

 

「伊中、腹減った。飯食お」
「お、おぉ。そうだな。待たせて悪い」

 

庄司はまずは席を確保せねばと、伊中の腕を掴んだまま空腹の生徒達で溢れかえる広い食堂を見渡した。
2席だけならチラホラと空きが見える。あまり、両脇が詰まっているのは落ち着かない為、あの窓際の席にしようか。
そう、庄司が伊中と座る席に当たりを付けた時だった。

 

「人に名前を聞いておいて、自分は名乗らないのか?」
「あ」

 

少しだけ機嫌を損ねたようなその声に、庄司は思わずはっとして振り返った。
そうだ、もう一人この男が居るのを忘れていた。伊中が生徒会長というのを耳にした瞬間、この男の存在が一気に庄司の中から流れ去っていた。この副会長という、メガネの男。
名前を確か、坂田と言ったか。
庄司は若干の気まずさの中、とりあえずヘラと愛想笑いを浮かべておいた。

 

「坂田先輩、すみません。あんまり腹が減ってたんで、つい。俺は橘庄司って言います。2年です」
「橘庄司?」

 

庄司が名乗った瞬間、坂田の眉が顰められた。まずい、そう庄司はここにきて一気に背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
紀伊国屋高校がいくら庄司の母校とは言え、在籍していたのは10年以上も前の話だ。「聞かない名前だが、お前は何組だ?」などと聞かれようものなら、最早一貫の終わりである。
あぁ、何が終わるかなんて考えたくもない。

しかし、その庄司の焦りは坂田からの予想外の言葉で杞憂に終わった。

 

「どっかで聞いた事ある名前だな」
「へ」

 

逆に、である。
聞いた事ないと問い詰められるかと思いきや、まさか、まさかの予想外。
このような好機を逃すわけにはいかないと、庄司は顎に手を当て考えている風の坂田にまくしたてるように言った。

 

「まぁ、なんか生徒会の名簿かなんかで見たんでしょう。よくある名前だし。坂田先輩も早く飯食いましょうよ。腹減ったんじゃないですか」
「……まぁ、そうだな」

 

結局、何も思い出せなかったのか、坂田も庄司の勢いに押されて思考を手放したようだった。
庄司はその様子を横目で察すると、心底胸を撫でおろした。昨日の警官からの逃走劇と言い、今日と言い、この制服姿は急にスリルを味わわせてくる。
あまり、滅多な事は言わないようにしなければ。

 

「んー、どこもいっぱいかぁ」

 

庄司が食堂を見渡してみるが、2人席はチラホラ空きがあるが3人ともなると、なかなか空いていない。このままでは何も食べられないまま昼休みが終わってしまう。それは何としても避けなければならない。

 

「庄司、俺に良い考えがある」
「お、なんだ。言ってみろ。伊中」

 

それまで黙っていた伊中が、妙案を思いついたとばかりに声を上げた。
伊中は坂田を背にし親指で指さすと「こいつが一人で別の席に行けばいい」と、急に挑発するように言った。指された坂田は、その提案に「ほほぉ」と眼鏡を上げる。

 

正直、坂田を急に連れて来た張本人である伊中が、コレを言うのはどういう事だと思う。そして、坂田を背にしてソレを言う伊中には見えていないだろうが、庄司の目に映る坂田という眼鏡の副会長は、どんどん笑みを濃くしていく。

その笑みに、正直その提案はやめておいた方がいいと、庄司も本能的に察した。

 

「伊中、そんな事を俺に言っていいのか?」
「あ?」
「なぁ、ココで全部バラしたっていいんだぞ。どうやら橘も知らないようだし。なんなら教師陣にだって今すぐ言ってやろうか」
「…………」

 

目の前で繰り広げられる言葉の応酬。どうやら、伊中には圧倒的に歩が悪いようだ。

 

「……じゃあ、どこで飯を食うんだよ」
「購買で何か買って、生徒会室で食べればいい。橘もそれでいいだろ」
「あ。はい」
「っち」

 

どうやら、この坂田という男に、伊中は何かを握られてしまっているようだった。しぶしぶと言った様子で、坂田の提案に舌打ちをする伊中だったが、ソレに否を唱える事はしない。一体何を握られてしまっているのか。

 

「庄司、食堂は明日行こう」
「了解。伊中、お前一体坂田先輩に何を握られてるんだよ」

 

一応、気になるので聞いてみた。思わず口元に笑みを浮かべてしまうのを止められない。
そんな庄司に、伊中は眉間に皺を寄せて、視線がユラユラと定まらなくなってしまった。その顔にはハッキリと「言いたくない」と書いてある。
そして、伊中の口からやっとの事で絞り出された言葉に、庄司は思わず笑ってしまった。

 

「…………ひみつ」
「ぶはっ!何それ!こんなド直球に秘密にされたら、もう聞けねぇじゃん!」

 

ひみつ。
こんな直球過ぎる隠し事の表現を、庄司はなんだか久々に聞いた気がする。だから、これ以上は聞かない事にした。伊中の言いたくない‟ひみつ“を暴ける程、庄司自身が清廉潔白ではないのだから。

あぁ、‟ひみつ“は確かに言えないだろう。そして、その言葉は、伊中がウソをついてない事だけは明らかにしていて、庄司は気持ちがじんわりと温かくなるのを感じた。

テキトーな嘘で誤魔化すなんて器用な真似ができない、このまっすぐな若者が、庄司には好ましく思えて仕方がなかった。

 

「伊中、そんな顔すんなよ。もう聞かねぇから」
「……おう」
「さて、さっさと購買で飯買って食おうぜ!」
「そう、だな」

 

どこかホッとしたような、少しだけ釈然としないような、なんとも言えない表情を浮かべる伊中に、庄司はふと思った。

 

「(ひみつ、は嘘じゃないんだよな)」

 

庄司はいつの頃からか、伊中に嘘をついてしまっている自身に、嫌な引っかかりを覚えるようになっていた。最初は、その時限りの出会いだと、何も感じていなかった筈なのに。
なのに、今はどうだ。

 

「(嘘、つきたくないなぁ)」

 

庄司は目の前を歩く伊中の背中に、ハッキリとそう思った。隠し事は、今更だ。もう、仕方がない。言えない事は、どうしても言えっこないのだから。
だから、せめてこの関係から、嘘だけは取り払っておきたい。

 

「なぁ!伊中!」
「あ?」

 

坂田に何か言おうとしていた伊中を、庄司は思ったよりも大きな声で呼んでいた。

 

「俺も、伊中に言えない事があるんだ!」
「え」

 

庄司からの思ってもみなかった言葉に、伊中の目が大きく見開かれる。その隣で共に振り返った坂田も、なんだと眉を顰めた。
滅多な事を言わないようにしなければ、なんてつい先ほど心に留めた自戒を早速破ってしまった。変に問い詰められたりしたら、それこそ面倒な事になるのは必須。

しかし、庄司は、今、少しでも早く、伊中に伝えておきたかった。

 

「言えない事って、なに?」
「ひみつだよ」
「…………言ってくれないのか」
「ひみつ、だからな」
「知りたい」
「ぶはっ、もう何だよ!伊中!素直過ぎか!お前もう最高だよ!」

 

自分はハッキリと先ほど秘密があるから話せないと言った癖に、庄司の秘密には「知りたい」なんて興味関心意欲の全てを詰め込んだ言葉を放ってくる。どこまでも自分本位で、そして、まっすぐだ。
庄司は伊中の肩をパンパンと軽く叩くと、もう笑いが止められなかった。伊中はそんな庄司に「誰にも言わないから教えろ」と、まるで子供のように秘密を暴こうとしてくる。

 

誰にも言わない。いや、他の誰でもない伊中にこそ知られたくない事なのに、それをその張本人が至極真面目な顔で言ってくるものだから、庄司はまたしても笑いが止められなかった。

 

「笑い過ぎだろ」
「っは、あはは、ごめん。もう、ほんと。伊中、お前、良いよ。ほんと、俺、お前の事好きだわ」
「…………」
「おい、お前ら2人。何か知らんが、購買も無限に商品がある訳じゃないんだ。さっさと行かないと本当に昼抜きになるぞ」

 

つい先程までは、庄司の急な告白に何事かと眉を顰めていた坂田だったが、一人で大爆笑を始めた庄司にどうでも良い事だと判断したようだった。むしろ、一番空腹を感じていなかった筈の坂田こそ、この学食の匂いに当てられ今や、最も腹を空かせた男子高校生に成り下がっていた。

副会長でも、メガネでも、腹は減るのである。

 

「すっ、すみません。坂田先輩……伊中がもう、面白くて。行きましょう」
「橘、お前伊中とは最近仲良くなったのか?」
「はい。ほんと、ここ2、3日です。こんなに面白い生徒会長なら、もっと早く仲良くなってたら良かった」
「………へぇ、伊中。お前、良かったじゃないか。可愛い後輩に、こんなに好かれて。もうすぐ生徒会も2年に引き継ぐし、お前もこれから今より時間が出来るだろう。後輩は、大事にしろよ」
「…………あぁ」

 

どこか面白がるような表情を浮かべる坂田と、先程まで庄司のひみつに食い下がっていた筈の伊中。しかし、坂田の言葉に、伊中は急に押し黙ると、なんとも言えない顔で庄司を見てきた。もう秘密を教えろとは言ってこないようだ。

 

「(伊中、お前も俺に言えない‟ひみつ”があるんだもんな)」

 

本当は気になる。ひみつは、嘘ではない。嘘よりはずっと良い。けれど、庄司だって伊中の事なら本当は知りたいし、気になる。ひみつになんてせずに、何でも話して欲しい。けれど、庄司にはそれを伊中に言い募る権利は持っていなかった。

なぜなら、この関係には明確な終わりがある。伊中と過ごす毎日が、楽しくて、面白くて、好ましくて、忘れかけそうになるけれど。

 

「(もう、今日は木曜日か……あと、休みも3日しかない)」

 

庄司は伊中の隣に立つと、そのまま肩が触れるか触れないかの距離のまま、先へと歩を進めた。購買の場所は変わらなかった筈だ。ここに来る時に見たら、庄司が紀伊国屋高校に在学していた時と同じ場所にあった。

歩いていると、学生達の騒がしい声が様々なところから響き渡ってくる。若い人間達の生む、熱気と狂騒の溢れる此処は、確かに庄司の居た‟あの頃”と何ら変わらない。

ただ、どうしても庄司の学生時代は過去だ。今ではない。

 

「さーて、何買おっかなぁー」

 

庄司は付きまとう不安を振り払うように、伊中の隣から一歩前を出て歩いた。
二人の肩が触れ合う事はない。

 

 

 

 

宮古は、またしてもつまらない授業を半分寝ながら受けていた。

 

 

昼は、急に現れた坂田という、伊中と共に生徒会をやっている男に捕まり、一時は昼抜きになるところだったが、間一髪でそれを阻止し、無事に庄司との約束を果たす事が出来た。
本当ならば、昼は学食で、という約束だったが坂田のせいで、それは叶わなかった。

その為、購買で買ったパンを生徒会室で食べる事になったのだが、しかし、まぁ、あれはあれで良かったと言える。
生徒会室には宮古達3人しか居なかったお陰で、落ち着いて食べる事ができたし、食べ終わったからと言って周囲に気を遣って席を立つ必要もなかった。

 

「(……庄司のひみつって何だ)」

 

ただ、宮古は昼以降、自身の中に渦巻く何とも形容しがたい気持ちに苛まれ続けていた。お陰で、このような訳の分からない授業を前にしても、午前程気持ち良く眠りにつく事が出来ず、結果、半分しか眠れていない。

 

まぁ、どうしても半分は寝ているのだが。

宮古は「くあ」と頭を下に向け、小さく欠伸をすると、そのまま机からチラリと携帯を取り出した。いつものように、仲間たちからの返信に値しないくだらないメッセージが山のように来ている。
その中に庄司からのメッセージはない。まぁ、互いに授業中な為、メッセージが来る訳もないのだが。

 

ふと、昨日の夜庄司から貰った写真データが目に入った。そう、ちょうど弟の伊中から連絡が来た時に見て吹き出してしまった“アレ”である。
またしても、思わず吹き出しそうになるのを、宮古はグッと堪えた。

 

その画像。それは庄司が昨日の夜、別れた後に送ってきた“とっておき”の写真だった。

そこには2日前、電車のホームで至極真面目な顔で手をつなぎ今まさに「バルス!」と叫ばんとする二人の様子が、真正面から写っていた。しかも写真は1枚ではない。複数枚存在した。「バルス」と叫んだ瞬間、それを他人に見られて二人して顔を合わせる瞬間、みるみるうちに真っ赤になる瞬間、二人して手を繋ぎながら駆け出す瞬間。連続して見ていくと、それは正にパラパラ漫画のように、あの時の二人の様子を克明に写し出していた。

 

確かにあの日、二人の様子を向かいのホームで写真に収める女子高生が居た。この写真は、どう考えてもあの女子高生が撮影したものだ。
昼を食べながらこの画像について聞いてみると、またしても庄司らしいカラッとした答えが返ってきた。

 

『たまたま、帰りの電車にあの女の子が居たから貰ったんだよ!すげぇ偶然過ぎでもう、笑ったわ!』

 

そう言って、すっきりと笑ってみせる庄司に宮古は「本当にそんな偶然あるのか」と本当に驚いたものだ。しかし、実際こうして写真はあるし、庄司が見せてきた携帯の画面には、あの写真を撮った女子高生と思しき、女の名前のメッセージルームがしっかりと出来上がっていた。

 

この庄司のフワフワとした掴めなさは、何故か相手に警戒心を抱かせない不思議な力がある。そして、庄司自身の性格もその不思議さに似合った魅力で溢れているのだ。
急に現れた赤の他人の男子高校生に、なんの躊躇いもなく連絡先を教える相手の女よりも、やはり宮古にとっては庄司の方が心配で仕方がなかった。

 

「(誰にでもホイホイ声をかけやがって)」

 

写真の中で、まるで自分だとは思えない程笑う自身の姿に、宮古は小さく息をついた。

 

「(庄司、お前の言えないひみつって何だよ)」

 

写真の中で自身と共に大いに笑う庄司を見て、宮古は答えの無い問いに少しだけ焦りを覚えた。宮古には、もう余り時間がない。この“伊中”という姿カタチは、もうすぐ本当の“伊中”に返さなければならないのだ。

 

『ほんと、俺、お前の事好きだわ』
『こんなに面白い生徒会長なら、もっと早く仲良くなってたら良かった』

 

そう言って笑う庄司の隣も、なにもかも。全部、伊中のものになる。庄司は今日の坂田のように、中身が入れ替わった後、その伊中が宮古自身ではない事に気付いてくれるだろうか。
もしかしたら、何事もなかったかのように、庄司の毎日には弟の伊中がすげ変わってしまうかもしれない。

山戸伊中という人間は、元来、人を惹きつける特別な何かを持っている。それは、昔から一番近くに居る宮古がよく分かっている。
だから、坂田のように妄信したような人間を生み出すのだ。

 

『おーい!伊中!生徒会終わって暇なら、俺とあそぼーぜ!』

 

なんて。
まるで、山戸宮古という人間など、最初から居なかったかのようになってしまうかも。
そう、宮古自身がこの姿になって実感した「自身という存在が、そこまで他者に影響を与えはしない」という、入れ替わった当初はスキップをする程嬉しかった事実が、今ここに来て重くのしかかった。

 

「(ひみつって、なんだよ)」

 

ぐるぐる、ぐるぐる。
最早、半分程残っていた筈の眠気すら消えてなくなっていた。こんなに頭の中で行ったり来たりと考え尽くしたのは、いつぶりだろうか。いつも、考えるよりまずは行動で答えを見つけてきた宮古にとって、コレは行動だけでは解決できない難題だった。

どうすればいいのか、宮古には全く分からない。もはや、自分自身が何にこんなに苦しんでいるのか、それすら分からなくなっていた。

 

 

「伊中!おい、伊中!」
「っ!」

 

急に現実に呼び戻された。
宮古は俯いていた顔をとっさに上げると、そこには不機嫌そうな表情を浮かべる坂田が立っていた。どうやら、いつの間にか授業は終わっていたらしい。

 

教室の中を見渡すと、皆各々帰り支度をしている者も見られる事から、授業どころかHRすら終わっているようだ。宮古はどこまで自分が深い、深い思考の中に浸かってしまっていたのか理解し、呆れるしかなかった。
もしかしたら、寝ていたのではとすら思える程、周りの状況など気にならなかった。

いや、気にしてなどいられなかった。

 

「授業が終わったら生徒会室に来いって言ってただろうが」
「あ、あぁ」
「もう、橘はとっくに生徒会室に来てたぞ」
「庄司が?」
「何が楽しいのかは知らんが、生徒会室ではしゃぎまわってる。鍵は閉めたと思ったんだが開いてたみたいで、一番乗りしていた」

 

言われた宮古がとっさに携帯を見てみると、そこにはまたしても用件のみの一言メッセージが来ていた。

 

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先に生徒会室に居るからなー!はよ来い!
———-

 

宮古は何の答えも出ないまま、ただ、庄司が呼んでいるのならとすぐに立ち上がった。考えるのは苦手だ。だから、宮古はいつも通り、考える事は放棄し動き出す事にした。

 

 

 

 

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