15:同日

 

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「あー、もう疲れたー!」

 

庄司はもう真っ暗になってしまった校舎を背に、大きく背伸びをした。時計を見ると既に8時を超えている。もちろん校舎にも、グラウンドにも誰一人として生徒は残っていない。
庄司の隣では、庄司以上に疲れ果てた顔をしている伊中の姿がある。

 

「疲れた……」

 

囁くように呟かれたその言葉に、庄司は労いの意を込めてポンポンと伊中の肩を叩いてやる。今日もラーメンでも食べに行きたい気分だ。

そう、疲れ果てる二人を他所に、その隣ではスンとした表情で眼鏡を上げる坂田が居た。

 

「だから、言っただろうが。本気で手伝ってもらう、と」
「いやぁ、予想以上の仕事量でした。生徒会が代替わりに際するお世話になった地元商店街と協賛企業へのお礼状書き50通、新部活動の発足書の訂正と部活動調査、生徒会室の代替わりに際する整理……これ絶対3人でやる仕事量じゃないですよね!?他のメンバーの方々はどこへ行かれてしまったのかな!?」
「皆、インフルエンザでな」
「予防接種してくださいよ!」

 

庄司は叫びながらも、思わず笑ってしまっている自分に気付いた。疲れ果ててはいたが、満足感の大いにある疲れだ。なにせ、生徒会業務の一つ一つが懐かしく、そして面白かった。人数は少ないものの3人でゴチャゴチャと話し合いつつ行うその全てが、過去、庄司が経験したあの日のままだったからだ。

 

「まぁ、橘。お前の仕事ぶりは大したものだ。真に受けて正解だったよ」
「でしょう?俺、こう見えても仕事めちゃくちゃ出来るヤツなんですよ!」

 

なにせ、全て経験済みな事ばかりだからだ。月日と共に様変わりしているものもあるが、仕事の本質というのはそうそう変わるものではない。

 

「ならば、明日も頼むぞ」
「まぁ、別にいいですよ。どうせ、暇ですから」

 

どうせ暇な上に学校で正式に授業があるのは金曜である明日が最後だ。庄司の休みも、本当に少しずつ終わりが見えてきた。

 

「悪いな。庄司」
「なんで、伊中が謝るんだよ。たぶん、アレだろ?俺が3日間お前を連れまわしちゃったせいで、仕事が溜まってたんだもんな。この位、一緒にやらせろよ」

 

引継ぎ間近の多忙な生徒会長とは思わず、本当に二人で何も考えずに3日間、思い切り遊んだものだ。あれはあれで楽しかったが、こうして仕事をしたとしても庄司にとっては伊中と遊んでいる事には変わりなかった。

 

「伊中、明日も頑張ろうなー」
「あぁ」
「なぁ、今日もラーメン食べて帰ろうぜ」
「あぁ」
「坂田先輩もどうです?一緒に商店街でラーメンなんて」
「いいな、行こうか」
「坂田、お前門限7時とか言ってなかったか」
「もう過ぎてるだろうが。露骨に俺だけ帰そうとするのが丸見えだぞ、伊中」
「ちっ」
「二人って仲良いっすよね」
「「どこがだよ」」

 

傍から見ると仲良さげに肩を並べて下校する男子高校生3人の姿。
しかし、その一人が本当は29歳のサラリーマンだなんて、誰が思い至ろうか。
商店街に向かう交差点。その向かい側には駅前の電光掲示板の大画面に、夕刻のニュースが映る。

 

『今年のハロウィンは日曜日という事もあり、毎年多くの賑わいを見せる繫華街では、事前に区長と警察の対応が話し合われています』

 

庄司はそのニュースにチラリと目を向け、すぐに視線を逸らした。青に変わる交差点。庄司は伊中の隣を、できるだけゆっくりと歩いた。

 

 

10月28日
ハロウィンまであと3日

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