その19:幕間6 家庭訪問(1)

 

 

 一郎は、午前中で全ての授業を終え、本日より始まる家庭訪問の為、ある家の座敷へと通されて居た。そこは一郎が予想していた洋風の家ではなく、昔からずっとそこにあるような古い瓦屋根の一軒家だった。座敷も、一郎の数メートル隣には大きく立派な仏壇が置かれており、それにはその家の長い歴史が感じられた。

 その広い座敷の真中に通され、そして座らされた一郎の元へ、ドタドタとやかましい音が近付いてきた。

 

「あはは!ほんとにせんせーが来た!」

「こらっ!ドタドタ音を立てない!先生には敬語を使う!」

 

 親子そろってよく似ている事で。そう思わず苦笑したくなるような騒がしい親子の登場に、一郎は思わず笑った。

 

「先生、よくいらっしゃいました!今日はよろしくお願いします」

「おねがいしまーす!」

 

 そう言って一郎の前に座る親子。瀬川 一郎とその母親。

 一郎は頭を下げてくる母親に「こちらこそよろしくお願いいたします」と頭を下げると、家庭訪問たる本題に入り始めた。まず、自分が新しく赴任してきた教師である事を伝え、家でのイチローの様子を尋ねる。

 まぁ、予想通りのイチローの生活態度に、一郎はまた笑うしかなかった。元気の良さは母親譲りか。一人っ子であるイチローはこの家でのびのび育っているようで、一郎を安心させた。

 母親との会話の中にちょいちょい口を挟むイチロー。そしてそれを窘める、その母親。そこにあるのは、どこにでもあるような、しかしとても幸せそうな親子の姿だった。

 

そして。

 

 家庭訪問も終盤に差し掛かってきた頃。

一郎はふと、昨日の給食時間の事を思い出し、母親の隣で何か一生懸命騒いでいるイチローに小さな悪戯心が働いた。

 

「あぁ、イチロー君。そういえばトマトが大嫌いだそうですが、おうちではきちんと食べていらっしゃいますか?」

 

 一郎がそう尋ねた時。一郎は、イチローの母親が「あんた!またトマト残してるの!?」とイチローを叱り飛ばし、そしてイチローが慌てて弁解する図を想い描いていた。

 自分がそうだったように、きっと母親から無理やりトマトを食べるように叱られるに違いない。そんな小さな悪戯心の筈だった。

 しかし、その言葉に対し、一郎は予想外の言葉を母親から受ける事になる。

 

「え……?うちの子、トマトは大好物ですけど?」

 

 そう母親が心底不思議そうに一郎を見つめる中、その隣でかやましく喋って居たイチローが途端に口をつぐんだ。

 イチローには珍しくその表情は、色を失い真っ青なものだった。

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