その22:甘い未来を見てみたものの

 

市立山都中学校

3年2組

出席番号18番

 

森田 敬太郎

 

 

あぁ、受験生って本当に嫌だなぁとか思いつつ、授業中もガッツリ居眠りをする、普通の15歳。

それが、俺、森田 敬太郎って奴です。

 

 

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その22:甘い未来を見てみたものの

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 あつい。

それに、何だかやけに周りが騒がしい。

誰だよ。

もう少し、静かにしてくれ。

俺は今すっげー、ねむいんだよ。

 

俺がそう思って少しだけ体をよじらせた時だった。

 

「ほら、静かにしろ!昨日の過去問の答えを配るぞー」

 

 俺は騒がしい教室の中、突然耳の中に飛び込んできた懐かしい声にハッと顔を上げた。

 あれ……?

ここは……?

 

「あぁ、そうだ。森田」

 

 森田……?ここ学校か?

 俺は教壇の前で叫ぶくたびれたスーツを着込む教師を無視し、キョロキョロと周りを見渡した。そこには、小学校ではありえない学ランとセーラー服に身を包んだ生徒たちが、何故か一様に俺の事を見ている。

 

「森田!おい!聞いてんのか!?」

「っ!?」

 

 俺が周りの状況についていけないでいると、突然、俺の机の目の前に眉をしかめた教師がズンズンと近付いてきた。うお、なんか怒ってるぽい。

 

「森田!お前!授業中だけじゃ飽き足らず、HRまで居眠りとは、いい度胸してんな!」

「あ、え……?」

「お前……まだ、寝ぼけてんのか?いい加減にしろよ。もうすぐ受験本番だっていうのに、本当にいつまでも呑気な顔するなよ?ほら!」

 

 受験?え、あれ?

 俺は教師が差し出してきたソレへと目をやると、そこには2枚のプリントが重ねて差し出されていた。

 これは、もしかして。

 

「これ、野田の分のプリントの答えだ。今日も、持っていって貰えないか?」

「……あ、はい。わかりました」

 

 俺は心臓がドキドキとうるさく鳴り響くのを感じながら、そのプリントを受け取ると、それは案の定……あの日、俺が手にする事のなかった、あのプリントの答えだった。

 

「おい、敬太郎。お前、寝過ぎ」

「……俺、そんなに寝てた?」

 

 俺はニヤニヤ笑いながら俺に話しかけてくるクラスメイトに目を瞬かせながら尋ねると、相手は更におかしそうに口を開いた。

 

「そりゃあもう、グッスリ寝てたぜ。ミッチェルがどんだけ敬太郎に怒鳴り散らした事か。お前、あの怒声の中眠れるなんて、最早その睡眠は天才レベルだな」

「お前、こうなる前に起こせよ。薄情者」

「一応物差しでつついたっての!敬太郎が起きなかっただけじゃん」

「……うぁー、もう。これじゃあ、明日の数学またミッチェルに当てられまくるじゃんか」

「ドンマイ。ドンマイ。まぁ、次も寝てシカトすりゃいーじゃん?」

「ばっか、んな事できっか」

 

 俺はそう相手の軽口に乗っかりながら、いつの間にか自分がどうして起きた瞬間あんなに混乱していたのかわからなくなっていた。

 此処は、俺の通う市立山都中学校で、俺はその3年2組に所属。俺は数学担当で、俺らの担任でもある三橋先生こと、ミッチェルにいつも寝ているところを叩き起こされる。

 そして、今もこうしてHR中に寝ていた俺をミッチェルが叩き起こし、俺は次の日の授業の心配をするのだ。ミッチェルは俺が寝ると、寝ないように集中的に授業中に当ててくる癖があるから。

 

 あぁ、なんだいつもの事じゃないか。何を焦る事があるんだ。

 俺はツラツラと進められるHRの中、手元にある過去問のプリントの答えに目をやった。

 

「おい、敬太郎。お前、今日もそれ、野田ん家に持って行くのか?」

「え、あ、あぁ。そうだけど」

 

 俺は“野田”という名前に一瞬誰の事だかわからなくなり戸惑ったが、すぐにそれが一郎の事だと気付いて頷いた。

 

「お前大丈夫か?野田ってスッゲェ問題ばっか起こしてんじゃんか。怖くねぇの?」

「はぁ、別に怖くねぇよ。一郎は俺の幼馴染だぞ?幼馴染を怖がる奴があるか」

 

 俺はそう小さな声でコソコソと相手に伝えると、妙に自分が嬉しい気分になっている事に気付いた。そうだ。

 今日もこれを一郎の家に持って行って一緒に昨日やったプリントの答え合わせをするんだ。今日の授業はけっこう頑張って起きてたから、一郎に少しくらいマシな説明をする事ができるだろう。

 

「あー、早く一郎の家に行きてー」

「お前、ほんと変わってんな」

 

 何とでも言え。

 俺は呆れたような顔で俺を見てくるクラスメイトを無視し、手元にあるプリントを力強く握り閉めた。

 学校が終わったらすぐに一郎の家に行こう。そして、今日は母さんに電話して、一郎には夜は俺の家で食べようって誘うか。久しぶりだし、母さんも一郎に会いたがってたもんな。

 

 あぁ、楽しみだ。

 

 俺は知らず知らずのうちに表情が緩むのを抑えられず、顔を俯かせて小さく笑った。

何がこんなに楽しいのか、嬉しいのか、全然わからない。けど、俺は何となくわかっていた。

 

あぁ、幸せな、

 

 

 

 

 

夢だなって。

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