エピローグ3 イチロー

 

 

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エピローグ3 イチロー

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「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

俺は両手に鉢植えを持ったままだから、手を膝について息を整える事もできない。

けど、俺はそんな事気にしていられなかった。

俺はこのプチトマトを、どうしてもイチローに早く渡したかったのだ。

俺は乱れる息のまま、一郎の家の玄関まで走ると勢いよく玄関の前で叫んだ。

 

「イチロー!!イチロー!!」

 

イチローの家には呼び鈴がない。

その為、こうやってイチローを呼ぶしか、俺には方法が無いのだ。

俺が玄関の前であらん限りの声を張り上げていると、玄関の奥からドタドタと何やら騒がしい音がこちらまで近付いてきた。

 

「けーたろ!!」

 

ガラガラと横開きのドアが勢いよく開かれ、その奥から、まだパジャマを着たままのイチローが驚いた顔で俺の前へ現れた。

そう言えば、俺も着替えてないせいで、パジャマのままだ。

 

「けーたろ!どーしたの!?」

 

突然現れた俺にイチローはビックリしたような顔で俺と……俺の持っているプチトマトの鉢植えを交互に見た。

そんなイチローに、俺は勢いよく植木鉢をイチローの方へ突き出す。

 

「イチロー!これ上げる!」

「っへ!?」

 

俺の言葉に、イチローは目を瞬かせると、瞬間的にもごもごと何か言いたそうな顔になった。

けど、俺はイチローにその言葉を言わせるつもりは微塵もない。

 

もう、イチローに嘘は吐かせない。

 

 

「俺!トマト好きなイチローが、好きだよ!」

「っ!」

 

俺のその言葉に、イチローの表情が驚きに染まり、そしてみるみるうちに笑顔に染まっていった。

 

 

「ほんと?けーたろ、俺の事すき?」

「うん!大好きだ!」

「トマト食べれても?」

「当たり前だよ!」

 

 

俺がそう言った瞬間、

 

イチローは鉢植えを持ったままの俺に、勢いよく飛びついて来た。

俺はなんとなくそうなるのが予想できていたので、とっさに飛びついてきたイチローから避ける。

 

そんな俺に、イチローは不満そうな表情を向けてくる。

だって仕方ないだろう。

このまま抱きつかれたら、俺の方にせっかく育てたトマトが倒れてきてしまう。

 

だから、

 

「イチロー!」

「っうわ!」

 

俺は地面に鉢植えを置くと、不満そうな表情を向けていたイチローに向かって勢いよく飛びついた。

イチローは俺がそんな事をするとは思っていなかったのだろう。

突然の思いがけない衝撃にイチローはそのまま地面に尻もちをついて倒れた。

もちろん、俺ごと。

 

けど、俺はイチローを離さない。

だって、いつも一郎は俺の事離さないだろう。

 

 

「イチロー!大好きだ!」

「けーたろ!」

 

 

俺の言葉に、イチローもそのまま俺の背中にしっかりと腕をまわして抱きついてきた。

 

 

大好き、大好き、大好き

 

そう言いながらゴロゴロと玄関先でパジャマのまま転げまわる俺達に終わりを告げたのは、ガタガタという物音に、何事かと慌てて走ってきたイチローのお母さんだった。

そして何を勘違いしたのか、イチローのお母さんは俺たちの頭を勢いよく叩くと一言、ぴしゃりと言ってのけた。

 

 

「ケンカしないで、仲良くしなさい!」

 

 

そう言われた瞬間、俺とイチローはまたもや顔を見合わせて思い切り笑ったのだった。

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