2:授業参観

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ダスダスダスダ。

 

ある一人の男は走っていた。

勢いよく玄関を開けて、飛び込むように家の中へ入る。

 

その男は見た目20代後半程に見え、その格好は上がシャツと下がジーンズと言う、なんともシンプルな格好であった。

しかし、男の短く切りそろえられた髪と、その明るい表情には、その格好はとてもよく合っていた。

男は玄関から家の中へ入り、リビングのある部屋の扉を突撃するかのような勢いで開け放った。

 

 

男の名は瀬川志郎。

しかし、この家の玄関の表札は篠原と掲げられている。

そう、ここは男の家ではなく、彼の幼馴染の家だった。

 

 

「けー!早くしろー!イチローが俺を待っている!」

「はぁ?何やってんだよ。志郎?」

「はぁ?じゃねぇよ!けー!今日は待ちに待った父親参観だろうが!早く行かないとイチロー達の授業始まっちまうだろうがっ!」

「ちょっと待て!まだ8時30分だぞ!?参観が始まるのは10時からだろうが!」

 

リビングでゆったりとテレビを見ていた男はいきなりリビングに駆けこんできた、己の幼馴染、志郎の姿に目を見開く。

 

男の名前は篠原圭。

この家の主人たる男だ。

 

圭が予想外にも幼馴染の口から飛び出してきた言葉に「はぁ!?」と呆れたような表情を浮かべていると、奥のキッチンから妻の篠原律子がエプロンをかけたまま此方へとやってきた。

 

「あら、あなた。もう行くの?さっき敬太郎が学校に行ったばっかりよ?」

「いや、志郎が勝手に……」

「いやぁ、りっちゃん!おじゃましてまーす。父親参観始まるからさ、けー連れて行くよー!」

「いや、だから10時からだって」

 

先程から再三言っている圭の言葉は全く持って志郎には聞き入れられない。

それどころか、志郎は圭の腕を掴むと座っていたソファから無理やり立たせようとすらしてくる。

そんな志郎に律子も何を思ったのかパァと一気にその表情を明るくした。

 

「瀬川君、うちの乗せてってくれるの?助かるわー。今、車検に車出してるんだけど、あの代車乗りたくなかったのよねぇ。今日、車使う予定あったし」

「律子、だから参観は10時からで……」

「りっちゃん、気にしないでくれ。俺が責任もってけーを学校に居る敬太郎君に会わせてやるから!」

「よろしくお願いするわね」

「だから10時……」

 

そう言いかけた圭の体は、更に強い力で腕を引っ張ってきた志郎によって無理やり立たされていた。

そして………

 

 

「早く行くぞ!けー!」

「ちょっ!待て!だから10時だって!」

「イチローは9時からだっつたんだよ!」

 

 

それ絶対間違ってるぞ!

 

そう叫ぶ間もなく、圭は走る志郎に無理やり引っ張られ玄関をくぐらされ、そして車に押し込まれた。

 

かろうじて着替えを済ませていた圭は、慌ただしく財布や携帯すら持つ事なく家を後にした。

途中、圭は部屋の壁にぶつかり、玄関では転びそうにもなったが、その腕を掴む志郎の手が圭を離す事はなかった。

 

「久々の休みに息子とコミュニケーション!俺、いい父親!」

「10時……」

 

晴れやかな笑顔を浮かべる志郎と、助手席で疲れたように項垂れる圭。

二人の父親は対照的な表情で、篠原家を後にすると、車を己の息子が向かう小学校まで走らせた。

 

本日、日曜日。

その日は、敬太郎とイチローの学校で行われる父親参観の日であった。

 

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