46:再会

 

 

 

「おら、ここが待ち合わせの場所だ。入れ」

「うわぁ……!」

 

 俺達みたいな良民の血税は、こういった所に使われているのか。俺は目の前に広がった光景になんとも言えない不条理を感じた。

 

「広いうえに……おしゃれ!」

「あんまキョロキョロすんな。おのぼりさんじゃねぇんだから」

「おのぼりさん?」

「田舎モンって事だよ」

 

 そう言ってアボードに通された寄宿舎の談話室と呼ばれる場所は、一言で言うととても小綺麗でおしゃれだった。騎士と言っても汗臭い男たちの集団が居座る場所に変わりないので、とんでもない部屋を想像していたが、そんな事は一切なかった。

 

 フカフカの椅子が至る所にあり、今はまだ点けられていないが立派な暖炉もある。壁には隊同士で写出し合ったのだろう、複数の描画が立派な額縁にたくさん飾られていた。

 

 しかも、連れてこられている途中にチラリと見た騎士の部屋は下っ端でも一人一部屋用意されているようで、どう狭く見積もっても、俺の部屋の3倍はありそうな広さだった。

 

 まぁ、騎士の部屋が広いというよりは、俺の部屋が狭すぎるだけかもしれないが。

 

「血税の無駄遣いだ!」

「ったく、何言ってんだよ。まだ、トウの奴来てねぇみてぇだな」

 

 トウ。

 どうやらそれが俺に会いたがっているというアボードの同僚らしい。俺に何を期待しているのかは知らないが、どう頑張ってもその期待には応えられないので、現時点で非常に申し訳ない気分だ。

トウ、本当にごめんな。

 

「トウの事だ、休みだっていうのに一人で訓練でもやってんだろ。いい、俺が呼んでくる」

「お前って本当に待てない奴だよな」

「あぁ、俺は待てないね!人生に無駄な時間は一瞬だって存在しないんだからな!俺らはいつ死んでも仕方ない仕事をしてんだ!」

「お前の生きてる世界はいつも物騒過ぎる。待つ時間も楽しめよ」

「黙れ、お前と俺は生きてる時間が違うんだよ!」

「ハイハイ、そうですか」

 

 何故、こうもアボードは生き急ぐのだろう。しかし、この性格は幼い頃からそうだったし、なんなら前世からそうなのだろう。

「大人しくしてろよ!」そう吐き捨て談話室から出ていったアボードに、俺はと言えば談話室を少しだけ散歩する事にした。

 

 俺はと言えば、別に待つのは嫌いではない。こうしてのんびり待つ時間にも、何か

楽しい事があるかもしれないのだから。

 

「描画がいっぱいだなぁ」

——どれ、アボードでも探してみようではないか。

 

 俺は端から並べられている描画の一つ一つにゆっくりと目を通す。それぞれの隊で制服の色が異なるのだろうか。アボードのような青い制服に身を包む者も居れば、黄、赤、緑などその色は数種類に及ぶ。

 

 そして、写出されるその誰もが精悍な顔つきをしており、その目の奥にはアボードと同じ意思の強さを感じる。

 

「アボードが青い制服だから、青の所を見たらいいのか?」

 

 俺は後ろ手を組みつつ、部屋を東から西へとゆっくりと描画を眺めつつ歩く。その途中、やっと青い制服の騎士達の写る描画が目に入った。

 

「この辺だな」

 

 遠くから訓練をする騎士の声だろうか。威勢の良い声が小さく聞こえてくる。こういう音とは無縁の生活をしているため、少しだけ新鮮だ。

 

「ん?」

 

 すると、俺はある一枚の描画の前で、ハタと目が留まってしまった。

 見覚えのある人物。アボードではない。

 更に一歩、描画に近寄る。見た事がある顔。一体どこで見たのだろう。

 

「あ」

 

 俺が短く声を上げた瞬間、談話室のドアが勢いよく開いた。その音に俺はとっさにドアの方を振り返ると、そこには一人の体の大きな男が立っていた。

 

 その顔を見た瞬間、俺は勢いよく記憶が俺の体中を駆け巡るのを感じた。

 

「…………っ!」

 

——-やっぱり……インだった

——-イン!やっと会えた!俺だよ!フロムだよ!

 

 

 それは、あの夜、俺を前世の親友だと勘違いして腕を掴んで来た男だった。どうやら相手も俺を見た瞬間に全てを思い出したようで、みるみるうちにその表情は緩んでいく。

 

 最早、泣きだす寸前のような表情の男は、その体の大きさに似合わずとても寄る辺ない顔をしていた。

 

「イン……」

 

 その言葉に、俺はハッとして先ほどまで見ていた描画に目を向けた。

 あぁ、やっぱりだ。

 先ほど描画内で目に留まった男。その男こそ、やはり今、目の前に立つこの男で間違いない。だから見覚えがあったのか。

 

「イン……インだよな?なんで、あの時、逃げた?」

「ち、違う俺は……インじゃない!」

 

 そっと一歩ずつ近寄ってくる男に俺もまた一歩ずつ後ろに退く。しかし、悲しいかな。すぐ後ろは描画の掛けてある壁があり、俺はそれ以上後ろに逃げる事は叶わなかった。

 

「インじゃない訳ないだろう!お前はあの日の夜、俺達との話を他の客にしていたじゃないか!」

「まぁ、確かにそうではあるんだけども!落ち着け!話せば分かる!」

「インなんだろ!?」

「インじゃないって!よしよし、そこに座り給え」

「また逃げる気だろ!そうはさせない!」

「そうはさせて!」

 

 俺の気持ちを読んだかのように、男は一気に俺との距離を詰めると、その大きな体で一気に俺を抱きしめていた。

——-死ぬほど苦しい!

 

「イン!イン!俺はずっとお前に会いたかった!もちろんオブもそうだ!お前は違うのか!?頼むからオブにも会ってやってくれよ!お願いだ!逃げないでくれ!」

「ぐふう」

 

 

 最早、余りの強力な力で息絶えるかと思われた時だ。またしても談話室のドアが勢いよく開け放たれた。

 

 

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