3:サプライズ

 

その間に、ヤスキは妙に拓道に懐かれていた。

 

 

『ヤスキせんせー!ちょっときてー!』

『拓道くん?』

『ねぇねぇ!壁ドンすっけん、ヤスキせんせー、ここ立って!』

『ぶはっ!今日はポスターにしなくていいの?』

『今日からヤスキせんせーですっこつしたと!オレの壁ドンレベル上がったけんさ!』

『はいはい。ここでいいのかな?』

『おっけーおっけー!オレ、マジで上手になったけん!見よってー!』

 

理由はわからない。

しかし、休み時間になると、拓道は例のソロダンスを踊りながらヤスキのクラスに走ってくる。

そしてヤスキを見つけると、突進しながら壁ドンをしてくる。

それを見た他の男子生徒達も真似をしてヤスキに壁ドンをしかけてくるようになった。

 

お陰でヤスキは、多分この世で一番壁ドンをされたであろう教師になったのだ。

 

壁ドンをされながら、どこで覚えてきたのか『スゲェ好き』と決め顔で言われた時は、ヤスキも吹き出し思わず携帯で写真を撮らせて貰った程だった。

その後はその『スゲェ好き』もブームとなり、あちこちで『スゲェ好き』と言い合う男子が急増した。

 

小学生男子の流行りとは、時に常軌を逸する。

 

 

『はーい!今日でビデオ撮影も最後だ!みんなで気合い入れてメッセージいくぞー!』

 

指導力の忠孝と、発想力の拓道。

そこにお笑い担当のキャラの濃い子供達が加わり、ビデオはなんとも濃い内容になった。

そして最後はクラス全員で『めぐみ先生結婚おめでとー!』と花束を投げる映像で締めくくる事になっていた。

 

その予定通り、忠孝の立派な締めの言葉の後、みんなで『おめでとう』と花束を投げた。笑顔の生徒達の姿に、ヤスキがビデオを止めようとした時だった。

 

突然、拓道が皆の中から躍り出た。

常日頃からソロダンスを披露する拓道のソレは本気で“踊り”出ていた。

そして、躍り出たかと思うと、そのままカメラに至近距離で近づき指をさしてきたのである。

カメラに至近距離で近づくという事は、それはカメラを持つヤスキ自身に至近距離で近づいているのと同義だった。

 

『ゆーいちに告ぐ!オレ達の大事かめぐみ先生とその赤ちゃんば、ゆーいちが守れるかどうか今からテストばするけん!』

 

ゆーいち。

雄一とはめぐみの結婚相手だ。

蛇足だが、めぐみの結婚相手である鬼丸 雄一おにまる ゆういちは同じく大岐街にある、もう一つの小学校の教師である。

 

そんな拓道の突然の行動に、カメラを持つヤスキは目を瞬かせた。

それは同じく他のクラスメイト達も同様だった。

しかし、そんな周りの事などお構いなしに拓道はカメラ越しにヤスキに向かってニヤリと笑ってみせると、更にカメラに向かって叫んだ。

 

『今からゆーいちはめぐみせんせーばお姫様だっこして“スゲェ好き”っちゆー事!ちゃんと出来たかどーかは……』

 

拓道はそこまで言うと、ヤスキの手からスルリとビデオカメラを取り上げていた。

そして、カメラを持った拓道はヤスキに向かってカメラを向け、大いに笑った。

 

『このヤスキせんせーに証拠写真とビデオば撮って来てもらうけん!ちゃんと出来んとめぐみせんせーはやれんけん!ゆーいち、がんばらんねー!』

 

そう言放ったかと思うと、拓道はカメラの停止ボタンを押し『うひひ』と笑い、カメラをヤスキに返してきた。

 

なんというサプライズ。

これはめぐみにとってのサプライズでありながら、クラスメイトにとっても、そしてヤスキにとっても大きなサプライズだった。

最後に映ったヤスキのポカンと呆けた表情は、まさにあの突然の事がなければ撮れないものであったであろう。

 

それはある意味、最後の最後で大きな笑い生む事になる。

そして、それ以上に式場で“新郎による新婦のお姫様だっこ”という一つの実演的なイベントを生む。

 

ヤスキはまたしても拓道の行動力と発想力に舌を巻いた。

拓道はその場に居る事のない出来ない式場の流れさえも、自然と読んで行動したのだ。

本当に“小学生と侮るなかれ”である。

 

終わった後ヤスキは『びっくりしたじゃないかー!面白かったぞ、このやろー!』と拓道の頭をぐりぐりして、そのついでに壁ドンされたりと撮影後のちょっとした達成感を1組の生徒達と分かち合った。

しかし、この拓道のサプライズの本当の目的は別にあった。

それは結婚式当日にヤスキ自身が身をもって知る事になる。

 

 

それこそ、本当に“小学生と侮るなかれ”の結末を迎えた。

 

 

 

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