5:妙な予感

—————

———-

——

 

この結婚式を経て、1組のクラスの後にはヤスキの撮っためぐみのお姫様だっこの写真が額に入れて飾られた。

 

 

そして、4月。新学期。

 

ヤスキはめぐみの代わりに1組の教壇に立っていた。

結婚式の後、めぐみの後任となる1組の担任を4月から誰にするのかという話し合いはなされなかった。

めぐみの強い希望により、後任はヤスキになったのだ。

 

初めてヤスキが正式に1組の担任として教壇に立った時、拓道は余りの興奮に椅子の上に立って踊り出した。

その姿にヤスキは盛大に吹き出しながら、しかし、いつまでの踊り止まぬ拓道にヤスキは本気で頭をグリグリしてやったのだった。

 

こうしてヤスキは24歳の春、正式な担任として1組の前に立ったのである。

 

 

立ったのであるが。

 

『ヤスキせんせー!分度器わすれたー!』

 

拓道の叫びにヤスキはうなだれた。

あのビデオ撮影の日々が嘘だったのかと思える程、拓道は全ての授業に置いて真剣に取り組まなかった。

めぐみやその母親が頭を悩ませる状態に、ヤスキは担任としてやっとぶち当たったのだ。

 

ともかく授業中の態度が12歳とは思えない程の落ち着きのなさだった。

自分の授業が面白くないせいでは?自分は拓道から嫌われているのでは?と本気でヤスキが落ち込む程に、それは酷かった。

しかし、嫌われている云々はヤスキの中でもすぐに払拭された。

 

拓道は休み時間になるとヤスキにくっついてまわる。

ヤスキと目を合せお得意のニコーっ顔で笑ってみせる。

ソロダンスを披露しながら、ヤスキに感想を求める。

壁ドンからストーカーごっこという遊びへと、拓道のブームは変遷した。

ストーカーごっこは単に昼休み45分間、目的の人物を気付かれないように尾行する遊びだ。

 

拓道のターゲットは必ずヤスキだったが。

他の生徒達も思い思いの人物をストーカーしていた。

 

しかし、何故か授業は全然ダメだった。

あれほどに気遣いと発想力と行動力のある子がどうして。

 

ヤスキは一度自分の否定したADHDを改めて選択肢の中に入れる必要があるのでは、と専門書と向きあう日々が続いた。

しかし、そんな時一つのヒントがヤスキの前に転がってきた。

 

授業中、ヤスキはふと拓道を見た。

相変わらず拓道は一心不乱に落書きやら手遊びに勤しんでいた。

またしても注意せねばとヤスキが口を開きかけた瞬間。

 

拓道は顔を上げた。

バチリと合う目。

 

その瞬間ヤスキは拓道のヤスキを見た時特有に生じるあの“にこー”を思いだした。

そして、この時もその顔が出るのだろうな、と思った次の瞬間。

 

拓道の視線は泳いだ。

 

あれ、とヤスキは思った。

目があった筈なのに、目が合っていない。

ためしに少し拓道の視線を追うが、目が合うのに合わない。

 

合うのあに合わない。

そんな矛盾の中、ヤスキはハッとした。

もしや、と思いその日の放課後ヤスキは職員室で拓道の今までの健康診断の結果に全て目を通した。

見るのは視力検査の欄。

1年生の頃から今まで結果は両目共に全てA。

2.0以上の驚異的な結果だ。

 

そしてヤスキは今年の拓道の視力検査の様子を思いだした。

上から順番に、拓道は全て答えた。

一番下のまるで小さな米粒のような○の穴まで。

 

そんな子と、目が合わないわけがない。

 

ヤスキは確信した。そして、拓道の秘めているであろう底知れない何かを思い教師として背筋が震えた。

 

 

 

タイトルとURLをコピーしました