8:進化する子

 

 

しかし、そんなヤスキの見世物パンダ状態もたった1日で幕を閉じた。

それよりも、メガネを常用し始め、見える世界を知った拓道の変化は凄まじかった。

 

いや、それはもう変化という言葉では間に合わない程に。

拓道のソレはもう“進化”と言えた。

 

まず、彼は眼鏡をかけたその日から授業を真面目に聞くようになった。

ノートを取り、それまで授業とは一切関係ない事を口走っていた口が、的を射た答えと質問をするようになった。

 

『せんせー!これ、この問題の説明に、この説明ば加えたら、もっと分かりやすくなるー?』

 

それに伴い、忘れ物が減った。

授業で必要なものは授業を真面目に受ける事で身に付き覚える。

 

『明日の算数の宿題、%の難しかやつやんねー?で、明日は電卓ば持ってこやんやったよねー?』

 

時間割をそろえて持ってくるようになったし、少しではあるが整理整頓もできるようになった。

 

それらは全て授業に対する意欲からくる連鎖反応と言えた。

 

“見える”という、ただ当たり前の事が成せるようになっただけで、拓道の世界と拓道自身は大きく進化したのだ。

理解できる事が楽しくて仕方ないようで、スポンジのように何でも吸収していく子供の底力を、ヤスキは目の当たりにした。

 

そうでなくとも、拓道は元より記憶力や発想力、それに行動力が他の生徒より長けていた。

それに興味関心意欲という、行動の起源が与えられたのだ。

彼はもう無敵だった。

 

ただ、彼の本質。

 

『ふうっふー!ふうっふううー!』

 

ちょっと変わった小学生男子、という部分は一切変わらなかったが。

今日も今日とて見えすぎる世界で、拓道はオリジナルのソロダンスをし、頭をふらつかせて壁に激突している。

メガネをかけたらガリ勉扱いやダサイ扱いを受けていたヤスキの幼少時とは違い、眼鏡をかけている生徒だからと、周りも本人もそういう意識は一切ないようだった。

 

『(黙っていれば……本当にかしこそうな子供に見えるんだけどなぁ)』

 

ヤスキはしみじみと、そんな失礼な事を思う。

それは授業を真剣に黙って取り組む拓道を前にした時、飽きることなく思う事だ。

黒ぶちの、スタイリッシュな眼鏡をかけた拓道の姿は、どこからどう見ても頭の良い落ち着いた子供だ。

 

休み時間になると途端にクネクネと変な踊りを踊り狂う子供にはどうしたって見えない。

 

皆が必死に問題集に取り組む姿をヤスキは教壇から眺めながら、クスリ口角を上げた。

子供と侮るなかれ。

子供とは些細な変化で“進化”してしまう存在だ。

 

それを拓道はその存在をもってして、ヤスキに教えてくれるのだ。

 

拓道が進化し、ヤスキが微笑む。

それは拓道とヤスキが出会って丁度1年が経とうとしていた時だった。

 

 

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