11:こたえあわせ

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『せんせー?呼んだー?』

 

昼休み、ヤスキの後を付けてくる拓道に向かって名前を呼んだ。

すると、最早隠れていたそぶりも見せずにヤスキに駆け寄ってくる。

 

駆けよってくるその小さな体に、ヤスキは微笑むと、いつぞやの視力検査の時のように身を屈め、拓道と視線を合せる。

 

『拓道君』

『なん?また視力検査―?』

『ううん、違うよ。昨日の作文、先生読んだから、先生になりきった拓道君に、答え合せをしようと思って』

『………!答え合せ!うん!するする!して!』

 

ヤスキの言葉に興奮気味に首を縦に振る拓道。

首を振りすぎて、眼鏡がズレてしまったのも気にしない拓道に、ヤスキは、スっとその顔から眼鏡をはずしてやった。

突然、ぼやけてしまった視界に拓道は息を呑む。

 

ぼやけた視界はたかだか1カ月ぶりだというのに、“見える”世界を知ってしまった彼にとっては、見えないその世界は不安定で、心細かった。

なによりも、間近にある筈のヤスキの顔すらまともに見えない世界が、より一層拓道の不安をあおった。

 

『先生は、最初……あぁ、めぐみ先生のビデオレターの時だね。あの時、先生は拓道君の事をとても面白くて頭の良い子だと思いました』

『……ぁ』

『それに、とても優しい子だとも思いました。先生をビデオレターの仲間に加えてくれた時、先生はとてもうれしかったから。拓道君は、優しい子だと、思いました』

『……っ』

『そしたら、次は先生は拓道君の担任の先生になったね。その時は、元気で面白くて、クラスを盛り上げてくれる素敵な子だと思いました。壁ドンごっこもストーカーごっこも、先生はずっと笑わせてもらいました。あとは、そうだな……少し勉強が嫌いな子なのかとも思っていました。けど、それは違ったんだと後からわかりました』

『…………』

 

『拓道君は見えていないだけで、勉強も運動も頑張る知りたがり屋の頑張り屋なんだとわかりました。それに、昨日の作文を見て、先生は思いました』

 

平川 拓道。

自分の道を拓く子。

 

『キミは凄く、強い子ですね。他の人の気持ちを想いやれる優しい子で、何でも一生懸命の頑張り屋で、いつも笑っていられる強い子で。先生は楽しみで仕方がない。キミがどんな大人になるのか。想像するだけで、楽しくて仕方がありません』

 

ヤスキはそこまで言うと、手にもっていた拓道の眼鏡をそっとまた彼の顔にかけた。

そして、それと同時にヤスキは立ちあがった。

クリアになった世界で、拓道はしっかりとヤスキを見上げた。

 

その目はどこか少し赤いような気がした。

 

『拓道君?全問正解だった?』

『……んーん』

 

ヤスキの赤味を帯びた目に、拓道は目を奪われたまま彼は静かに首を振った。

そんな拓道にヤスキは静かに、しかしハッキリと言った。

 

『そう。人の気持ちは、いくらなりきっても全問正解できません。お母さんも、めぐみ先生も。拓道君が想像しているモノが全てじゃない。だから、拓道』

 

 

 

見えない溜息に怯えるな。

 

 

 

 

 

その瞬間、平川拓道という少年の人生は、また確かに新しく拓けた。

 

 

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