17:冷たい声

 

 

平川拓道が会場に足を踏み入れた瞬間の歓声は凄かった。

酔っぱらっているが故の訳もない歓声と、芸能人登場という興奮を孕んだ皆からの悲鳴に、拓道は多いに笑った。

 

「みなさん!お待ちかねの俺!参上!」

 

そう言って昔の彼同様に意味のないステップを踏みながら登場した32歳の男は、会場を見渡し見慣れた姿を見つけると、意味のないステップのまま駆け寄った。

 

「眼鏡キャラはもっと知的にせろし!手術すっぞ、お前!最善は尽くしましたがダメでしたパターンで終わるやろうけどな!」

「何だそれ!理不尽過ぎるだろ!忠孝!お前こそ日本地図の編纂に何の役にも立ってないのに忠孝名乗りやがって!報道するぞ!」

 

そう、20年前と同じように話題の中心となった二人の姿に、会場は爆笑の渦にのまれていった。

そして、最初の登場こそはアナウンサー故にきちんとした標準語発音だった拓道だったが、忠孝との会話の一言二言目には、既にあの頃特有の濃い方言へと移り変わっていた。

 

「拓道君、お久しぶりね」

「おおー!めぐみ先生やん!久しぶり過ぎるやろ!デキ婚のめぐみ先生!」

「デキ婚を押す必要性はないでしょうー?平川アナー!」

「いだいいだい!あの頃ば思い出すこの痛み!昨今の教育現場では化石となってしまった体罰行為を今ここに復刻させるデキ婚の敏腕女教師の……ダダダダ!マジだ!いだいだい!」

 

めぐみはスーツ姿の拓道に、昔の如く頭をげんこつでグリグリとしてやると、それを見ていた忠孝や周りのクラスメイト達は笑い転げた。

そうして、ひとしきり拓道が、めぐみのグリグリを受け終えると、やっと落ち着いたように忠孝の隣に腰を下ろした。

 

「はーっ、やっぱ今日来てよかった。ばり懐かしかけんね、みーんな」

 

そう言ってネクタイを緩め始めた拓道に、めぐみは未だに帰ってこないヤスキの席に目を向けた。

その瞬間、忠孝はゴクリと唾を呑み下すと、どこか覚悟を決めたように息を吐いた。

 

「それにしても、ヤスキ先生遅いわねー。トイレで倒れてるんじゃないでしょうね」

「……は?」

 

めぐみの言葉から“ヤスキ先生”という名前が発せられた瞬間、拓道は一瞬にして表情を失くした。

そして、次の瞬間には拓道の目は隣に座る忠孝へと向けられた。

 

「おい、忠孝。どういう事だ」

 

その声は、過去の彼からも、テレビの中の彼からも、そして、登場した瞬間の彼からも、全く想像ができない程。

 

冷たいものだった。

 

 

 

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