1:見当違い

 

 

 

 ここに、高校デビューに失敗した哀れな童貞少年の話をしよう。

まぁ、つまりその哀れな童貞少年というのは俺の事なのだが。そんな、哀れな俺はどうしようもないくらい頭が悪くて、おまけになんか阿呆だった。

 

 少し詳しく俺の事を話すとしよう。

 まず、中学時代の俺についてだ。

 

 

(名前)雑餉隈 啓次郎(ざっしょのくま けいじろう)

 

 

 俺はともかく騒がしい奴だった。声もデカくて、知らない人にもどんどん話しかける。女子からは笑った顔が「人懐っこい興奮した柴犬みたい」という、褒めてるのか、けなしているのかわからない評価を受けていた。

 そして、楽しい事が好きだから何でもかんでも企画した。学級委員長にもなったし、生徒会長にもなった。生徒会長を引退した3年の秋には、文化祭の実行委員長なんてのもやった。

 

 そんな俺はミーハーで、惚れっぽくて。中二の頃学校のマドンナだった上木さんに、屋上から花束を彼女に向かって投げ渡し、皆の前で告白したりもした。

思春期の暴走の集大成である。まぁ、あえなく惨敗したが。

 

 友達は割と多い方。スポーツも得意な方。

友達と遊ぶのに忙し過ぎて、勉強は一切していなかった為成績は余り良くない。いや、余り良くないどころか、死ぬほど悪い。学年順位、下から数えて10番目くらい。

 

 そんなんだから、自惚れや傲慢などではなく、あの学校で俺の事を知らない人間は居なかったと思う。

それが中学時代の俺。

 

 今思えば、俺ってそこそこ人気者だったんだなぁとしみじみ思う。ほんとに、今更だが。

 

 

 

 

 

 そして、現在の俺。

 

 

(名前) 雑餉隈 啓次郎(ざっしょのくま けいじろう)

 

 

 静かで、眼鏡で、地味で、声も小さい。入学して3カ月になるが、クラスメイトは俺を認識しているのかさえ危うい。

所属委員会、図書委員会。役職、特になし。

 

 クラスで気になる女子(もちろん学年のマドンナ)も居るが、彼女が俺を認識しているのかどうか、その辺はかなり危うい。もちろん、告白どころの騒ぎじゃない。

 

 スポーツは得意な方だが、いつも周りからは文化部のガリ勉野郎という感じの括りでまとめられているせいで、球技をしてもパスを貰えない。短距離走で早い記録を出しても、皆、俺の事など見ていない。

 

 友達、なし。入学して3か月も経つのに、本気で一人も居ない。ただ、友達が居ないせいで余りに余った時間を勉強に充てていたら、いつの間にか成績だけは学年1位になっていた。

 

以上。

中学の俺と現在の俺の比較でした。

 

 

 はいはいはいはい。

 どうしてこうなった。

 

 俺は一人、誰からも話しかけられない教室の中で一人頭を抱えていた。周りは楽しげな休み時間中だというのに。俺だけ安定のぼっちである。

 

 あぁ、どうしてこうなった。

 答えはそうだよ、俺のせいだよ。俺が馬鹿で阿呆なせいだ。

 

 中学卒業後の春休み。

 俺達一家は父の仕事の都合で県外へと引っ越しする事になっていた。もちろん、高校も地元の高校は受験出来ない。クラスメイトにも、それは事前に言ってあった。みんな、地元を離れる俺を惜しんでくれた。

 

 そんな時だ。

 卒業間近のある日、中二の時に告白した、学校のマドンナ上木さんが、俺の居ないところでモブな女子達と話しているのを偶然聞いてしまったのだ。

 

『啓次郎君って面白いけど、もう少し落ち着いてて頭が良くて物静かな人なら、私、もしかしたら好きになってたかもなぁ』

 

 それを聞いた15歳の悲しき童貞少年(つまりは俺)が悲惨な勘違いを起こした。勘違いを起こしただけならまだしも、15歳の凄まじいパワーはソレを勢いよく実行に移させるに至った。

 

 今、冷静になって考えてみればアレだ。

上木さんの好きなタイプは知的で落ち着いた奴で、俺はその対極に居たわけだから、そもそもタイプじゃなかったって事を存外に言っていたのだ。今なら、分かるんですけどね。当時の俺はね、うん。

 

 そんな事にも気付かない15歳の悲しき童貞少年(つまりは俺)は、『そうか、そうすれば女子にモテるのか、ほうほう』という、多感な思春期の勘違いを大きく実らせてしまっていたのだ。その大きな勘違いが立派な花を咲かせるのに、そう時間はかからなかった。

 

『そうだ!新たな土地で心機一転、知的ボーイに高校デビューだぜ!そして、今度こそ俺は女子にモテてみせる!』

 

 頭が良いと言えば、眼鏡だろ。

という事で、めちゃくちゃ視力は良い癖に伊達眼鏡(黒)を購入。俺、形から入るタイプ。

 そして、物静かという事で、無駄にデカい声を小さくする訓練を行った。しかし、やはりどうしてもとっさに出る声はデカくなってしまうので、ひとまず余り喋らないように心掛けた。

 更に、知的という事は頭が良くないといけないという事なので、春休み中、高校の予習をこれでもかという程しまくった。

 

『馬鹿な発言は控えて知的さアピールだ!』

 

 そう意気込んで向かった入学式、そして新たな土地での学校生活。

いつの間にか、俺はただの勉強が出来るだけの、地味で目立たない男になっていた。

 

 馬鹿な発言厳禁。あと、むやみやたらに目立つのも厳禁。

そう己を律して必死に過ごした最初の1カ月のせいで、俺は見事クラスから浮きまくったぼっち野郎に成り下がった。周りはどんどん友達やらグループやらを作り仲を深めて行く中、最初の段階で乗り遅れた俺はあれよあれよという間に、一人ぼっちが標準装備になってしまったのだ。

 

 気付いた時にはもう遅い。

俺の高校デビューは大失敗に終わってしまった。多分、中学の頃の友達が今の俺を見たら「ある意味高校デビューじゃね!?」と言って大笑いするレベル。

 

 逆高校デビューだ。

わお、俺の高校生活、お先真っ暗である。どうしてくれよう。

俺は楽しげに周りで騒ぐクラスメイト達の声を聞きながら、自分に起こった危機的状況をどうにか打開せねばと、必死に頭を捻りまくった。

 

(いや、もう手遅れだろ)そう囁く悪魔と、(まだ諦めるのは早いぜ!)とガッツに燃える天使が居る。しかし、今のところ悪魔が優勢、天使の劣勢。天使を応援しようにも、打開策など一つも出てきはしない。

 

 そう、俺が一人クラスの片隅で頭を抱えている時、教室の後ろが少しだけザワくつのを聞いた。

 

 

 

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