5:一緒にお昼

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「買ってきたよー!」

 

 4限目が終了して5分後。

その時、既に俺は2組の教室に駆けこんでいた。すると、2組は英語の授業が長引いたらしく、まだ授業中だった。

 

「…………え」

 

 俺は2組全員の視線を一気に受けながら、教室の前にかけてある時計を見上げた。

 現在の時刻、12時50分。もう授業は終わってる時間だ。そう思っていると、扉を開けた俺に英語教師は「まだ授業中ですよ」と一言声をかけ、ピシャリと扉を閉めてしまった。

仕方なく、俺は自分の弁当と購買で買って来たパンの入った袋を手に、2組の教室の廊下に座り込んだ。「早く終わらないかなー」なんて、ぼんやりと思いながら。

 

 運動神経は悪くない方だ。

今はこうして無意味に眼鏡をかけているが、眼鏡の癖に運動は得意なのだ。授業が終わった瞬間、俺はクラスを飛び出し、しゃかりきに走って購買に向かうと、到着した購買には販売員のおばちゃんしか居なかった。

 

『さみしー購買だなー!』

 

 母ちゃんから弁当を持たされている俺にとっては初めての購買。中学まで給食だった俺からすると、購買というコンビニのようなものが学校にあるのは、いかにも高校生という感じでテンションが上がった。

しかも、購買に売ってあるパンの種類ときたら。焼きそばパンやメロンパンなどの定番のパンから、納豆パンという聞いた事のない珍パンまで、ありとあらゆる商品が取り揃えられていた。

 

 いつか、母ちゃんがウッカリ弁当を作り忘れて俺に昼飯代を渡してくれるようなハプニングが起こったら、絶対に俺もここでパンを買おう。そう、俺は誰も居ない購買を前に密かに決意した。

 

『みんな、俺と同じママ弁なんだろなぁ』

 

 俺は誰も訪れる事のない閑散とした購買で、焼きそばパンと、人気らしいカレーパン、それにメロンパンを購入した。こんな閑散とした購買の人気商品と言われても、あんまりピンとこなかったけど、購買のおばちゃんが優しく教えてくれたから買う事にした。余ったお金で紙パックのお茶も買った。

 

 そんな訳で準備も万端と、意気揚々としゃかりき走って帰って来たら、2組はまだ英語の授業中だった。俺はこうちゃんに「早く買ってこいよ」と言われているんだから早く買って来たパンを渡したいのに、あの英語教師、自分が授業を延長してる癖になんだよあの態度。

 

 俺が2組の前に座り込んでむっすりとそんな事を考えていると、いつの間にか2組の授業は終わっていたようだ。座り込んでいた俺の頭上に大きな影がかぶさる。

そこには、少しだけ驚いたような表情で俺を見下ろすこうちゃんの姿。その左手には俺の貸した英和辞書があった。

 

 俺はなんだか嬉しくなって勢いよく立ちあがると、こうちゃんに向かって買って来た袋を差し出した。

 

「ほい!約束通り焼きそばパン買って来たよ!」

「……あぁ、本当みたいだな」

「あとねー、おばちゃんがカレーパンとメロンパンも人気って言ってたからそれも買って来た。あとお茶も!」

「……すげぇな」

「なー、500円でこんなに買えるなんて、ここの購買めっちゃ安いね。俺も弁当ない時は、コンビニじゃなくてここ使おう」

 

 俺が購買の商品の安さに感動していると、こうちゃんは俺を変なものでも見るような顔で見ていた。もしかすると、貧乏臭いって思われたのかもしれない。そういうこうちゃんだってワンコインご飯の癖に。

そして、こうちゃんはそのまま俺の差し出した袋を受け取ると、俺の腕を掴んでずんずんと歩いて行った。

 

「こう、会下孝太君は教室で食べないの?」

「ああ」

「どこで食べるの?」

「別に、どこだっていいだろ」

「やっぱ屋上?不良だから」

「てめぇ、いい加減黙ってろ」

「うん、わかった!」

 

 こうちゃんに「黙れ」と言われて、俺は少しばかり浮かれ過ぎて声の音量が中学時代に戻ってしまっているのをやっと自覚した。友達は欲しいが、知的クールを目指す俺の方向性は変わっていないのだから、こうちゃん相手でも落ち着かねば。

 

 友達が増えて学校生活が順調になったところで、以前のように騒がしい馬鹿だと思われては、いざマドンナに告白する時に、この3か月が意味を無くしてしまう。

俺は再度しっかりせねばと胸の中で自分の方向性をハッキリさせると、落ち着かせるように息を吐いた。

 

「ねぇ、あれ」

「なんかやばそうじゃね」

「あの眼鏡だれ?」

 

 落ち着いてみてやっと気付いたが、廊下ですれ違う周りの生徒達が何故か俺とこうちゃんをチラチラと見ていた。しかも、ヒソヒソと何か話しているようだが、俺の顔に何かついているのだろうか。

中学の頃までは余り自覚していなかったが、もしかすると俺はソコソコ不細工なのかもしれない。高校生にもなって、やっと自分の容姿の不細工さに気付くなんて中々ショックだ。

 

 俺が地味にショックを受けていると、唐突にこうちゃんの手が俺の腕から離された。

「ちっ」と舌打ちをするこうちゃんは、後から見てもすぐに分かるほど不機嫌だった。そんなこうちゃんに周りに居た生徒は小さな悲鳴とともに散り散りになって去って行く。

 

 たぶん、こうちゃんはお腹が空きすぎてイライラしてるんだろう。わかる。

 

 散っていく周りとは逆に、俺は腕が離されてしまった為、急いでこうちゃんの隣まで走った。そんな俺に、こうちゃんはどこかギョッとしたような顔で俺を見下ろしてくる。

 

「わかるよ。お腹すくとイライラするもんなぁ」

「……はぁ?」

「俺もなー、お腹すくと凶暴になってな。母ちゃんに口答えするんだけど、だいたい返り討ちに合うんだ。あと、我慢できずにお菓子とか買いに行った時に限って夜ご飯は俺の好きなものだったりする」

「……お前、阿呆だな」

「馬鹿とはよく言われてたけど、阿呆は初めて言われたかもしれない」

「落書きも阿呆くせぇし」

「なにをー。でも今日の古典で書いた源氏物語の登場人物のイラストは、ちょっと上手く描けたんだー。今度見せてやるな」

「……次の古典の時間、そのノート貸せ」

「さっそくか。いいぞー!ごはんの後持ってくな!」

 

 なんだか返事をしてくれるこうちゃんが嬉しくて、俺はついつい声のトーンが大きくなるのを抑えきれなかった。うるさくしてると、またこうちゃんに黙れって言われそうだから、そろそろ黙ろう。

 

 そう思った時、隣を歩いていたこうちゃんが唐突に立ち止まった。立ち止まった場所は「理科準備室」と書かれている。どうやら、いつの間にか教室棟ではなく特別教室棟に来ていたようだ。

 

「ここでいつも食ってる」

「へぇ!いいね!なんか、秘密基地みたいで!」

「阿呆。ガキみたいな事言うな」

 

 こうちゃんは俺の感想に呆れたように呟くと、そのまま「理科準備室」の扉に手をかけた。俺も締め出されないように、こうちゃんにひっついて歩く。すると、その部屋には先客が居たようで、部屋からこうちゃん以外の声が聞こえてきた。

 

「よー、孝太。遅かったな」

「どうせ、購買混んでたんでしょー」

 

 こうちゃんの後ろにひっついて中に入ると、中にはこうちゃんの友達と思われる、これまた学校の有名人達が居た。

 

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