22(エピローグ):雑餉隈啓次郎

 

 

 ここに、高校デビューに失敗した哀れな童貞少年の話をしよう。まぁ、つまりその哀れな童貞少年というのは俺の事なのだが。そんな、哀れな俺はどうしようもないくらい馬鹿で阿呆な男である。

 

 どのくらい馬鹿で阿呆かと言えば、好きな女の子に学校の放送器具を駆使し大掛かりな告白をするも、まさかの告白の相手が不在という茶番を行ってしまうくらい馬鹿で阿呆だ。

しかも、その子普通に彼氏居たし。更にしかも、それ本人からじゃなくてその子の友達から聞かされたし。

まぁ、今回はそんな茶番劇のその後について、少し詳しく話す事にしよう。

 

 告白は茶番に終わったものの、9割方の俺の目的は果たした。俺は無事に友達第一号のこうちゃんを笑わせる事に成功し、あまつさえ「これからも一緒にご飯食べようね」というような感じの事を言ってもらえた。

嬉しいを通り越して思わず涙が出たのだが、それは恥ずかしいのでスルーしよう。

 

 だから、俺はその日の昼休みこうちゃんとピザパンを半分こにして、他にもおばちゃん達からたくさん貰ったパンを二人で分け合った。俺がモグモグとパンを食べていると最初は黙ってみていたタカちゃんとモモちゃんが俺を見て「凄い化けたな」と感心したように言ってきた。

俺的には昨日までの姿こそ化けた姿であって、今の俺は元に戻っただけなのだ。凄かったのはむしろ昨日までの俺なのだが、そこら辺を皆わかっていない。

 

 それは言葉を返せば、俺がいかに鮮やかにこの3カ月……いやもうすぐ7月になってしまうので4カ月近くか。4か月近くの時間を鮮やかに化けていたかが窺える。

 しかし、口々に「今の方が断然いいじゃん」と言いまくる二人に、それまで黙ってパンを食べていたこうちゃんが突然口を開いた。

 

「まぁ、俺は昨日までの方も好きだけどな」

「っほ、ほほほんと!?」

「あぁ、ほんとうだ」

「うひょう!」

 

 もう感激としか言いようがない。

 かっちゃん達にもタカちゃんやモモちゃんにも100%否定されまくってきた俺の高校デビューで、余りにも周りが否定してくるもんだから俺も「やっちまったなぁ」と思っていたのに。なのに、そんな俺の姿を、こうちゃんは“好き”だと言ったのだ。

 

 うひょう!なんという誉れだろうか。

 100万人に否定されても、こうちゃん一人が肯定してくさえくれれば俺は何でも出来る気がする。しかも、昨日の事がまるで嘘のように、今こうしてこうちゃんが俺にかまってくれるのが嬉しくて仕方がなかった。

俺は興奮で顔を真っ赤にしながら、そりゃあもう上白垣さんへのプロポーズの時も言わなかったような事を言いまくった。

 

「俺、こうちゃん好きだ!」

「そりゃ、どうも」

「俺、こうちゃんともっと一緒に居たい!」

「居ればいいだろ」

「俺、もっとこうちゃんと遊びたい!」

「遊べばいいだろ。なんなら今日も遊ぶか」

「っっっっっ!!」

 

 そう言って隣に座る俺の方は見ずにポンポンと頭を叩くこうちゃんに俺のテンションはいよいよぶっ壊れた。俺は嬉しいゲージを超えるとある事をしてしまう癖がある。

 

「こうちゃん!好き好き好き好きちゅーしたいくらい好き!ちゅーしよう!」

「……食べずれぇよ」

 

 俺はテンションMaxになるとキスしたくなるのだ。

 

 我を忘れては居るものの、無意識ではない。ちゃんとそこには俺の意思が存在する。口だろうが頬だろうがどこだろうが、俺自身にもキスは止められない。

嬉しすぎて子犬がオシッコを漏らすあれと似ているね、と昔姉ちゃんから言われた事がある。子犬の嬉ションと同じ扱いを受けるなど心外であるが、ぶっ壊れている俺は最高に嬉しい時なのだから気になんてならない。

 

 俺がここまでぶっ壊れた喜び方をしたのは中1の誕生日の時に、ずっと欲しかったゲーム機本体を親から買って貰って以来だ。あの日も、俺は一晩中、ゲーム機本体に頬ずりとちゅーをしまくって箱がベトベトになったのを、今でも良く覚えている。そんな俺を見て父ちゃんが更に喜んで俺にちゅーしてきたので、この癖は父ちゃんに似たのだろう。

 ただ、父ちゃんには悪いがちゅーは止めて欲しい。するのは良いけど、不本意な相手からされるのは嫌だ。父ちゃんにはマジで申し訳ないけどな!

 

「こうちゃんは俺とちゅーしないといけない!」

「はぁ?勝手にやってろよ」

 

 もう最後はペットに頬ずりする飼い主のような勢いでこうちゃんに頬ずりをしようとしたけど、こうちゃんから食べずらいと顔をどかされた。

興奮すると俺はいつもこうだ。我を忘れる。好きな人には突進していく事しかできないのだ。

 

 そんな俺とこうちゃんをタカちゃんとモモちゃんは最初は笑っていたけど、最後の方はあんまり笑っていなかった。

多分俺が無理やりこうちゃんにちゅーしまくっていたからだろう。俺は昔からよく言われていた。貞操観念がおかしい、と。

 

 けど、こうちゃんも別に本気でやめろって言わなかったから、たくさんちゅーしてやった。気が済むまでしてやった。

 

 けれど、そんな楽しい時間はすぐに幕を閉じた。俺はこうちゃんと準備室を出た瞬間、俺を探しまくっていた教師陣の一人に連行されてしまったのだ。そんな俺を、こうちゃんは笑って見ていた。

 

「また、放課後な」

 

 そう笑って言われたのが余りにも嬉しくて、こうちゃんにちゅーしてやろうかと思ったけれど、俺を取り押さえていた体育教師に頭を叩かれて終わった。

その後教師達に捕まった俺はなんとも恥ずかしい尋問を受けさせられた。

 

「なんで、あんな放送をしたんだ」

「上白垣は居ないのに、何がしたかったんだ」

「何かストレスでもあるのか」

「不安があるなら言ってみなさい」

 

 とまぁそんな感じで、尋問と言うよりカウンセリングのような感じで午後の授業は受けずに終わってしまった。

 先生達は今までの知的クールだった俺が、何かのストレスで頭がおかしくなってしまったと思っているようだった。まぁ、仕方が無かろう。今までの俺の知的でクールな装いと今とでは、天と地ほども差があるからな。

 

 しかも最終的に担任から「今度おうちの人と三人でいろいろ話そうな」と優しげな顔で肩を叩かれてしまった。

 

 お陰でテンションがぶっ壊れる程高かった俺の機嫌は普通の状態に戻った。

 なんていうか、その、ほら。マジで、三者面談とか嫌だ。おうちの人の都合を聞いておきなさいって言われたし。

 

 あれはガチで俺が学校生活によるストレスで頭がイカれた可哀想な子を見る目だった。こんな目で見られるくらいなら連行されてる時みたいに容赦なく頭をぶん殴られた方がまだマシだった。ちなみに、三者面談は下手すると明日とかになりそうで怖い。

 

 そして、現在。

 やっと先生達から解放された俺は走って教室に戻っている最中だ。今日はこうちゃんが「一緒に遊ぼうよ」というような感じの事を俺に言ってくれたので、早く戻ってこうちゃんと遊ばなければならない。

 

 何をしようか。

 お金はないからこうちゃんをうちに呼んで一緒にゲームをしたらいいかもしれない。

 

こうちゃんは何のゲームが好きなのだろうか。

こうちゃんは何のお菓子が好きなのだろうか。

こうちゃんは何のジュースが好きなのだろうか。

こうちゃん、こうちゃん、こうちゃん、こうちゃん。

 

 

「こうちゃん!こうちゃん!こうちゃん!こうちゃん!こうちゃんは今日うちで遊ぼう!お菓子あるよ!ジュースあるよ!漫画あるよ!ゲームあるよ!大歓迎するよ!」

「……わかった。わかったから。とりあえず落ち着け。啓次郎」

「俺にかまってくれ!こうちゃん!」

「わかったっつーの」

 

 

 俺はその後、こうちゃんとタカちゃんとモモちゃんと三人でゲームをした。こうちゃんは家に居る間中ずっと俺の頭を撫でてくれて、約束通りかまってもらった。

 めっちゃくっちゃ、楽しかったです!

 

 

 

 

 

 

 

【雑餉隈啓次郎のおまけ報告】

 

 俺がかっちゃん達に送った姉ちゃんから切ってもらった失敗髪型画像は、いつのまにかかっちゃん達の手によって様々なSNSで公開されていました。

そして、明日は無事に先生がうちに家庭訪問しに来る事が決まりました。

 

以上。

 

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