1:じんないじん

 

 

「へぇ、お前、じんないじんって言うのか?面白い名前だな!じんじんって呼んでもいい!?」

 

 その瞬間、ヤツの人差し指が俺の眉間に突き刺さった。

 

 

 

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阿呆と熱血漢が衝突し合って何かが生まれる話

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 それは俺がまだ12歳、中学1年になったばっかりの事だ。

引っ越しに次ぐ引っ越しの末、中学入学と共に始まった新天地での生活。俺の父は転勤族というやつで、俺はいつも転校ばかりしていた。

 

 しかし、今回はなんと中学の3年間はずっとこの土地に居れるらしい。

今まで1年やそこらで、落ち着く間もなく転校ばかりしてきた俺には3年という長期間を同じ土地で暮らしてゆけるという事実が計り知れない喜びを生んだ。

 

 いや、違う。

 3年間もう転校しなくていいという“保証”の方に、俺はとてつもない安堵をおぼえたのだ。いつまた転校しなければならないという状況での人間関係の構築は、意外とキツイのだ。

 

 それを父ちゃんに言うと泣きそうな顔で、いや泣きながら俺に謝ってくるから、父ちゃんには言わない。父ちゃんが悪いわけじゃ、絶対にないから。

 

 だから、転校の恐怖から解放されるこの中学3年間を、俺はめいっぱい楽しむために友達をたくさん作ろうと思ったのだ。

入学式から1日経った今日が勝負。

 

 入学式は、友達など作る間もなく昼過ぎには学校から帰って来た。

さっそく授業の始まる今日からが俺の友達100人作戦の記念すべき1日目なんだ。

だから俺はさっそくガボガボの真新しい制服で一新された気持ちのまま、嬉しい気持ちで俺の後の席のヤツに声をかけたのだ。

 

「俺、雑餉隈 啓次郎っつーの!よろしく!」

 

 そこまで言って、俺は振り返ったヤツの顔を見てハッとした。

ヤツは俺と同じまだブカブカの制服に身を包んでいたが、なんともまぁ顔が整っていたのだ。髪型は坊主。坊主なのに、イモいとかそういう印象は一切なくて、坊主だからこそ顔の良さが全面に遺憾なく発揮されている奴だった。ヤツの机の脇には野球部のバックみたいなのが引っかけられていたから、きっと野球部に入るヤツなのだろうと俺は思った。

 

「えっと、名前は……」

 

 俺はヤツの顔に目を奪われながら、ヤツの机の右上に張ってある名前シールに気が付いた。それは、入学式である昨日から張ってあった。どうやら今のところ席順は出席番号順、五十音順らしい。

 

 陣内 仁

 

 そう、名前シールには書いてあった。

 そして、次の瞬間、話は冒頭に戻るのだ。

 

「へぇ、お前、じんないじんって言うのか?面白い名前だな!じんじんって呼んでもいい!?」

 

 あだ名は、俺なりの、精一杯の、友好の証だったのだ。この坊主で顔の整ったヤツ、陣内を、あの瞬間の俺は友達第一号にするべく気合いに満ち溢れていたのだ。

 

 なのに、次の瞬間には俺の眉間には陣内の人差し指が突き刺さっていた。

 

「だぁれが、“じんない じん”だ!?俺の名前は“じんのうち ひとし”だ!ヴァァカ!?」

 

 そりゃあもう痛かった。

見事ぶっささった人差し指と、その勢いで、俺は椅子のまま後ろに倒れ込んだ。クラス中が騒然となる中、俺は眉間に走る痛みに、上から見下ろす陣内を睨みつけた。

 

 そして、思った。いや、思った瞬間叫んでいた。

 

「お前なんか!友達になってやんねーもん!」

 

 そう言ってオギャーと起き上がった俺に、何故かクラス中が笑っていた。陣内の奴は中指を上空に突き上げると、ギラギラした目を俺に向けて「こっちから願い下げだ!ヴァァカ!」と叫んでいた。

 

 俺の記念すべき友達100人作戦は1人目から躓きを見せたが、どうやらそのひと騒動のお陰で、すぐにクラスメイトから俺は覚えられた。地元の小学校出身ではなかった俺だったが、この中学はもともと5つの小学校が集まって一つに集まった中学なので、「見慣れない俺=浮く」という事態には至らなかった。

 

 その日を境に、俺と陣内の睨み合いは始まった。

 

 あぁ、いや、違う。

 睨みあいが始まったのはその時からではない。少なくとも、その日から最初の1カ月は、俺が一方的に陣内に睨みを利かせているだけで、当の陣内は俺の事など見向きもしていなかった。

所以、陣内にとって俺など眼中にないようだった。

 

 

 

 何故なら、ヤツは生粋の“熱血野球バカ”だったからだ。

 

 

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