2:ばかとあほ

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「おい!そこ縦二人!雑餉隈!陣内!起きんか!」

「う?」

「あ?」

 

 そうやって授業中ダブルで寝こける俺達二人がセットで怒られるのは授業初日から俺のクラスでは恒例となった。

 

「これは教師生活で初めて言う事だがな……お前ら二人、廊下に立ってろ!」

「え?」

「む?」

 

 そう言って現代では風化したとも思えた“廊下に立ってなさい”も、中学生活一週間で陣内と食らってしまった。

 廊下に立つ俺ら二人を、クラスメイトや友達のかっちゃん達は、擦りガラスごしに笑いを噛み殺しながら見ていたようだが、俺は立っていながらも半分寝かけていた。

 

 一緒に廊下に立たされていたのが、かっちゃんとかならテンション上がっていたかもしれないが、隣に居るのが陣内である。

嬉しくも楽しくもない。

 

 俺は初日の一件以来、この陣内とはガンは飛ばし合っても挨拶はしない、会話なんてもってのほかという感じの関係だった。

故に、居心地が悪いにも程があった。

 

 そんな風に俺が眠い目を擦りながらチラリと隣に立つ陣内を見ると、陣内はいきなりその場でクスワットをし始めた。いや、廊下で立ってろと言われてスクワットをするなんて。しかも、ぼたぼた汗が流れる程本気で、だ。

 

 正直引いた。

 コイツが地元のリトルで名を馳せた野球小僧だった事は、同じ小学校のかっちゃんから聞いていた。そして、中学でも期待の1年投手として3年2年を押しのけてレギュラーの座を奪おうとしている事も。

 

 何より、陣内はとことん野球が好きなようだった。

短い休み時間すら、陣内はグローブを持って駆けだす。どうやら隣のクラスの野球部を誘ってキャッチボールをしているらしい。

野球バカだ、野球バカ。

 

 かくゆう俺も体を動かすのは好きだし、得意な方だ。けれど、ここまで一つの種目に固執した事はないし、なにより「廊下で立ってなさい」の最中にトレーニングを始める程ではない。

 

「暑苦しい」

「んあ?何か言ったかぁ?」

「ハァハァ隣で言うな!キモイ!暑苦しい!汗くさい!」

「言ってろ、ヴァァカ。俺は強くなる為ならなんだってやるんだよ。話しかけんな!」

 

 陣内は俺の事など一切見ずにそう言うと、そのままスクワットを続けた。

俺は内心ムカっとしたが、けれど少しだけ陣内が羨ましかった。そうやって一つの事に無心で打ちこむ姿が、ヤツの整った容姿に関わらず「かっこいいな」と周りに思わせる魅力だと分かっていたからだ。

 

 既にクラスの女子から大いに人気を博している。

 くそ、俺も何か部活に入るべきだろうか。

 

「はぁっ、はぁっ」

「あぁぁぁ!やっぱ、お前うっせぇぇぇ!」

「お前らなんばしよっとか!?」

 

 陣内がハァハァうるさいせいで、俺達はすぐにまた先生に怒られた。「何故、俺まで!」と抗議したが、先生は陣内より俺の方を多く叩いた。

ひいきだ、ひいき。

クラス中の笑いを買う中、俺が叩かれた頭を撫でていると、陣内は何事もなかったかのように席について今度はひそかにハンドグリップで握力強化に勤しんでいた。

 

 くそう。

 俺は内心拳を握り締めたが、ヤツの目には俺など微塵も映ってはいなかった。

初日の「友達になってやんねえ!」に対する「こっちから願い下げだ」は、陣内のその発言通り俺という人間との接触など、陣内にとってはどうでもいいようだった。

 

 そんなヤツの態度は、転校続きで誰の記憶にも残らなかった過去の苦い経験を彷彿とさせて、なんだか俺の気持をきゅうと締めつけた。

「友達になってやんねぇもん」なんて言ったけれど、俺はコイツと本当は席が近くておしゃべりできる友達になりたかったのだ。

 

 

 けれど、そんな一方的な俺から放たれる切ない気持も、ある日を境に急変した。

 

 

 

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