4:卒業

————

 

「雑餉隈!!クロール25mどっちが早いか勝負だ!」

「受けて立つ!俺が勝つ!」

最初は俺も嬉しくてなんか妙なテンションでヤツとの勝負にのっかっていた。

 

「雑餉隈!給食早食い勝負だ!箸を持て!」

「いや、ゆっくり食わせてくれ!?」

けどさ、途中からなんか勝負ばっかになってきて。

 

「雑餉隈!ここで会ったが100年目!教室まで勝負だ!」

「下駄箱で何言ってんだお前」

なんか、こう、無性にアイツが俺ばっか呼んで、俺にまとわりついてくるのが。

 

「雑餉隈!勝負だ!」

「便所で何を競うんだよ!ついてくんなし!」

うざくて、うざくて、うざくて、うざくて。

 

「雑餉隈!!!」

「ウゼェ!暑苦しい!近寄んなし!」

 

 アイツは俺の予想以上の熱血漢だった。何をやっていてもアイツは俺につっかかって、俺に勝負を挑んだ。

 多分、俺も悪いのだ。本当にうざいなら無視すればいいのに、アイツが「勝負だ!」と叫ぶと、どんな状況でも体が反応して、結局本気で相手をしてしまう。

 

 体育祭なんて赤ブロックの陣内と、黄色ブロックの俺で3年間名物対決と言われてリレーやら、騎馬戦やら競い合ってしまった。

なんてことだろう。

 

 そんなこんなで俺は安息の3年間を、賑やかに、華やかに、友達だって100人達成して終わりを迎えた。

 

生徒会にも入った。

体育祭の実行委員もやった。

好きな女の子に告白もした。

振られたりもした。

 

友達もいっぱいできた。

 

 

 

         〇

 

 

 

「なんなん、お前」

 

 卒業式の日。

 便所でバッタリと出くわした陣内が唐突に俺に言った。陣内に似合わず、静かな声だった。それは、12歳だった俺とアイツが初めてマウンドに立った時の、あのやりとりをしたテンションと似ていた。

 

 もう俺達は15歳になっていた。

場所はマウンドではなく、俺達以外居ない臭い便所だった。

 

「なんなん、引っ越すって。高校まったく違うとこ受けるって、マジでなんなんだよ」

 

 陣内は部活の引退もあって坊主だった頭は見る影もなかった。髪のフサフサなコイツは更に女子に人気が出た。

 

「なんなん、って言われても仕方ねーじゃん」

 

 蛇足だが、この時実は既に上木さんは陣内に告白していた。

そして、陣内は。

 

「ふざけんなよ」

「ふざけてないし」

 

 陣内は「ふぅぅ」と深く息を吐くと、ギラギラした目で俺を見た。

そして、言った。

 

「お前は俺以外のヤツと勝負したらいかん!俺だけがお前と勝負するんだ!俺だけがお前のライバルだ!覚えとけ!ぜったいだぞ!覚えとけよ!?」

「最後までうっぜーやつ!」

 

 俺はいつもの如くそう返すと、尿意も失せクルリと陣内に背を向けた。

只でさえ、もうカッちゃん達とは会えないとか、この学校にはもう戻れないんだとか思って切なくなっていたのだ。もう、これ以上俺を戻れない3年間で引っ張るのは止めてほしかった。

 

 引っ越しも、転校も決まっていたことだ。覚悟はしていたし、慣れていた筈だ。

 

「お前のライバルは俺だぞ!お前はあの目で他の奴を見たらいかんぞ!」

「っう、うう」

 

 俺は駆けだした。

 どうせ、そんな事言って、確固たるものを持つアイツこそ、すぐに新天地で俺の事など忘れてしまうに決まっている。

俺は、また時間と共に皆の中の記憶から薄れるのだ。

 

 泣きながら駆けだしていた俺は知らない。駆けだした俺の後で、アイツが拳を握りしめながら「最後は……俺の勝ちだ」と、苦しそうに呟いていたのを。

 

 

 俺は、知らない。

 

 

 

 

 

 

【突き抜けた阿呆と底抜けの熱血漢が衝突しあって友情が生まれる話】

 

タイトルとURLをコピーしました