5:意味のない勝利

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「あのね、えっと……陣内君。私、あの…ね」

 

 そう言って頬を赤らめてクネクネする女子が俺の前に居る。俺の眼中に3年間入ってこなかった女子だ。

 

あ、いや。違う。この女子は一瞬俺の視界に入った事があった。

あれはいつだったか。

 

「私、ずっと、陣内君の事1年の頃からね……す、す、好きだったの!」

 

あぁ、思い出した。アイツが……雑餉隈がこの女子に告白した時だ。

 

 雑餉隈。

 その名前が頭に浮かんだ瞬間、俺の鼻の奥がツンとするのを感じた。

アイツは引っ越すらしい。ついこないだ知った。俺がしつこく志望校を聞いたのに、教えなかったのはそのせいだったようだ。

 

 俺は野球が好きだ。大好きだ。

 それ以外はけっこうどうでもいい。

 

 けれど、中一のあの日から野球以外に好きなのが増えた。

 

 雑餉隈との勝負だ。

 

 雑餉隈との勝負は何をやっても俺を熱くさせた。勝負だと言ってアイツと向かい合った時にしてくる、アイツの目が俺は腹の底から熱いものが吹き出すような勢いで好きだ。

3年間、大好きな野球の記憶よりも、今目を閉じて浮かんでくるのは雑餉隈との記憶だ。

 

 ツンとする。

 だってもうあいつとは勝負できない。

 ツンとする。

 

 あぁ、あぁ、あぁ。

 

『上木さん!俺と結婚を前提にお付き合いをぉぉぉ!』

 

「っ!?」

 

 その瞬間、中2のあの日、アイツが顔を真っ赤にさせながら叫んでいた言葉が耳にこだました。ヴァァァカ。

 

 俺は心の中で呟いた。

 なんなん、お前。こんな女子のどこがいいんか。わけわからん。なんなん、ほんと。

 

「いいぜ、付き合おうや。俺ら」

 

 俺はいつの間にかそう言っていた。

 目の前の女子が、一気に目を見開く。

 ピンク色の頬が更に朱に染まる。

 

 それと反比例するように、俺の心は冷えていた。

 

「こんなんで勝ったって意味ないんにな」

「え?」

「なんでもねー」

 

 

なんなん、お前。引っ越して。

なんなん。なんなん。

 

 

なんなん。

 

 

 

【底抜けの熱血漢と突き抜けた阿呆が衝突しあって……が生まれる話】

 

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