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避けていた。会わないように、顔を見ないように。
傷付けないように。
-――なのに!
『オブ、捕まえた』
俺の腕は、俺よりも随分細くなってしまったインの腕にしっかりと捕まえられてしまっていた。
『……イン』
俺は捕まえられた俺の腕と、そしてどこか強い意志を湛えたインの瞳を交互に見比べると、ゴクリと喉を鳴らして唾を呑み下した。
あぁ、いけない、いけない、いけない。
『イン、俺。今忙しいから、離してくれるかな』
『ダメ。離さない』
『離せよ』
『離さない!オブ!』
インの意思は揺るがない。インは昔からこうと決めた事には絶対に意思を曲げたりしない。頑固なのだ。それも、俺の“大切”だったのに。
『話そう、俺達は話さなきゃだめだ』
『なにを』
『これからの事』
『どうして』
『どうしても』
俺はインから目を逸らす。言葉を逸らす。全てを逸らして、現実から目を背ける。見据える事が出来ない。だってそれは、それを見るという事は。
『オブ、キミの気持ちを知りたい。だから』
インとの“別れ”に目を向けるという事。そして、抗うならば、過酷な未来に目を向けるという事。その、どれもに今の俺はまだ、耐えられそうにない。
それなのに、どうしてだ。イン。
バカで愚かで何も知らない真っ白なお前が、俺よりも先に決意なんかしてるんだよ!
『貴方の気持ちを聞かせて』
『っ!』
その、言葉に俺の中にある張りつめていた何かがプツリと切れるのを感じた。
思いを断ち切る強さも、思いを繋ぐ覚悟もない、同じ場所を堂々巡りする事に、俺は心底疲れた。
インのせいで、俺はもう、全てがどうしようもなく、苦しい。
『言ったな』
『うん、言った』
———インは僕が悪いヤツになったら……どうするんだよ
過去の幼かった自分の言葉が、俺の耳の奥で木霊する。あぁ、やっぱり不安は当たってしまった。
俺は悪い奴になってしまったのだ。だって、俺はきっとこれからインに酷い事を言う。傷付ける。でも、もう止められない。
でも、あの時、お前も言ったよな?イン。
———-オブが悪い奴になる事よりも、オブと離れないといけなくなる方が、ずっと怖いよ
そう、確かに言った。言ったんだ。
俺は避けたよ。傷付けるだろうと思って。俺からお前を守る為に、ずっと我慢した。辛いのも、不安なのも、どうしようもない未来に怯えるのも。全部、俺だけが我慢し続けた。
けれど。もう、疲れた。
『来いよ、聞いてくれるんだろ』
『うん、全部。聞く』
俺はイン腕を乱暴に掴むと、一瞬の秋色に色づいた森の中へと足を向けた。もう、時間も季節も、後戻りはできない。
進む事しか、出来ない。