かわったひと

 

 

 ウィズは変わっている。

 

 

 

 いや、ウィズが、というより……なんだろう。

 “ウィズの交接の仕方”が、とても変わっている。だとすると、ウィズ自身が“変わっている”という事で間違いではないのかもしれないが。

 

 凄く、凄く、ものすごーく、変わっている。

 

 

「っはう」

「あぁ、アウト。ここか、ここが好きなんだな、もう覚えた」

「ぅう、うぃず、もう……おわりたいっひ」

 

 もう、終わった筈なのに、何度も何度も交接に交接を重ね、果てに果て尽くした筈なのに。それは、お互いそうである筈なのに。

 まだ暗かった空が、窓掛越しに日を差し始める位には、長い時間繋がっていた筈なのに。

 

「ふぅ、んんっ」

「…………あぁっ、いいな。良い肌触りだ」

 

 ウィズは前戯以上に、後戯を好む。とても、とても好む。

 

 すなわち、ウィズは後戯が大好きなのだ。

 以前、自分でハッキリと言っていた。「まぁ、俺は後戯の方が好みだがな」と。とてつもなく、嫌らしい笑みを浮かべ。

 

 しかも、前戯の最中に。さいあくだ。

 

 まぁ、あまり聞かない話だろう。これからに向けて気分を高める為に行う行為に手間をかけるのならまだしも、全てを終えて熱を放出した後に行う行為に、こうも没頭出来るのというのは珍しい。

 

「あぁ。よく、見える」

「っひ、み、みるな」

 

 ウィズの手が俺の内腿を撫でる。撫でつつ、しっかりと観察する。観察して、内腿に口づけをする。何度も、何度も。

 

「うぃずは、ものぐるいだ」

「……否定はしない」

 

 俺の反論の間も、ウィズの手は止まらない。

スルリ、スルリと。それはそれは肌触りの良い毛布の感触でも楽しむように。何度も何度も行き来する。

 

 内腿には、俺の出したモノや、ウィズが何度も出したモノが交じり合い、しっとりと濡れている。

 それだけではない。余りに長い時間繋がっていたせいで、たまに乾いてカサつく場所だってあるのに。

 

「あぁ、これは最初の、か。覚えてるか?アウト。あれは、気持ち良かったな」

「っぅぅうぅ」

 

 耳元で囁かれる低く、美しい、夜を思わせる声に、俺の背筋にピリピリとした何かが走る。

 囁きながら、内腿に出来た既に乾いてカサつく互いの体液のこびりついた部分に、ウィズは軽く爪を立てる。剥ぎ取るように、あの瞬間を思い出すように。

 

「っふぅ、うう」

「……はぁ、堪らないな。その顔」

 

 そう、感嘆するように漏れるウィズの言葉に、俺はベッドの上のシーツを握り締める事しか出来なかった。だってそうだろう。

 こんな美しい人に、全ての行為の最中、ずっと至近距離で顔を見つめられ続けているのだ。こっちだって堪らない。

 

 堪らなく、恥ずかしい。

 

「うぃず、うぃず、もう。おわろ、う、よ」

「何故だ?どうして?まだアウト、お前は気持ちよさそうじゃないか。なぁ、ちがうか?」

「……きもちいの、もう、はずかしいっひ」

 

 今度は触れていた手が、内腿から俺の脇腹へと移動した。二人のモノで濡れそぼったウィズの手が、俺の腹をまるで蛇のようにスルスルと行き交う。

 

「まだだ。まだ見足りない」

「……もう、まって。まって」

「なにを」

「さわるのを」

「……待てない」

 

 待てない、と俺の目を射抜くウィズの美しい瞳。

 それは、よく見たら以前、図録で見た蛇の目に、今のウィズの目はそっくりな気がした。

もしかしたら、素肌同士が触れ合って愛し合うように絡み合う下半身も実は、蛇として獲物を捕獲している行為の一部なのかもしれない。

 

 俺は今、ウィズに獲物として捕獲されているのか。

 なんて、そんな事を考えてしまう俺は、最早寝不足と終わらない快楽で、頭がバカになっているに違いない。

 

「もう、おわっただろう……?」

「交接の終わりに定義などない。俺が決める」

「この、おおさま、め」

 

 そして、やっぱり俺の意見など何も聞かず、脇腹から臍の周りを丹念に撫でる。たまに、臍の中へ入り込んでくる指に、体が跳ねるのを止められない。

 

「っひ、っん」

「アウト、お前は。素晴らしいな。どこもかしこも、全て。まるで、俺の為に作られたようじゃないか」

 

 あぁ、この蛇のような美しい男が、こんな一風変わった交接を好む事を知る人間など、俺の他に居るのだろうか。

 どうか、居ないで欲しい。

 

「終わってない。まだ、終われない」

「ううう、ううう。おわったよ。おわろうよ。ぁんっ」

 

 終わった、そう、全部終わった後なのに。ウィズが俺をジッと観察しながら、体のありとあらゆる部分を触り、俺の反応を記憶するように眺める。

 

 もうそれは、好きな虫でも観察する幼子のソレである。だからこそ、そんな、いやらしい手つきで俺を変にしておいて、自分だけは純粋な子供のような目をするウィズに、俺は羞恥で死にそうになるのだ。

 

「あぁ、アウト。そういえば、やはり物狂いに関しては否定させてもらおう」

「んんんっ!っふ!あっ、あっ」

 

 ウィズの手がとうとう、後ろの濡れに濡れたそこへと触れた。何度も何度も繋がって開かれたその場所は、もう、少しの刺激でも強い感覚を俺に与えてくる。

 けれど、もう一度言う。もう、既に何度も果てた後だ。俺もウィズも互いのモノが反応を示す事はない。

 

 

 反応するのは、こころ、だけだ。

 

 

「俺は、正常な判断が出来ていないのではなく。冷静に、お前の乱れる姿を記憶したいから、だから」

「うぃず……?」

「俺は自分の熱が冷めた後のこの行為が、」

 

————たまらなく、好きだ。

 

 ウィズはハッキリと言うと、俺の口にそっと口づけを落としてきた。

 

 あぁ、ウィズは、本当に、変わっている。