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第1話:死にました
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あ、生徒会長だったら
「もしかしたら、大学も推薦でいけるかもしれない」
俺はそんな気持ちで、突如として生徒会長選挙出馬を表明した。
そんな俺を周りの友達は「また始まったよ」と言う、若干うんざりした目で見て居た。
それは、この俺、新谷 楽(しんがい がく)の高校2年、秋の事だった。
俺の通っていた高校は、これと言って偏差値が低いわけでも高いわけでもない、ごく普通の進学校だった。
その中で俺の成績は、少しばかり悪かった。
学年合計人数186人中、学年順位180番くらいが俺の成績の定位置だった。
でも、俺の下には後6人の馬鹿が潜んでいるので、俺はとても馬鹿と言うわけではないのだ。
うん、俺の下には後6人馬鹿が居る。
つーか、俺より馬鹿ってどうなのソイツら。
まぁ、大学全入時代とはよく言われているが、やはりアピールするものが多いに越した事はない。
学力でのアピールポイントを持たない俺は特に、だ。
俺の来年の目標は、この低空飛行を続ける成績でも立派に大学に入学を決める事である。
だから、俺は生徒会長になって来年は学校推薦の座をもぎ取り、誰よりも早く大学入学の切符を手に入れてやろうと思っている。
そして、俺を馬鹿だ阿呆だと嘲笑っている(現在進行形)友人たちを横目にガンガン遊んでやろうと目論んでいるわけだ。
と、言うわけで俺は高校2年の2学期。
突如として生徒会選挙に殴りこみをかけた。
丁寧に、先生に言われた通りの書類を提出して、推薦後見人も立てて、きちんと正規の手続きを踏んで、俺は正式に殴りこみをかけた。
凄く丁寧な殴り込みだな、と推薦後見人兼、俺の友達歴1年くらいの白木原は笑っていたが、そうしないと生徒会選挙に出馬させないぞって先生に脅されたから仕方ない。
全ては来年の入試の為。
強いては、バラ色の大学生活を手に入れる為だ。
まぁ、一つ誤算があったと言えば生徒会選挙当日に、俺を推薦する筈だった推薦後見人の白木原が風邪で休み、泣く泣く俺は白木原が読むはずだった推薦文を俺自身で読む羽目になった事だ。
お陰で俺は終始、自分で自分を褒め称えると言う痛々しい演説を全校生徒の前で行ってしまった。
可哀想にも程がある。
だが、決まってしまえばどうと言うことはない。
まぁ、次の日から俺のクラス内で俺のあだ名が「ナルシスト野郎」になったってしまったが、そんな事も気にしない。
そして更に白木原の欠席の理由が予約していたエロゲを店に取りに行って即プレイする為だったと、後々聞かされた事も、今となっては取るに足らない事だ。
まぁね、それだけじゃやはり俺の腹の虫は治まらず、白木原は俺が丁重にフルボッコにしてやろうと殴りかかって逆にフルボッコにされてしまった。
そう言えば白木原は中学まで柔道部とか言ってたわ。
ちくしょう、少しくらい手加減してくれたっていいじゃんか。
でも、まぁ、うん。
俺は、とりあえず生徒会長だ。
バカで、アホで、どうしようもない程のお調子者で、要領の悪い俺だが、その日から俺は生徒会長になったのだ。
すさまじい激戦の中、生徒会長の座を手に入れたんだ。
まぁね。
激戦だったのは書記と副会長だけで、生徒会長の立候補者は俺だけだったのだが、とりあえず俺は生徒会長だ。
でも、人生とは本当にいつどうなるのかわからないもので。
俺は生徒会長になって1カ月後。
帰り道、白木原とふざけ合って歩いていたら、ふざけすぎて道路に飛び出した挙句そのまま結構デカいトラックに撥ねられて死んでしまった。
遠のく意識の中、白木原が「あたたた、マジいったー。死ぬかと思ったわ」と言っているのが聞こえたが、その隣で俺はリアルにご臨終してしまった。
いや、だってトラック直撃だったからね。俺。
痛いとか、ヤベェとか思う前に全てが終わってたし。
アイツ……ほんとにいつもタイミング良い奴だよ。
俺にとっては最悪なタイミングである事が多いがな。
あぁ、もう白木原め。
一人だけ生き残りやがって。
でも、まぁ……
お前だけでも無事で良かったよ。
うん、まぁ、うん。
けっこう、高校から仲良くなった割には面白い奴だったし。
白木原よ、大志を抱け。
そんなワケで俺は、人生の最期もふざけっぱなしでなんとも締りの悪いものになったが、まぁ仕方ない。
それが俺の人生の総括なのだろう。
まぁ、でも。
死にたくなかったなぁ。
…………と。
そんな事を思って居たら、俺は何故か誰かに「カイチョー、カイチョー」と言う呼び声で乱暴に体を揺すられるのを感じだ。
いやいや、さっきトラックに撥ねられたんですよね、俺。
もうちょっと優しく起こしてくれたっていいんじゃね。
そう思って俺が目を覚ましたら………
「………あんた、誰」
目の前になんつーか、スゲェ美形野郎が居ました。
「何寝ぼけてんのー?カイチョー。仕事が溜まってるんだからさぁ、仕事をしないなら出て行ってくれる?今、チョー忙しいんだってぇ。転校生君なら、此処には居ないよ」
美形は若干苛立ったような口調でそう言うと、目の下にある盛大なクマごと目をこすりながら席に戻っていった。
あれ。
…………ここは、どこですか?
そんな俺の疑問に優しく答えてくれる人は、
どうも此処には居なさそうだ。