第3話:できる事はほんの僅かだ

 

 

 

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第3話:できる事はほんの僅かだ

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「はい、カイチョー。これ」

 

「……あ、ありがとう……う、マジですみません。お手数をおかけします」

 

「……なんか調子狂うなぁー」

 

 

俺は慌てる美形君を前にひとしきり懇願し終えると、美形君の隣に置かれた椅子に腰を落ち着けた。

 

しかも。

しかもだよ。

美形君は親切にも、喚く俺の背中をさすって、途中、紅茶的な物を、これまたおしゃれなカップについできてくれたからね。

 

見た目、軽薄でチャラそうに見えるのになんていい人なんだろう。

いや、チャラいからこそこう言う事が自然とできるのかもしれないが。

 

まぁ、どちらにせよ、俺はこの美形君のお陰でパニックから抜け出す事ができたわけだ。

 

美形君、ちょう良い人っすね。

親友の一世一代の生徒会選挙の時に、エロゲの為に学校をサボッた白木原なんかより遥かに、この人は優しいし、人間出来てる。

 

俺は、美形君の注いでくれた紅茶に口をつけると、一口飲んでそっとテーブルの上に置いた。

 

 

 

「……う」

 

「……どうしたの、カイチョー」

 

 

うん、そう言えば俺、紅茶って今、生まれて初めて飲んだけどさ。

 

ハッキリ言おう、苦手だわ。

なんか匂いは濃い癖に、あんまし味がしない。

なにこれ、いや。

とてもいや。

 

でも、さすがにここまでしてくれた美形君にそんな事言えるほど俺も空気読めないわけじゃないので、黙って美形君にお礼を言った。

 

 

「紅茶、ありがとう……おい、し、かった……よ」

 

 

俺は笑顔でお礼を言いながら口の中の味を必死に唾液で浄化した。

うん、多分俺、今ものっそい変な笑顔になってるに違いないね。

 

 

「……っ。それは、どういたしましてぇー」

 

 

そんな不審顔の俺を美形君は心底驚いたような目で見つめると、すぐに俺から目を逸らし、自分も手元にあった紅茶に一口だけ口をつけた。

 

 

あ。

凄い絵になる。

 

やべぇ、紅茶ってコレ美形の飲みモンだわ。

滅茶苦茶、美形君が紅茶飲んでる姿、絵になるもんね。

 

あー。俺とかアレ。

コーヒー牛乳500mlを紙パックのままラッパ飲みすんのがお似合いだわ。

もしくはストローで吸い上げるか。

でも、結構どこのコンビニの店員も、ストロー入れるの忘れるんだよね。

あれにはいつも困り果ててますわ。

ラッパ飲みだとすぐに飲み終わっちゃうからね。

 

 

「すっげーかっけー」

 

 

俺がジッと美形を見て思わずそうこぼすと、美形はどこか気まずそうに俺の方へ視線を向けてきた。

 

 

「カイチョーさぁ。一体どうしちゃったのぉ?寝ぼけるにしては少し長くない?」

 

「いや、俺、ボケてねぇんです。本気でここがどこかわかってない人なんです」

 

「………まだ言ってるよ。はぁ。ここは生徒会室でしょー。あんまし仕事サボってここに来ないから忘れちゃったんじゃないの?つか、何。カイチョー今日さ、いつもとキャラ全然違くない?キャラ変でもしてんの?転校生君に振り向いてもらえないからってそこまでするかねぇ」

 

 

俺の「ここはどこ」発言に、美形君も少々うんざりしながらも、今度はきちんと答えてくれた。

嫌味付きみたいだけど、とりあえず此処がどこかはわかった。

 

此処は生徒会室だ。

で、美形君の言葉からすると俺は「生徒会長」なんだ。

 

 

へぇ、そう言うことか。

 

………うん、まぁ、そうだね。

だからと言って状況は一向に変化ナシだけどね。

 

 

「……はぁ、時間無駄にしちゃったよ。とりあえず、俺、仕事に戻るからぁー」

 

「……じゃあ、俺も仕事するよ」

 

 

俺、生徒会長っぽいし。

リコールされたりしたらたまったもんじゃないし。

 

あー。

みどりちゃんのリコール発言のせいで、なんか俺リコールって言葉トラウマになってるっぽいわ。

 

俺に死後も残るトラウマ与えるとかマジみどりちゃん恐ろしい。

 

 

俺は身震いしながら美形君の方を見てみると、今度は先程より明らかにビックリした顔をして俺の顔を凝視していた。

 

おお、これはポカン顔ってやつだ。

 

よく知ってる、よく知ってるよ。

俺が会議中に発言するとたいてい皆こんな顔するからね。

 

 

「カ、カイチョー……」

 

「え、え?いや、今の俺空気読めてなかった感じ?すみません?」

 

「仕事……してくれる気に……なったんだ……」

 

「え、えぇぇ?」

 

 

今度は俺が驚く番でした。

美形君は突然、机の上に頭を抱えながら肩を震わせると、震える声で「よかった……」と呟いていた。

 

え、何。

俺ってそんなに仕事しない人だったの。

 

俺はどうして良いかわからず、とりあえず美形君の背中をさすってみた。

さっきと立場が逆転してしまったようだが、俺より彼のがヤバそう。

 

なんか、最初から思ってたけど彼は最強に具合悪そうなんだよな。

 

目の下にはクマがるし、顔色は血が通っていないのではと言うくらい青白いし。

そう言えば連日連夜仕事してるとか言ってたし、多分この美形君は寝ずに仕事をしているのだろう。

 

ヤベェ、生徒会長らしい俺がこんなに元気で、生徒会のどっかの役職の彼がこんなに疲労困憊ってかなり体裁悪い。

 

マジ、みどりちゃんが居たら、あの凍てつく瞳と毒舌でライフ0にされるところだわ。

 

役立たずの生徒会長なんかいらん、ってね。

 

 

「俺、生徒会長だし、仕事すんの当たり前だって、うん。俺、これからがんばるわ」

リコールされないように。

 

「カイチョー……ほんと、マジ。どうしたんだよ……」

 

「うん、俺、ほんとどうしたんだろうね」

俺にも未だに状況は一切掴めないからね!

 

「でも……ほんとに、助かった……。一人じゃ、もう全然で……」

 

 

そう言って、背中をさする俺を見ながら少しばかり口角を上げて微笑んでくる美形君に俺はクラリとするのを感じた。

 

えー、何、今スッゲェ色気ムンムンだったんですけど!

美形の笑顔半端ねぇ。

マジ、多分この人ったら女子に大モテだわ絶対。

うらやましい事この上ねぇな。

 

うん、とりあえず俺は生徒会長の仕事をしよう。

美形君ばっか可哀想だ。

 

 

「まかせろ!俺は、何したらいいですか!」

 

「……えっと、カイチョーの分の仕事は……ほら、あそこに溜まってる書類。あれ、全部目ぇ通して。んで、文化祭の用具とか、道具の発注書と各クラスの出しモノの提案のプリント作って全クラス分コピーしといて。で、業者への手続きが締め切り近いからそっちもお願いしたい」

 

「………はい?」

 

「じゃ、よろしくねぇー」

 

 

そう言って、またパソコンに向かってしまった美形君に、俺は茫然とするしかなかった。

 

 

え、っと。

まず、え?

 

あの書類の山をチェック、だっけ?

 

 

もう一回言って欲しいと、美形君を見れば、やはり美形君は鬼の形相でキーボードをバンバン叩いている。

この状況の彼に「もう一回言って」などと言う勇気はサラサラなく、俺はとりあえず、最初に言われた書類の山へちょいちょい近寄ってみた。

 

確かにありますね。

書類の山。

 

で、これをチェック?

 

俺は書類の一番上のプリントを手にとって中身を見てみる。

 

 

「……………」

 

 

チェックって何をどうすればいいんだ?

 

大量に文字の書かれた書類。

読む=チェックと言う事になるのだろうか。

 

どうなのだろうか……?

つか、何。

 

これ、よくわかんねぇけど生徒会の仕事なのか。

こうゆうのって普通さ、大人がするんじゃないの。

 

ほら、さっき発注とか言ってたけどあぁゆうのは先生の仕事じゃないのか……!?

 

 

俺はあまりのカルチャーショックに頭の中がグルグルするのを感じると、書類を掴んだまま美形君の元へ戻った。

 

 

怒られてもいい。

とりあえず、聞かないと。

俺もう訳わかんねぇし。

 

わかんないままテキトーにやって怒られた経験は、みどりちゃん以前に死ぬほどあるからここは素直に聞こうじゃないか。

 

 

「あ、のぅ……ちょっといいっすか?」

 

「……何さぁー」

 

「チェックってどうやるの?」

 

「……………」

 

 

痛い。痛い。

痛すぎる視線が俺に刺さる。

 

けど、だって、わからないんですよマジで。

 

 

「ねぇ……カイチョー……。ふざけてるなら……マジでどっか行って」

 

 

「っう」

 

 

先程までの笑顔などどこへやら。

美形君は今にも俺を射殺さん勢いで俺を睨みつけると、もう一度自分を落ち着かせるように紅茶に手をかけ、一気にそれを呑み下した。

そんな相手に、俺は慌てて何か気の利いた事でも言えないかと頭を回転させてみる。

 

やっべ。

いくら高速回転させても俺バカだから何も思いうかばねぇわ!

 

 

「あ、あ、えっと!俺、その……!」

 

「……ほら!」

 

 

俺が一人でアワアワしていると、突然美形君が今しがた自分の飲んだカップを俺に突き出してきた。

 

 

「えっと……?」

 

「カイチョー、本気で仕事する気あるんならさぁ、これ洗って片づけておいてぇ。で、そこの書類、風紀への提出書類だからさ持ってって。それくらいならできるでしょー?ねぇ、カイチョー?」

 

 

美形君はイラついた態度を隠さずに、しかしどこか俺を試す様に口元に笑みを浮かべると、使用済みのコップと書類を俺の前へ置いた。

 

うぉぉ、すみません。

生徒会長なのになんか自分の置かれた状況も仕事も何もわかってなくて。

 

役立たずにも程があるぜ、俺。

そんな俺に出来るのは、確かに食器洗いとお使いくらいなわけだ。

ついでに俺へ注がれた余りまくった紅茶も一緒に流しに流そう。

 

ナイス、俺。

 

 

 

「うん!わかった!これなら俺も出来るぜ!まかせろ!」

 

「っえ!?」

 

「他の仕事もやり方とか教えてくれたら頑張れるから!どんどん言って!俺、生徒会長だから!」

 

 

唯一の俺のアピールポイントだぜ。

 

俺は何故かまたポカン顔になっている、美形君からカップと書類を受け取ると、急いで先程美形君が入っていった給湯室らしき部屋へ向かった。

生徒会室に給湯室があるなんて、ここは一体どんな金持ち学校なんだ。

 

ちょいちょい給湯室へと走る俺は、この時気付いていなかった。

 

 

後ろから美形君が俺の後ろ姿をジッと見つめていた事に。

 

 

 

 

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