※会計の独白

 

 

 

 

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※城嶋学園高等部 生徒会会計 

野伏間 太一(のぶすま たいち)の独白

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自分の力に限界を感じ始めたのは、いつからだっただろうか。

 

答えよう。

1か月前だ。

 

それまでの俺は、「俺は特別な人間で、特別な事を成せる人間である」と言う10代特有何の根拠もない勘違いに支配されて居た。

それが子供の馬鹿な勘違いだと、俺自身が思い知る事など1カ月前まで一度たりともなかった。

 

それは一重に、俺の人生の大半を過ごしてきた、この鳥籠のせい。

外界とは不思議なほど一線を画し、隔絶されてきたこの、城嶋学園。

 

ここは俺達の鳥籠であり、巣だ。

 

幼等部から高等部までの一貫した独自の空間を持つそこは、経済界、医学界など様々な分野で活躍する、各界のトップの学舎。

これからの日本を背負って立つ、二世三世のそれはそれは高級な鳥籠だった。

 

そして、その鳥籠は親鳥たちのエゴで溢れていた。

 

大事な二世、三世の雛達に悪い虫がつかぬよう、要らぬものに目がいかぬよう。

そう、親鳥の庇護と言う名のエゴから生まれた少年達だけの異様な空間は、今や親の予想を超えるおかしな風習が生まれいた。

 

思春期と言う心も体も成長を遂げる多感な時期を、男だけと言うある種異様な空間に放り込まれた雛達は、恋愛相手も同性へ、つまり男へとシフトさせた。

そして、力の使い道を知らない、けれど大きな権力をバックに抱える雛達は鳥籠の中に自分達の世界を築き始めた。

 

他者の目を惹く外見。

他者を屈服させる権力。

他者を惹きつけるカリスマ性。

 

それらを兼ね備えた者は、この鳥籠の王とり、城嶋学園の全生徒の上へ立った。

憧れ、羨望、惜しみない喝采。

王は全てを持ち、送られ、何の欠けたるところもない人間であると他者に知らしめ、君臨した。

そんな俺も、王にはなれなかったが、王の傍で他者から惜しみない喝采を浴びてきた人間だ。

少しばかり他人より容姿が優れ、少しばかり他人より親の権力が大きかった。

 

ただそれだけで、俺は“選ばれた人間”と言う甘美な、しかし浅はかな勘違いの中、それを当たり前のように思い生きてきた。

 

だけど、それは勘違いだった。

俺は他者より秀でた人間でも、特別な力を持つ人間でもなかった。

 

所詮、親から与えられた鳥籠だけの世界と知らぬまま、俺も、他の雛達も自分達の生きる場所を世界の全てだと勘違いして生きていたのだ。

 

 

それを思い知ったのは、1か月前。

外部からあの季節外れの転校生が来てからだ。

 

彼は良くも悪くも、この学園の世界の壁を打ち崩して行った。

 

王と貴族と持て囃されていた学園の要人達を、彼は一気に自分の手中に収めてしまったのだ。

王を失った鳥籠と言う名の世界は脆く崩れ始め、今、俺の過ごしてきたおかしくも温かな巣は荒れ果ててしまった。

 

周りで転校生に心を奪われて行く生徒会メンバーを横目に、俺はただ茫然とした。

一人、たった一人残されたこのお城で、俺はどうしようもなく無力だったのだ。

 

 

確かに俺は特別だった。

選ばれた人間だった。

 

この小さな鳥籠で、確かに俺は他人の上に立ち生きて行く人間の筈だったのに。

 

しかし……

それは、一人になれば叶わなかった。

 

 

一人の俺はどうしようもなく無力で、役立たずで。

王様の居なくなったお城で、小さく縮こまって荒れてしまった俺達の世界を見下ろす事しかできないのだ。

 

俺の世界は、外から吹いてきた大きな突風に、壊された。

 

俺の人生の殆どを捧げてきたこの小さな鳥籠。

外界から比べると、どうしようもなくおかしな世界。

 

けれど、俺はそれでも自分の世界を壊されたくなかった。

4歳の頃からずっと此処に居たのだ。

 

おかしくとも、異様だとも、俺にとっては暖かな家だ。

 

守りたいと思うのは当たり前だろう。

だから一人も必死に頑張った。

王様も他の貴族も居ないお城で、俺は一人、無力な力を集めて必死に戦った。

 

 

そこに……

 

「………カ、カイチョー?」

 

王様は帰ってきた。

 

 

俺しか居ない筈のお城に、王様は以前のように、ごく当たり前にそこに居た。

 

そう言えば昨日、風紀と会長がやり合ったと聞いた。

風紀と言うのは瓦解しそうな俺のお城を、壊そうとしている奴ら。

 

無能な王はここには要らない。

 

そう言う事だろう。

 

 

このままでは俺の恐れていた事が本当に起こってしまう。

 

そう。

 

俺の目の前が真っ暗になった矢先の出来事。

王様はお城へ戻ってきてくれた。

 

 

もしかすると、何か変わるかもしれない。

 

そんな俺の期待に反して、戻ってきた王はおかしくなってしまっていた。

本当の無能になっていたのだ。

 

転校生のせいなのか、はたまた他に原因があるのか。

転校生のせいだとすれば、俺はますますあの転校生を憎まずにはおれぬだろう。

 

 

無能で役立たずの王様。

 

そんなもの、俺だって必要ない。

いらないんだよ、そんな役立たずは。

 

 

けれど、王様の変化はそれだけではなかった。

それは小さな変化で、けれど、大きな変化でもあった。

 

 

王様は紅茶を嫌っていた。

でも、彼は嫌味で入れた俺の紅茶を「ありがとう」と言って飲んだ。

 

傍若無人な王様の、それは小さくも大きな心の変化。

 

王様は人に使われるのを酷く嫌っていた。

でも、彼は俺の指示した事を笑顔で受け入れた。

 

人の上に立つだけだった王様の、それは目には見えない懐の変化。

 

 

王様は風紀を酷く嫌っていた。

でも、彼は今風紀委員長の元へ意気揚々と出かけて行った。

 

自分以外の王を敵とみなしていた王様の、それは図り知れない行動の変化。

 

 

そして、

 

 

『頭悪いし要領悪いし役立たずなんです!』

 

 

人一倍、プライドが高くて、必死に人より秀でていようとしていた彼の思いも寄らない言葉の変化。

 

 

あぁ、長い事ボーッとし過ぎてしまった。

もう3日位全く寝てないから、頭が上手く働かなくなっているのだろう。

 

まだまだやる事もあるし、どんなに仕事をしても仕事は増える一方。

もう嫌になって全てを投げ出したい気分ではあるけど、俺ももう少しだけ頑張ってみようかなぁとか思ってる。

 

いきなり変わってしまった無能な王様に成り下がった彼に、俺ももう少しだけ付き合ってみよう。

寝不足で、上手く回らなくなった頭のせいか、彼の久しぶりに見せた……いや、違うな。

 

初めて見るバカっぽい笑顔のせいか、彼についていくのも悪くないなんて思ってしまった。

まぁ、途中やめときゃよかったって何度も後悔しそうだけど。

 

 

今は目の前の仕事を片づけながら、生徒会の天敵、風紀委員の巣にもうすぐ辿りつくであろう彼を想像して、ワクワクするのも悪くない。

 

 

今後、俺が彼に向ける感情が失望か、希望か、はたまた別の何かなのか。

どうなるのか。

 

 

どうなるんだろうねぇ。

なぁ、カイチョー。

 

 

 

 

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