「あーっ!!」
「っは、はい!どうしましたか秀様!」
「あのさ!俺、この書類を風紀委員の部屋まで持っていかなきゃならないんだけど、悠木君一緒に部屋まで行こう!」
副音声「悠木君、風紀の部屋ってどこっすか。マジで案内よろしく」
俺は副音声に全てを託し、悠木君に若干俺の手汗で皺の寄った書類を突き出した。
俺の手、昔から汗っかきなんだよな。
そのせいで一時期、白木原から「ウエッティ新谷」とか呼ばれてたし。
うんまぁ、そこどうでもいい事なんだけどね。
「悠木君の話も行きながら聞くからさ。悠木君、一緒に行こう!」
「はっ、はい!もちろんお伴します!でも、秀様が風紀を自らお尋ねになるなんて、何かあったんですか?昨日、風紀とやり合ったあの一件についてですか」
「え、俺?いや、ただ俺はこの書類を風紀に届けるって言うお使い中なだけ。そんくらいしか出来ないんだよね。俺」
俺があははーと笑いながら言うと、悠木君は何故かものっそい驚いたような目で俺を見上げてくると、少しだけ頬を染め上げた。
その姿が余りにも普通に女の子過ぎて、俺はやっぱり何かモヤモヤした気持ちになってしまった。
だって、俺思春期の男の子だからね。
「秀様……今日はいつもと凄く雰囲気が違いますね……。なんだか凄くお可愛らしい……」
「………いやいやいや」
可愛いのキミでしょうが。
悠木君、この短時間で思ったけどガッツリ天然入ってんね。
それか、アレ。
女子って確か、こんな感じだよね。
明らかに可愛くないもの指さして「ちょーかわいい!」とか言う、あのノリとよく似てるよね。
悠木君、気をつけないとこのまま女子になっちゃうよ。
俺は悠木君の女子発言に当てられながら、動き出した悠木君の後を追う。
よし、このまま目的にまで案内を頼む。
「そう言えば、話って何だったの?」
俺は隣を歩く頭一つ分身長の小さな悠木君を見下ろしながら聞いてみると、悠木君は少しだけ困ったように表情を歪めた。
え、なに。
なんか言いにくい系の話しですか?
「本当に……こんな事を言ったら、秀様が……お気を悪くするのはわかっているんですけど……あの」
「……き、気になるのでスパって言っちゃってください!」
何、何なの!
マジでこう言うもったいぶった話し方やめて。
これで「やっぱりいいです」とか言われたら俺マジで発狂するからね。
そっちのが俺、怒るからね!
そんな俺の血走った眼が全てを物語っていたのだろう。
悠木君は、眉を潜めた表情のまま重い口を開いてくれた。
「……秀様、あの転校生と関わるのは……少し、控えたほうがよろしいかと思います。そのせいで、うちの親衛隊も殺気だっていますし、他の一般生徒にもよくない噂が広がっています……」
「転校生?えっと、よくない噂?」
「はい、生徒会が、転校生にうつつを抜かし、仕事を放棄している、と。そのせいで、学校運営にも乱れが生じている……そんな噂です。昨日までは、噂程度で真実味はなかったんですが……昨日、秀様と風紀委員長の秋田壮介が食堂で行ったあの一件のせいで……本格的に風紀が生徒会をリコールすると言う噂が広がってしまったようです。しかも、調べてみたところ、風紀はもう本格的に生徒会下ろしの動きを始めてしまっているようで……」
「……………」
「お願いします!俺は、秀様以外にこの学園の生徒会長はあり得ないと思っています!だから、今は少し、転校生と距離を置き、きちんと仕事をしていると周りに知らしめないと、秀様の立場が危うくなってしまいます!」
「…………」
「秀様……?あの、どうかしましたか?やはりお気を悪くしましたか……?」
そう、俺を心配そうに見上げてくる悠木君に俺はギギギギと油の切れた機械のような動きで顔を向けた。
え、マジ?
リコール?
俺、こっちでもそんな危機に瀕してるの?
え、俺バカなの?
仕事しないとか、バカなの?
マジでリコールの危機?
ヤバくない?
俺のアピールポイントなんて、役職くらいしかないんだよ。
俺バカなんだよ!?
————-
「役立たずの生徒会長なんて、私は認めませんから」
————
「うおーっ!みどりちゃんが俺の意識に降臨なさったぁぁぁ!!」
「っえ!?あっ、秀様!?どうかなされましたか!?」
ヤバい。
今ゾクっとした。
ゾクっとしたよ。
俺は脳内に浮かぶあのみどりちゃんの鮮明な映像に背中を冷やすと、隣で俺の様子を心配している悠木に向かって叫んだ。
「俺、仕事頑張ります!!」
「っえ?」
「俺、一生懸命これから仕事を頑張るので!がんばりますので!」
「っ秀様!!そうです!それが一番です。俺、秀様以外の生徒会長なんか絶対に認めません!秀様でなければ、この学校に生徒会長なんて存在しないも同然なんです!それを風紀の奴らにも見せつけてやりましょう!秀様!」
「はい!がんばります!」
「とりあえず、秋田壮介には気を付けてください。きっと、今は生徒会リコールの為に何か策を練っているに違いありません。秋田は抜け目がありませんし、この学園で唯一生徒会と同等の権力を持つ集団のトップですから。それに………」
「それに………?」
俺は悠木君の語る風紀委員長の姿が自然とみどりちゃんと被っていくのを感じて、なんだか泣きたい気分になってきた。
怖い、怖いよ秋田壮介。
俺をリコールしようとする怖い人だよ、秋田壮介。
唯一のアピールポイントを奪おうとする恐ろしい子だよ、秋田壮介。
「秋田と秀様は犬猿の仲。秋田は…………秀様を物凄く嫌っています。だから、秋田も昨日の一件で、本気の攻撃をかけてくるでしょう。秀様を潰すべく」
ひぃぃぃぃぃ!
俺は最後の留めとばかりに、脳内の秋田壮介にライフを0にされるのを感じると手に持っていた書類を必死に握りしめた。
もう、いや。
秋田壮介とは絶対会わないようにするぞ。
だって怖いじゃん。
ラスボスやん、そんなの。
そんなビビる俺の気持ちに相反して、悠木君はある大きな扉の前で立ち止まった。
その表情は、最初に俺と会った時の顔からは想像できない位………固い。
あれ、悠木君。
可愛い顔が台無しだゾ。
で、俺は一体どこへ向かってたんだっけ。
「秀様」
「………はい」
「ここが、風紀委員会の……会室です」
新谷 楽。
敵と会う前からライフはゼロ。