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第8話:モジャ男によるモジャ男の為の
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「秀―!しゅうー!!」
そうけたたましく声を響かせる、あのモジャモジャした物体に、俺は終始目を奪われていた。
何、アレ。
ハイセンス過ぎる……!!
あの、漫画でしか見た事のないような瓶底メガネもそうだし、明らかにズラっぽいモジャ毛。
もう、あれ確実ウケ狙いだ。
ちょっ……。
マジスゲェ!!
あいつ……教室で浮くと言う恐れをしらねぇな。
しかし、それ故に奇抜で人目を引く。
うん、人気者の香りがプンプンするぜ。
俺が内心、興奮を抑えきれずにモジャ男を見てると、モジャ男の背後から何かゾロゾロと現れた。
「静。お腹すいたでしょう?そんなバ会長なんかほっといて食堂にいきましょうよ?私が好きな物を奢ってあげますから」
「「そーだよー。あんなバ会長ほっときなってー!僕達が静かの隣ねー!」」
「……だめ、……静の隣……俺」
「もー!みんな仲良くしろってー!なぁ!秀!お前も一緒に夜ごはん食べようぜ!!」
スゲェ!
家臣連れてやがる、あのモジャ男。
あれ、やっぱ絶対クラスの人気者だわ。
間違いないし、あのハイセンスを普通に実行できるとか只者じゃねぇよ。
しかも、こんだけ声がうるさくて名前が「しずか」ってもうソコからしてネタの宝庫じゃんか。
羨ましいな、おい。
もう自己紹介で毎回激しく突っ込まれるパターンだわ、あれ。
クラスに馴染むのも一発、クラスの人気者になるのも一発。
いいなぁ、あのモジャ男。
クラス何組だろ。
そのクラスぜってーイベントとか激しく盛り上がるんだろうなぁ。
心なしか、アイツのクラスの奴らってノリ良さそうだし。
俺も同じクラスだといいなぁ。
「しゅうー!しゅう!おい!聞いてんのか!?一緒に食堂行こうぜ!!」
俺がぼんやりと、モジャ男についての思考を飛ばしていると、当の本人は俺に無視されたと思ったのか、顔を膨らませながら俺のもとまで走ってきた。
そんなモジャ男の姿に、背後で構えていた家臣たちも「可愛い」と顔を綻ばせながらついてくる。
別に、可愛くはないと思うが。
だってモジャモジャだし。
「しゅう!無視すんなよ!」
「そうですよ。会長。静を無視するなんて、あなたがいくらワガママな俺様キャラだろうと許されませんよ」
「「そーだよー!静に謝れー!バ会長!」」
「……会長、……バカ」
うおおおお。
出会って早々家臣達からバカ呼ばわりされました、俺。
この体の人どんだけバカで有名なの。
もうちょっとバカは自重しろよ、この体の人さ。
でもちょっと“バ会長”って響き気に入ったかもしれない。
「無視してごめーん」
「おう!今日の秀は素直だな!!謝ったから許してやるぞ!」
「許してもらえてよかったわ」
俺は無事モジャ帝王からお許しを頂けたようです。
それにしても、やっぱスゲェなこのモジャモジャ。
そう、俺が改めてモジャ男の頭に乗っかるモジャモジャを凝視していると、背後に居た静の家臣達から驚きに満ちた声が漏れていた。
「……っ!あの何様俺様秀様が他人に謝るなんて……!」
「「なんか気持ちわるーい!」」
「会長……ふだん……謝らない……サイアク」
なんか酷い言われようだな、俺。
それに、モジャモジャに気を取られて今まで気にしてなかったが、モジャ男の家臣団の中には双子が居るじゃないか、珍しい。
それも顔激似だし。
しかもさっきから言ってる事が全てだだ被りしてるし。
極めつけにこの双子、俺の親衛隊長の悠木君並みに可愛い。
ハーフなのか何なのか目が青いし、肌の色素も薄い。
よし、芸能界に行ってこい。
「「バ会長がこっち見てるー。キモーい!」」
「…………」
でも、何かムカつく。
俺はコッチを見ながら「キモイ」を連呼する双子に口角が引きつるのを感じた。
くそ。クラスのケバい女子みたいでムカつく。
アイツら、カップラーメンを食ってた俺を一番最初にクセェとか言って真冬のベランダに追い出したからな。
ちっくしょう!
お前らの濃い香水のが臭いんだよ!
「お前らキティちゃん姉妹を見習って見分けつくように色違いのリボンでもしてろよ!バーカ!」
「「はぁ!?何言ってんの!?バ会長!別に会長に見分けられなくてもいーもん!僕達は静に見分けてもらえればそれでいーんだよーだ!ねー、静―?」」
「おう、俺はわかるぞ!右が友也で左が友樹な!」
「「さっすが静―!せーかい!」」
そう言ってフフンと得意気な顔で俺を見てくる双子に、俺は更に眉間に皺が寄るのを自分でも止められなかった。
つか、見分けたのは静だから!
お前らが得意気になるとこじゃねーだろ。
あぁ、コイツら俺のムカつく琴線に触れまくりだわ。
もう、触れ過ぎてメロディ奏でられる程だわ。
「お前ら見分けられるより、ヒヨコの雄雌を見分けられる方がレベル高いんですー!俺の近所に住んでたひよこ見分ける名人のおっちゃんのが凄いですー!おっちゃんならお前らだってすぐ見分けますー!」
「はぁ!?ムカつく!僕達とヒヨコを一緒にすんな!」
「ほんとサイアク!バ会長の癖に!」
「本性出たな!言ってる事ズレてますけどー!ムカつくって言った方がとも……なんとかで、サイアクって言った方がとも……なんとかだろうが!」
「「名前すら覚えてないじゃん!!」」
「黙れ!俺は名前を覚えるのが心底苦手なんだよ!お前ら何か双子で十分だ!セット売りだっつーの!」
そう留まるところを知らずヒートアップする俺と双子の口喧嘩。
そんな俺達の隣で、最初はポカンとしていたモジャ男だったが自分が話に入れない事に腹が立ったのか、またしても頬を膨らませて「俺を無視すんなー!」と持ち前の大声を使って止めに入った。
「「静―!こんなバ会長ほっといて俺達だけで早く食堂行こうよー!」」
「ほらー!そんな事言うなって!秀一人ぼっちで可哀想だろ!?な、秀も行くだろ?食堂!」
「本当に静は優しいですねぇ。秀?貴方も静の優しさに感謝しておく事です。私達は貴方なんか居なくともいいと言ったんですが、静は優しいからどうしても貴方も一緒がいいと……いいですか、これは静の優しさであって、別に静は貴方をどうこう特別に思っているわけではないんですからね?」
「……静……やさしい……」
そう、モジャ男の家臣達は一斉にモジャ男のモジャモジャ頭を優しく撫でながら、皆どこか敵対心に満ちた目で俺の事を見てきた。
しかし、俺はそんな事より撫で過ぎてモジャ男のモジャズラが取れないかと内心ワクワクしてそれどこれはなかった。
「「ほらー、そんなキモイ目で静を見てないでさ。早く支度しなってー!会長、トロ過ぎー」」
だが、残念ながらモジャ男のズラは寸分もずれることなく、俺の期待するポロリイベントは全く発生しなかった。
それどころか、双子の無駄に息の合った急かし方に俺は拳を握り締める羽目になってしまったぜ。
くっそう。マジコイツらムカつくな。
「シッシッ!早くそこのウゼェ双子は食堂なりなんなり行ってこいよ!……と言う訳で、俺はいいよ。モジャ……静。俺は今から野伏間君とおいしいカップラーメン食べるから」
「っへ!?なっ、なんで!?ってか、野伏間ってだれだよ!?」
モジャ男は俺の持っているカップ麺と俺を交互に見ながらメガネの奥に隠れた大きな目を更に大きくして俺を見てきた。
うん、この目の大きさはレンズによるものなのか生まれつによるものか若干気になるな。
「野伏間君は野伏間君だよ。俺と一緒の生徒会メンバーだし。俺、一緒に仕事しなきゃだし」
しかし、そう言った俺の言葉に反応を示したのはモジャ男の家臣の一人、やたらと鼻に着く敬語を話すメガネ君だった。
「貴方が……太一と一緒に仕事を……?秀、一体今更になってどういう風の吹きまわしですか?」
「どういう風の吹きまわしって……あのさー、俺は生徒会長だろ?生徒会長は生徒会の仕事をすんのは当たり前じゃん」
メガネの癖に頭わりーな。
とは、さすがに言わなかった。
だってメガネで敬語って、何気怒った時のみどりちゃんを彷彿として怖いもん。
「……秀、あなた……一体どうしたんですか……?」
「「会長、熱でもあるんじゃないのー?」」
「……会長……へん」
バカの次は変人扱いですか。
つか、一体何なんだよ、コイツら。
俺はいい加減、この目の前のよくわからない連中の相手をするのに飽き飽きしていた。
大体、このモジャ男の家臣団は一体俺とどんな関係なのだろうか。
双子とかメガネとか無駄にデカイ癖に話し方はたどたどしいヤツとか。
このバラエティに富んだ奴らは一体なんだ。
そしていい加減、俺の腹も限界だった。
多分、野伏間君なんか俺以上に限界なのではなかろうか。
早いとこ湯を沸かしにいかないと。
俺がそう思ってモジャ男家臣団を無視して給湯室へ向かおうと足を動かした時だった。
ガシリ。
俺の腕は突然、誰かによって力いっぱい掴まれていた。
え、何これ。
何気に痛いんですけど。
「秀!無理しなくていーんだよ!」
「………は?」
しかも、俺の腕を掴んで来たのは、他でもないモジャ男本人でした。
あれ、そんなに体も大きくないしモジャモジャなのに、何故にこんなに力強いの。
しかも、ちょっとうるさい。
この至近距離で話しているのに、何でこんなに声がでかいの。
「秀!生徒会長だからって、そんなに一人で頑張る必要ないんだぞ!」
「……いやいやいや、頑張れる程、俺そんなに出来る事なかったんですけど。殆ど野伏間君しか仕事してないんすけど」
「秀だって生徒会長以前にこの学校の生徒なんだから、自分のしたい事していーんだよ!」
「いや、だからさ、俺はブラインドタッチがしたいんだよ。かっこよく」
「秀!自分の気持ちに正直になれよ!?」
自分の気持ちに正直になるのだとしたら、とりあえず俺はカップラーメンが食べたい。
そう、俺がモジャ男に向かって口を開こうとした時だった。
バンッ!
俺の声が生徒会室に響く前に、少し離れた席から何かを叩く激しい殴打音が教室中に響き渡った。
激しいその音に俺は瞬間的に背中に嫌な汗が伝うのを感じた。
あぁ、またやってしまった。
「………うるさい」
「………………………野伏間君」
俺は居たたまれない気持ちで野伏間君の方へ目をやると、そこにはさっきまでの、柔らかい目を向けてくれた彼は居なかった。
とりあえず、野伏間君は机に手をついたまま、俺の方を見ようとしない。
「……会長、もう、仕事の事はいいからさぁ。無理せず、好きな事してれば」
「野伏間君」
声も冷たい。
さっきまで、少しは楽しく話せるようになっていたのに。
俺はガサガサと一人準備を始めた野伏間君を前になんだか凄く悲しくなるのを感じた。
もう、俺はよくも飽きずにこんな失敗ばっかりやるもんだ。
ほんとに俺はバカでアホで役立たずだ。
「「何、アレー?自分だって昔はよく遊びまくってたのにねー」」
「……太一も面倒な性格ですね」
「……太一……いや」
そんな家臣団の批判めいた言葉に、野伏間君は一瞬表情を悔しそうに歪めると、もう一度勢いよく自分の机を叩いた。
うおおおお、野伏間君をこれ以上怒らせんじゃねぇ家臣団!
「こんなとこじゃ、仕事もまともに出来やしねーよ」
野伏間君は顔を俯かせたままそう吐き捨てると、勢いよく生徒会室から出て行った。
うああああ、野伏間君待って!
「野伏間君!」
「秀!」
いや!
俺は野伏間君と一緒に仕事しながらカップ麺食べなきゃなんないの!
そんな俺の思考などお構いなしに、モジャ男君は俺の腕をガシリと掴んだまま離さない。
いや、マジモジャ男離せ!
「秀!お前、ほんとは生徒会長なんてしたくないんじゃないのか!じゃあ無理しなくていいんだよ!お前はお前のしたい事をすればいいんだ!」
そう、必死に叫ぶモジャ男の言葉に、俺は息の詰まるような、胸を思いきりかきむしりたくなるような違和感が心の中に現れるのを感じた。
モヤモヤする。
ゾクゾクする。
しかし、その違和感が何なのかわからないまま、とりあえず俺はモジャ男に向かって叫んでいた。
「俺は、なりたくて生徒会長になったんだ!」
叫んだ瞬間、俺の中の違和感も一緒に飛んで行った気がした。