※会計の独白、そして

 

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※城嶋学園高等部 生徒会会計

野伏間 太一の独白、そして

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イライラする。

イライラする。

 

あぁ、本当にイライラする。

 

俺は脇に抱えた自分用のノートパソコンを床に放り投げたい衝動を必死に抑え、乱暴に自分の部屋の扉を開いた。

 

生徒会役員と言う役職の特権から与えられた広い広い俺の部屋。

 

しかし今や、そこはかつての美しい姿からは想像もつかない程、荒れ果てた姿になってしまっていた。

床には不要な書類の山と脱ぎ散らかされた服、そして乱暴に食い散らかされたお菓子の袋で、足の踏み場もない程散らかってしまっている。

 

別に俺は特別綺麗好きと言うわけではない。

 

ただ、昔は毎晩俺の部屋へ変わる変わる来ていた親衛隊の子が勝手に掃除をして帰っていたので、俺の部屋は基本的に綺麗な状態で保たれていた。

あぁ、よく考えてみれば、俺は自分でこの部屋を掃除した事は一度もない。

 

他人から見れば、なんと恵まれたヤツだろうと思われるかもしれないが、確かに俺は今まで自分で部屋を掃除する必要など、これっぽっちもなかったのだ。

だから、俺の部屋はいつも綺麗であり続けられた。

 

しかし、最近は忙しすぎて、他人と夜にどうこうする暇は1秒たりともなかった。

だから……俺の部屋がこうなってしまったのは必然と言えば必然なのかもしれない。

 

しかし、さすがにこの惨状はあり得ないと、自分でも思う。

片づけをしてくれていた彼らがこの部屋を見たら、一体どう思うだろうか。

 

そんな事を思いながら、俺は誰も待つ者の居ないその部屋を、床にちらかるゴミを蹴散らしながら進んだ。

たまにペットボトルや缶だと思われる固いモノにも足がぶつかって少しだけ痛い。

 

けど、俺は進む。

自分一人しか居ない、その部屋を。

 

そして俺はリビングへ到着すると、部屋の入り口にある電気のスイッチに手をかけた。

すると、その瞬間薄暗かった部屋に光がともる。

 

まぁ、とは言っても、1週間前からライトの一つの蛍光灯が切れてしまった為、若干の薄暗さは残るが。しかし、それをどうこうする暇も、今は惜しい。

 

俺はリビングの真ん中にある広いテーブルの上にある大量のゴミを床に乱暴に落とし、その上にパソコンを置いた。

情けない事に、もうここまで来ると、掃除経験のない俺は一体どう片づければにいのか全く考えが及ばない。

俺は床に落ちまくったごみの山々に、小さくため息をつくと、それを無視しパソコンの電源に手をかけた。

光がともり、起動画面になるパソコンの画面を見つめながら、俺は机の上のゴミの山を無理やりどけて、顔を伏せた。

 

 

あぁ、イライラする。

 

 

俺は伏せた顔の下で、静かに目を閉じるとその瞬間蘇ってきた先程の不快な光景に、胸の中のどす黒いモヤモヤが激しくうねるのを感じた。

 

 

『秀!無理しなくていーんだよ!』

 

 

そう叫んだ転校生、朝田 静の声が耳から離れない。

 

無理?

無理って何だよ。

いきなり現れて、モノの道理を無視した事ばっかり言ってんじゃねぇ。

 

俺は視界の真っ暗な先で小さく自分の拳を握りしめた。

 

生徒会は昔からこうやってきたのだ。

無理するとか、頑張るとか、したい事とか、そう言う問題じゃないんだ。

 

学校運営の中心を担って仕事して、学園を盛り上げて。

その対価として、俺達はこうした立派な一人部屋や授業免除の特権が与えられて、日々学校運営の根幹を担ってきた。

俺達の先輩も、その前の先輩も、ずっとそうやって自分の役割を果たしてきたんだよ。

 

今まで56人の生徒会長達はそうして1年を一歩一歩積み上げてきた。

だから。

 

だから、俺達だってそうしていく筈だったのに。

 

俺は歴史云々なんて真面目臭い事言わないし、そんなの今までだって意識してたわけじゃなかった。

最初は、ただ選ばれたから仕方なく、って俺だってそんな気持ちだったんだ。

 

さっき友也と友樹が言ってたみたいに俺も仕事忘れて遊んだ事だってあった。

俺って、どっちかって言うと真面目って感じじゃなかったし。

仕事忘れて怒られた事なんかザラだった。

 

けどさ。

俺は……別に生徒会の仕事が嫌だったわけじゃないんだ。

忙しかったり、きつかったり、いろいろあったけど。

 

なかなか、俺はそう言うのも好きだったりしたんだよ。

あーでもない、こーでもないとか言いながらさ、書類作ったりイベントの立案したり、皆でお茶飲んだり。

皆、生徒会メンバーに選ばれるような奴らだから、アクの強いヤツばっかなんだよ。

俺も人の事言えるタマじゃないんだろうけどさ。

 

……だから俺達は衝突する事も多かった。

 

けど、メンバー全員幼等部の頃から此処に居るヤツらだから、お互い昔からの顔なじみみたいなもんなんだよな。

 

だからだろうね。

一緒に居て凄く気が楽って言うか。

 

どんなに激しい言い合いをしても、その後はいつも元通り、皆自分の仕事をする。

 

何事もなかったみたいにね。

だから、不思議な事に、俺はこの生徒会メンバーの関係を上手く言葉に表す術をもっていない。

 

皆さんは、一体どんな関係なんですか?

 

そんな事聞かれたら、即答できないし、答えにかなり困る。

 

会長だったら「下らねぇ質問しやがって。見てわかんだろ?コイツらは俺の下僕だっつーの!」とかそんな感じに答えてそうだけどね。

まぁ、ちょっとさっきまでの会長はそんな感じじゃなかったけど。

 

とりあえず、そんな感じで多分、それぞれお互いを褒めるような言葉は誰ひとり吐いたりしないだろう。

もちろん、俺だって同じ。

 

誰がアイツらのいいとこなんて言ってやるもんかっての。

恥ずかしいにも程があるし。

 

けど、多分心のどこかで思ってる事は、実は皆同じじゃないかと俺は思っていた。

 

そこに居るのが当たり前で、恋人みたいに近くには居ないけど、決して遠い存在じゃない。

 

簡単に言うと……“友達”ってヤツに一番近い関係じゃないかと思う。

誰も認めないと思うけどさ。

けど、確かに俺たちはそんな感じの関係だったのだ。

だから、俺はあのメンバーで何かするのは結構好きだった。

誰かしら、いつも何かを起こしてくれる。

一緒に居て、退屈なんて全然しない。

 

それは、他の皆も同じだと、俺は心のどこかで勝手に思っていたのだ。

そう、勝手に。

 

一緒に居て楽しいなんて思っているのは、実は俺だけだったのかもしれない。

気の置けない仲なんて思っていたのは、俺の一人よがりだったのかもしれない。

 

そう、転校生が来てから俺は何度も思い知らされた。

 

 

転校生は言った。 

真面目で、几帳面で、そしていつもだらしない俺を叱ってくれていた五木 佐津間に。

『無理して笑わなくていいんだよ!お前はお前が笑いたい時だけ笑えばいいんだ!』

 

 

転校生は言った。

口下手で、人見知りで、でもいつも必死に何か伝えようとしていた岡崎 陣太に。

『無理して喋ろうとしなくていいんだ!お前の言いたい事は、俺にはちゃんと伝わってる!』

 

 

転校生は言った。

明るくて、生意気で、でもいつも二人一緒に生徒会の雰囲気を盛り上げていた油屋 友也、友樹に。

『無理して二人同じでいなくてもいいんだ!二人は双子だけど、別々の人間なんだから!』

 

 

転校生は言った。

ワガママで、俺様で、でもいつもこの学園を誰よりも引っ張ってくれていた西山 秀に。

『お前ばっか頑張る必要ないんだ!まずはお前が楽しめよ!』

 

なぁ。

お前らさ、いつも“無理”してたのか?

 

イヤイヤ生徒会の仕事してたのかよ。

『アイツは俺達の言って欲しい言葉をくれるんだ』なんてバカ言ってんじゃねぇよ。

 

お前らは今までの自分の活動を否定すんのかよ。

あんな突然やってきたわけわかんねぇヤツに、なに勝手な事言わせてんだよ。

 

俺は真面目じゃなかったし、なりたくて生徒会に入ったわけでもなかったけどな。

俺はお前らと生徒会してんのは、なかなか……好きだったんだよ。

なのに、何、勝手な事言ってんだよ……畜生。

 

 

 

 

畜生。

 

 

 

 

 

 

 

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