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第9話:捜しモノは何ですか
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夢って、すっげー場面転換多いよね。
そんで、けっこう内容はカオスだったりするよね。
その中で、自分の行動とか言動も一緒におかしかったりするよね。
うん。
夢って、全てのモノが大概いつもおかしいよね。
知ってる知ってる。
最初は見知らぬ食堂だった。
そこで、俺は自分の唇に何か柔らかいモノを押しあてていた。
柔らかいモノ。
それは、まごうことなき誰かの唇だった。
『ってめー!急に何しやがんだ!?』
あれ?何これ?
『ぐっぁ!!』
『ふっ、ふざけんな!!』
うおおお。
何か急に殴られました。
めっちゃほっぺが痛いです。
きっと、俺のほっぺは真っ赤になってる筈です。
そして目の前のモジャモジャも俺のほっぺ同様、顔を真っ赤にしてこっちを睨んでいます。
え、つか何でお前がここに居るんだモジャ男!?
『ますます気に入ったぜ。テメェは今日から俺のものだ!』
そして俺は一体何を言ってるんだ……?
待て、落ち着け俺!
そして、何を顔を真っ赤にして嫌がってるモジャ男を抱きしめているんだ!
ほらほら、モジャ男も『離せ』って言ってんじゃん。
離そうよ。
そして、落ち着こうよ俺!
『離せよ!離せったらー!!』
『っは!さっき殴られた分のお返し、テメェの体で払ってもらおうか?』
『ちょっ!待てよ!みんな見てるだろっ!?秀!』
いやいやいや!
顔赤くしてまんざらでもない顔するなモジャ男!
今の暴走した俺を止められるのはお前しか居ないんだ!
さっきみたいに殴ってでも俺を止めろ!
俺のほっぺが赤くなるのはこの際許すからっ。
すぐ目の前まで迫ったモジャ男の唇。
発狂しそうな俺。
ファーストどころかセカンドまでも、モジャ男に捧げるなんて、死にたいんですが。
そう。俺が襲い来る現実に目を閉じた時。
次の場面が現れた。
次は、見た事のある机の沢山ある部屋。
風紀委員会の会室だった。
『そこまでだ。西山』
『あ゛?またテメェかよ!今度は一体何に文句があんのかなぁ?クソ風紀委員長さんよぉ?』
うおおおお。
助かったー!
ありがとう!ありがとう秋田壮介!
『西山。今の生徒会を見て俺達が文句を言わないとでも思っているのか?』
『うっせ。テメェら風紀に生徒会をどうこう言われる筋合いはねぇんだよ』
いや!
そんな命知らずな事を秋田壮介に言わないで!
ほら、ほーら。
見てみ、俺!
秋田壮介が、今にも俺を黒魔術等の封印されし暗黒の力で殺害せん勢いの目で睨んでますよ!
怖い、怖いよ秋田壮介。
『この愚か者が。西山、その自分勝手な性格が今まで許されてきたのは、お前の人徳などではないぞ』
『うっせーんだよ!?風紀の指図は受けねぇ!俺は俺のしたいようにする!』
いやっ、謝りなさい!
謝りなさい俺!
もう、あの秋田壮介の目は俺には耐えられないぞ!
眼光だけでライフゼロになれるぜ。
怖いよ、怖い。
恐ろしいったらない!
『そうか……お前がそのつもりなら、こちらにも考えがある……』
ひぃぃぃ。
俺はギラリと光った秋田壮介の目に、本気で泣きそうになった。
けど、俺の体は勝手に秋田壮介を挑発する。
やめなさいって言っても聞かないんだ、この体ったら。
『っは、俺様をテメェがどうこうできると思ってんのか?秋田、テメェいい加減に自分の立場ってモンを考えた方がいいぜ。たかだか風紀の分際でよぉ!?』
『西山秀!今ここで俺はお前率いる生徒会役員に対して……暗黒の力を発動する!』
そう言って秋田壮介が俺に向かって手をかざしたと思うと、俺は激しい光の渦にとっさに目を閉じた。
ほら、ほら、ほら!
だから言ったじゃん!
秋田壮介怒って暗黒の力を発動しちゃったじゃん!
俺、もれなく死ぬかもしれないじゃん!
そうして、俺が次に目をあけた時。
そこは見慣れた教室だった。
『新谷。ラーメン一口くれ』
『あれ……封印されし暗黒の力は……?』
『はい、ネトゲ廃人への昇格おめでとう。っつーわけで、ラーメンくれ』
『ぎゃー!白木原!それ俺のコーヒー牛乳!!』
俺の目の前には、いつのもように素知らぬ顔をした白木原が居て、さらに素知らぬ顔で俺のコーヒー牛乳を飲んでいた。
そして、知らないうちに、俺の体はよくわからない支配から自由になっていた。
そして、俺がボケっとしているうちに俺の膝の上にあったラーメンまでも白木原の手に落ちていた。
『ぎゃー!ギャー!!俺のラーメン!!』
『うっせー。うっせー。うっわ、伸び伸びじゃねぇかコレ』
『文句あんなら食うな!』
『……あー、そういやさぁ。新谷。俺、お前に言う事あったんだわ』
俺が泣きわめきながら白木原の体を揺すると、白木原は何故か真面目な顔で俺の顔を見てきた。
その間も、俺のコーヒー牛乳をストローで吸いまくる白木原。
いやっ、白木原と間接キスとかイヤっ!
『俺もお前に言いたい事がある!俺のコーヒー牛乳とラーメンを穢した罪で死ね!』
『新谷、ごめんな』
『うおっ!?』
そう、急に白木原が謝ってくるもんだから、俺は一瞬何も言えなくなってしまった。
まぁ、その間も、白木原は俺のコーヒー牛乳をデカい体でチュウチュウ吸ってる。
何だよ、コーヒー牛乳の500mlと対比させて自分のでかさを更にアピろうって魂胆か!
ござかしいヤツだな。
『何だよ!何で急に謝るんだよ!そして合間合間に飲むのはやめろよ!』
『新谷。ごめん。とりあえず、謝っとく。そんで、あと、お前の生徒会選挙の時のも謝っとく。学校サボってごめん。どうしてもエロゲがしたくて休んだ』
『そうだよ、お前は友達よりエロゲを取ったんだ!もっと謝れ!そして、俺のコーヒー牛乳を口から離せ!』
『でさ、あと……最後にいっこだけ言うわ』
『……とりあえず謝るより先に、飲むのをやめろ……』
俺がどんなに言っても白木原は飲むのを止めない。
うん、コイツは昔からこんなヤツだわ。
知ってた、知ってた。
『新谷』
『何だよ』
俺はコーヒー牛乳を諦めて、白木原を見る。
そしたら、いつの間にか白木原の手からコーヒー牛乳は消えて、真剣な表情で俺を見つめる白木原が、そこには居た。
『生徒会長、お前でよかったよ。だからさ』
『へ?』
『仕事、サボんなよ』
怒られんぞ、みどりちゃんに。
白木原はそう最後に笑って言うと、勢いよく俺の体を押した。
そしたら、何故か俺の体は教室だった筈の場所から、勢いよく落ちた。
あれ?
そう思った時。
俺の視界はうっすらと目の前に広がってきた、柔らかい光に包まれていった。