第11話:俺の幸せは、ここにある

 

 

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第11話:俺の幸せは、ここにある

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「今日さー、俺めっちゃ怖い夢みたんだー」

 

「ふーん」

 

「どんな夢だと思う?もう恐ろしくて恐ろしくてたまらん夢だよ。野伏間君ならきっと泣いちゃうんじゃないかなー?」

 

「ふーん」

 

「なんと!俺とあのモジャ男がキスする夢でしたー!」

 

「それ、夢じゃなくない?」

 

「え!?」

 

 

無事、朝のたった一人のあいさつ運動を終えた俺は、今日も今日とて野伏間君と生徒会室に居ます。

 

無事とは言っても、俺は秋田壮介と悠木君によるサンドイッチの刑により、何か大切な物を失ったような気がするのだが。

 

パシャパシャ写真とか撮られてたし。

皆、こっちみてヒソヒソ言ってたし。

 

マジでたまったもんじゃねぇな。ほんと。

……でも、まぁ、ほんとにたまったもんじゃねぇのは俺じゃなくてあの二人なのかもしれない。

 

俺は昨日から風呂とか入ってなかったからアレだけど、多分悠木君や秋田壮介はきちんとお風呂に入っていると思う。

だから、どちらかと言えばダメージを受けたのはあの二人の方かもしれないと考えると、なんとも言えない気分だ。

 

ごめんね、二人とも。

 

 

「またまたぁ!野伏間君?そうやって俺の夢を利用した悪い冗談はよしこさん!」

 

「……………」

 

「……ごめんなさい。よしこさんとか言ってごめんなさいふざけてました。ごめんなさい無視しないで下さい。下らない事いいましたすみません」

 

「……カイチョー、暇なのはわかるけど、仕事の邪魔しないでよ」

 

 

二人にダメージを負わせてしまった俺だが、俺だって風呂には入りたかった。

ただ、風呂がどこだかわからなかっただけだ。

 

 

「野伏間くーん。野伏間くーん」

 

「……っはぁ。邪魔しないでってば」

 

 

つーかさ、うん。

 

さっきから野伏間君が物凄く冷たいんですけど。

今日こそはバリバリ仕事をしてやるぜ!と、1限目の授業から生徒会の授業免除権と言う凄い特権を利用してここに居るのに、全く持って俺は役に立っていない。

 

由々しすぎるな、この事態。

そして、寂しすぎるよ、野伏間君。

 

 

「野伏間くーん、野伏間くーん。俺も何か仕事をしたいよー」

 

「だぁかぁらぁ、じゃあカイチョーは何が出来るわけ?」

 

「………俺の可能性を見出して!」

 

「そんな暇ないし」

 

 

こうして話をしている間も、野伏間君はちょっとだってこっちを見てくれない。二人で一緒に仕事をしているのに、こう言うのは寂しいじゃないか。

 

まぁ、俺は野伏間君からちょっと離れた所で足をブラブラさせているだけなんだけどね!

 

 

「……………」

「……………」

 

 

俺が余りの手持無沙汰具合に、またコンビニでコーヒー牛乳でも買ってこようかな、とカタカタパソコンを叩く野伏間君の手から目を離そうとした時。

 

物凄い早さで打ちつけられていた野伏間君の手が、突然ピタリと止まった。

 

 

「ねぇ、カイチョー……」

 

「っな、なになに!?」

 

 

まさかの野伏間君からのお呼び出しに、俺はガラガラ動く椅子で一気に野伏間君の至近距離まで近づいた。

 

いや、だってね。

今日初なんだよ。

こうして野伏間君の方から話しかけてくれたのは。

嬉しくてちょっと気合い入れて近寄っちゃったわけ。

 

そんな俺に、野伏間君はやんわりと椅子を離して俺から距離を取る。

 

うん、なんかスゲェしょんぼりキちゃうね!

 

 

「カイチョーはさぁ、転校生君の事、好きじゃないの?」

 

「転校生君ってだれ!?」

 

 

何やら意味深な顔で尋ねられたが、俺は野伏間君の言う転校生君とやらに全く覚えがなかった。

すると、野伏間君は小さく眉を寄せて俺を見ると、小さくため息をついてもう一度口を開いた。

 

 

「……朝田静の事」

 

「朝田静ってだれっすか……?」

 

「………モジャ男」

 

「あーっ!モジャ男ね、モジャ男!そう言えば昨日、静って名前なのにコイツうるせーって思ったもん。そうか、そうか。モジャ男の名前は静だったな。うるせーけど!」

 

 

モジャ男。

そう聞いて俺がやっと昨日のモジャモジャ頭のヤツを思い出して声を上げると、次の瞬間、俺はある一点に目が釘付けになってしまった。

 

 

「っははは!何だよっ、それ?」

 

「野伏間君……!」

 

「くっ、ははっ!でもっ、確かにっ、そうだねぇ!アイツ、すっげーうるさいもんな!」

 

 

野伏間君が笑っている。

 

目の前で肩を震わせながら手で口元を覆う野伏間君に、俺はなんだかたまらなく気持ちがウズウズするのを感じた。

 

あぁ、何だっけ?

こう言う気持ちって言葉じゃ何て表せばいいんだろう。

 

わかんないけど、とりあえず……

今、俺は飛び跳ねたいくらい凄く嬉しいと言う事だ。

 

だって、さっきまで全然俺の事見てもくれなかった野伏間君が、俺の言葉で笑ってくれたんだ。

 

俺は、仕事の出来ない役立たずだけど、やっぱり生徒会は皆で笑いながらやっていきたかった。

 

あいさつ運動で、朝から白木原を追いかけた時も。

俺一人で、生徒会選挙の壇上に上がって自画自賛の推薦文を読んだ時も。

 

バカかお前!?って後でたくさん怒られたけど、その時は周りでたくさんの人が声を上げて笑っていた。

そりゃあ、もう、本当に楽しそうに。

 

だから、俺は仕事も遅くて、バカで、役立たずだったけど。

ずっと生徒会長で居たかった。

大学の推薦も欲しかったけど、生徒会長は皆を楽しませる機会が沢山あったから。

 

だから、俺は生徒会長で居たかったんだ。

 

 

「野伏間君!野伏間君!」

 

「っは!?うっわ!?なに!」

 

 

俺は気持ちが高ぶるまま勢いよく椅子から立ち上がると、高ぶる気持ちの赴くままギュウと野伏間君に抱きついた。

ごめん、俺、風呂に入ってないけど、今は許して。

 

 

「俺の幸せはここにある!」

 

「っは!?ちょっと!カイチョー!?」

 

 

野伏間君はかなり慌てながら上から俺を見下ろしていた。

俺は野伏間君の体にしがみついたまま、悪いとは思いながらも顔をゴシゴシ擦り付ける。

 

別に顔の汚れを野伏間君になすりつけようってんじゃない。

ただ……

 

たださ。

 

 

「野伏間君!野伏間君!野伏間君!」

 

「……ちょっ。ほんとに。どうしたんだよー、カイチョー?」

 

 

野伏間君は呆れたような声を出しながらも、俺を無理やり引きはがそうとはしなかった。

ただ、ヒクヒクなる俺の背中をポンポン叩いてくれた。

 

本当に、自分でもよくわからないんだ。

ただ、何故だかわからないけど、急に涙が出てきたんだ。

 

なんだか胸の奥でつっかえていたモノがポロンて取れたみたいに。

なんだか、胸がすっとしたんだよ。

 

 

やっぱり、俺は生徒会長って奴が好きなんだなぁって。

改めて思ったんだ。

1か月しか、生徒会長できなかったのに。

 

変だなぁ……ほんと。

 

 

「朝は秋田に抱きついて、今は俺って……まったく、カイチョーったらネコにでもなっちゃったのー?」

 

「……みどりちゃんからはっ、学校の……忠実な……犬になれって、言われた……!」

 

「……ははっ、なんだよ。それ」

 

 

俺のよくわからない涙は、その後もしばらく続き

 

その間、野伏間君はずっと背中を撫でてくれていた。

 

 

 

 

 

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