第12話:ブラインドタッチ名人、俺

 

 

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第12話:ブラインドタッチ名人、俺

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職員室ってさ、どの学校も、もっと……こうゴチャゴチャして雑然としたもんだと思ってたよね。

たくさん、縦に先生達の机が並んでて、奥にそれを見渡すように置いてある、教頭的な人の机。

 

校長は、きちんと校長室があるから、多分あの手下の職員共を監視するような感じに置いてある机は教頭的なヤツの机だろう。

 

つか、教頭って普段なにしてんだろ。

校長は無駄に校内見回りしてたけど。

 

そのせいで俺授業中寝てたのを校長から担任にチクられましたからね。

忌々しい奴め!

 

 

 

まぁ、今はそんな過去の校長とのいざこざを思い出して腹を立てている場合ではない。

俺は現在、たった一人で、困り果てているのだから。

 

 

「………うおー。……うおおお……」

 

 

俺は目の前にズラリと並んだ大量の扉の数々に、先程買い物をしたコンビニの袋を危うく落としそうになった。

ちなみに中身はコーヒー牛乳その他もろもろ。

これは、野伏間君と休憩の時に食べようと思って買った大事な食糧だ。

 

 

そんな俺が買いだしのついでに寄ったのが……職員室。

……ではなく“職員棟”。

生徒会室を出たついでに、情報の先生の所にでも寄ってブラインドタッチの秘訣でも聞こうと思って寄ったのだ。

 

職員棟に。

 

俺は今、“職員棟”に居ます。

室ではなく、塔。

大事な事だから、何回も言いました。

 

もう、この金持ち学園の教師達は一室にゴチャゴチャとまとまって存在するのではなく、2階建ての建物に個人個人のテリトリー(部屋)を持ってしまったようです。

 

これでは、教頭も手下の教師共に目を光らせる事ができないではないか。

 

ヤベェな、この学校。

うん。

……マジヤベェ、この学校!

 

俺はコンビニの袋とは逆の方の手で持った、この学園の案内図をもう一度見て、此処が確かに職員棟である事を確認にした。

 

あ、この案内図は生徒会室でホッチキスの芯を捜索する際に、偶然見つけて入手したモノだ。

これ以上、迷子になるまいと密かに懐にしまい込んだ俺、グッジョブである。

 

RPGの世界なら、もっと序盤に手に入れるべきものだ。

多分、旅立つ時に村の長老とかそこらへんが気をきかせてくれたりする。

これが無かったせいで、俺は昨日今日とひたすら迷子になりまくってしまったのだ。

 

ほんとに畜生である。

 

 

「………えっと、えっとぉぉ」

 

 

俺は案内図をコンビニの袋の中に仕舞いこむと、ズラリと並んで存在する扉を見ながらフラフラと職員棟の廊下を歩いてみた。

どれも、同じようなシンプルな扉で、扉の上の方にはその職員の名前が書いてある。

 

まぁ、名前を見たところで誰が何の教科の先生なのかわかりゃしない。

 

 

「………どうしよう」

 

 

俺が一人でポツリと呟くと、その声は静かに廊下に響くだけで誰の返事も返ってきはしなかった。

 

静か過ぎるのは不安だ。

幽霊的なモノが出そうだから。

ほら、学校って何やら心霊現象とかの宝庫じゃん。

もうさ、この静けさ……絶対「出ますよ!」と言わんばかりに静かさだよ、もう困るこう言うの。

 

俺は廊下の真ん中程で、足を止めると、もう一度キョロキョロと周りの様子を伺った。

 

やはり、何の音も聞こえないし、誰も居ない。

3時間目の授業中とは言っても、さすがに誰も居ない筈はないだろうに。

 

 

職員室ならテキトーに「失礼しまーす」とか言って入って、誰か居る先生にイロイロ聞けば良かったのだが。

それぞれに個人部屋を持つ職員棟では、それは叶わないやり方だ。

 

せっかくホッチキス作業も終わり、そろそろ本格的にブラインドタッチの練習でもやろうかと言う時に……。

畜生、出鼻をくじくにも程があるぜ、職員棟。

 

 

「………帰ろう」

 

 

俺はブラインドタッチの夢を諦め、もと来た道を戻ろうと足を動かした

 

が、既に自分がどこから来たのか奇麗サッパリ忘れ去ってしまっていた俺は、先程コンビニの袋へ投げ入れた学園の案内図に手を伸ばした。

ヤベェ、もう本当にコレ持って来てて良かったわ。

 

そうでなけりゃ、こんな寂しい廊下でどうしていいかわからず、恐怖の余り泣くところだった。

よかった、よかった。

 

 

「えーっと、ここが職員棟だか「キミ、こんな所でどうかしましたか?」

 

 

っひぎゃあああああ!!」

 

 

俺は背後から突然聞こえてきた声に、心の底から叫び声を上げると、一気に立っていた場所から勢いよく飛び跳ねた。

飛び跳ねた瞬間、俺は丁度背後にあった扉に背中を強く打ちつけて思わず「カハッ」ってなってしまった。

 

まるで少年漫画の戦闘シーンで背中を打ちつけたみたいな効果音で、一瞬だけちょっとカッコイイなとか思ってしまったがそんな場合ではない。

 

なんか後ろに居る!

ホラ!出た!やっぱ何かでた!

 

 

「うあああああ!?ナニナニナニものだ!?俺の背後に立つなぁぁぁ!!ごめんなさいぃぃぃ!!」

 

「えっ、は?ちょっとキミ!大丈夫?」

 

 

俺は壁に背中をひっつけたままブンブン振りまわすと、何やら相手は慌てたように俺に向かって声をかけ続けている。

しかし、この時の俺も俺で衝撃の余り、相手を恐怖対象と認識してしまっていた為、とりあえず手持ちの武器であるビニール袋を振りまわすのを止めなかった。

 

知ってた?

俺ってスッゲェビビりなんだぜ!

 

 

「いやだー!いやだー!!」

 

「ほら!えっと、キミは……生徒会長の西山秀君ですね?落ち着いて!どうしたの?って、イタっ!ちょっ!西山君、痛いから!」

 

 

ガンガン俺のビニール袋が相手に当たる中、俺は徐々に相手の声が耳に入ってくるようになっていた。

まぁ、なんてったって相手の「痛い」がマジな感じになってきた挙句、相手からガシャンと異質な音が響いたのが全てのきっかけですよね。

 

 

「……っうあ?」

 

そこで、俺はやっと正気を取り戻して相手を見上げると、そこには引き攣った笑顔を浮かべながらヒビの入ったメガネをかけるスーツの男が居た。

 

 

メガネ、ヒビ。

袋を振りまわした俺。

すなわち、メガネを割った犯人

 

 

俺。

 

 

「うああああ!?メガネがっ!?うわっ!マジでごめんなさい!すみません!」

 

「……いや、落ち着いてくれたのなら良かったよ。キミの方こそ大丈夫?西山秀君」

 

 

そう言って笑顔で俺に手を差し出してくれた相手……多分先生に、俺は先程までの自分の恐慌に、ただただ申し訳ない気分になるしかなかった。

もう、本当にタチの悪いビビりですみません!

つか、俺はどうしてこんなに聖母のような笑顔を浮かべている相手に恐怖してたんだよもう!

 

ビビり通り越して重度の挙動不審か、俺は!

 

 

 

 

 

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