第12話:*****

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「って、ひろっ!?」

 

「そうですか?他の先生と同じ部屋の作りだと思いますが」

 

 

マジすか。

佐藤先生の部屋へ入ると、そこは普通に上等なホテルの一室のような作りになっていた。

おいおい、ここは職員棟ですらねぇよ。

ここは職員ホテルだ。

 

マジで職員室よ、どこへ行く。

そしてこれではいよいよ、教頭の監視の目など届きそうにないな。

 

 

 

「多分、私なんかの部屋より、君達生徒会の特別寮の方がもっと奇麗じゃないですか?」

 

「………あー、そうなんですか」

 

 

 

俺は佐藤先生の言葉をまるっきり他人事気どりで聞いていると、先生は奥にある職員テーブルのような机から、サラリと新しいメガネを取り出して、また何事もなかったようにかけていた。

 

マジで代えのメガネも最初のヤツと全く同じデザインのモノを出してきていたので、きっとあの引き出しにはあと10個は同じデザインのメガネがあるとみたぜ。

 

 

「えっとー、さっきのブラインドタッチの話ですが、キミはいつもパソコンで生徒会関連書類を作っているんじゃないですか?いつもきちんと提出されていますよ?」

 

「……ううう、それは俺の手柄じゃないんです。全部、野伏間君の手柄なんです……」

 

「野伏間君て……あの、会計の?」

 

「はい……だから、俺どうしても野伏間君みたくバンバン早くキーを打って仕事を手伝えるようになりたいんです。俺、このままじゃただの生徒会長の皮を被った穀潰しなんです……」

 

「っはは、穀潰しはいいね。本当に、今までイメージしていた西山君と全然違うなぁ」

 

 

先生はそう言って笑うと、机の脇にある棚から何かを取り出そうと手を伸ばした。

何かブラインドタッチの秘薬とかがあるのだろうか。

普通に情報の教科書とか出されたら、俺泣くからね。

 

 

「ブラインドタッチって言うのはね、指のホームポジジョンとかそう言うのがポイントになってくるんだけど……。そうだね、こればっかりは、もう使って慣れるしかないんだよね」

 

「うえええ」

 

 

その使いながらってのが、まずどう使ったらいいのかわかんないのに。

先生、まる投げはよして!

 

俺がうんざりと肩を落とすと、そんな俺に先生は楽しそうに笑いながら俺に向かって何かを差し出してきた。

いやっ、情報の教科書はいやっ!

 

 

「はい、これ。帰ったらやってみて」

 

「んん?」

 

 

そう言って先生が俺に差し出したのは、情報の教科書ではなかった。

そこにあったのは……

 

 

「CD……?」

 

「それ、キーボードに慣れる為の……まぁゲームみたいなものが入ってるから、帰ったら自分のパソコンでやってみて」

 

「ゲーム!」

 

「そうそう、多分、それだったら楽しく練習できるんじゃないかな?」

 

 

まさかの先生の口から発せられたゲームと言う言葉に俺は、ワクワクしながら、先生の差し出すディスクを受け取った。

おー、これで俺もブラインドタッチ名人か。

 

そんな俺に、先生はまたしても幼稚園の園長先生のような表情で俺を見てくる。

まいったな、俺はこれでも17歳なのだが。

 

 

「先生、ありがと!これ、ちょっとやってみる!これ、いつ返しに来たらいい?」

 

「いつでも。キミがブラインドタッチの名人になった時でいいよ」

 

「うおー、けっこう借りパクレベルの長さで貸し出す事になると思うけど、佐藤先生、それでもいいの?」

 

「はい、よろしければ差し上げてもいいくらいですから」

 

「わーっ!先生、ありがとう!」

 

 

最早、俺は絶対返さないだろうなと言う気分でそうお礼を言うと、先生はウンウンと微笑みながらまさかの俺の頭を撫で始めた。

まいったな、俺は17歳の性別男なのだが。

 

 

「佐藤先生、ありがと!これ、今から生徒会室でやってみるよ!」

 

「はい、是非、やってみてください」

 

 

そう言って笑う佐藤先生に俺は頭を下げると、ホテルの一室レベルの個別職員室を出ようとした。

しかし、動く度に盛大にシャラシャラと音のする自分の手の中にあるコンビニの袋の音を聞くと、俺はどうにも後ろ髪を引かれる思いがして、足を動かす事ができなかった。

 

俺は、このコンビニ袋と言う初期装備で佐藤先生の眼鏡を叩き割ってしまった。

 

 

そうだ、俺は先生のメガネを叩き割ってしまったのだ。

大事な事だから何度だって言う。

 

俺は先生の眼鏡と言うアイデンティティを叩き割ったのだ。

 

にも関わらず、先生はこんなにも俺に優しくしてくれた……。

佐藤先生、男だけどマジ聖母だし。

 

うあああ、これは俺の最強のお礼をするしかない!

 

 

 

「佐藤先生!」

 

「はい?」

 

俺は扉からクルリと背を向けると、少しだけ驚いたような顔で俺を見ている佐藤先生の前まで歩いて行った。

そして……

 

 

「先生!これ、あげます!」

 

「……あ、はぁ?」

 

 

俺は、俺の元気の源である、コーヒー牛乳を先生に上納した。

うおおお、これは俺の、俺による最高の感謝です。

佐藤先生。

 

実は俺は白木原から奪われる以外で、自分の分のコーヒー牛乳を他人に渡した事がない程のコーヒー牛乳愛好者なんです。

なのに、白木原は毎日俺のコーヒー牛乳を奪っていました。

ヤツ以外では初めてなんです!先生!

 

俺のハジメテを先生に捧げます!

 

 

「これ、めっちゃ美味しいですから!疲れた時に飲んでください!あ、これ、ストローです!」

 

「あ、はい」

 

「この脇の方を開けて、そこにこのストローを突っ込んで飲んで下さい!そして勢いよく吸って下さい!」

 

「は、はい!」

 

「それじゃ、先生さようなら!」

 

「はい、さようなら……!」

 

 

俺はそう言って勢いよく部屋から出て行くと、そのまま振り返らず走って行った。

振り返ると、あのコーヒー牛乳との別れが辛くなるからな……。

さらば、俺のコーヒー牛乳。

 

そして、こんにちは。

新しいコーヒー牛乳。

 

 

俺は職員ホテルから脱出すると、その後すぐにまたコンビニに寄ってコーヒー牛乳を購入する事に成功した。

グッジョブ、校内案内図。

そしてコンビニ店員からは「またコーヒー牛乳ですか」って笑われた。

 

 

 

そして、俺は現在。

また生徒会室で野伏間君とゆったりしたコーヒー牛乳タイムを味わっているのでした。

 

 

 

「カイチョー、それ何やってんの?」

 

「うおおお、これはっ、ブラインドタッチの練習っうああー。ゲームオーバー……」

 

「……ちょっと貸してみー」

 

「うおおお!野伏間君スッゲェ!カッケー!」

 

「当たり前―」

 

 

早くブラインドタッチマスターしねぇと。

 

 

 

 

 

 

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