※風紀委員顧問の小さな独白

 

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※城嶋学園高等部

風紀委員顧問。

佐藤 忍(さとう しのぶ)の小さなの独白

 

 

 

こんな子だったのか。

そう、彼を……西山秀君を見た時私は改めて思った。

 

西山君の噂は、よく、ある一人の生徒から聞いていた。

俺様だの、ワガママだの、自分勝手だの、愚かだの。

 

そんな負の情報ばかりを耳にしていた。

まぁ、そう言っていたその生徒だが、嫌悪を帯びた感情でそう言っているわけではない事は彼の表情を見れば一目瞭然だった。

 

負の事ばかり並べ立てる彼の口は、西山君の話をする時はいつも以上に饒舌だった。

そして、真面目で実直と言われる真っ直ぐな目は西山君に向けられる時は、いつも以上に真っ直ぐで輝いていた。

 

 

『また、西山のヤツが……』

 

 

そう、彼、風紀委員長である秋田 壮介は、いつも私に西山君の話をしてくれていた。

この、風紀委員会顧問の私に。

 

 

全校集会などで見る彼は、確かに自信満々で、他の人間にはない堂々たるモノを持っているように見えた。

だから、私も西山君と言う人間は、秋田君の言うようにアクの強い自信満々な男の子を想像していた。

 

 

しかし、それはどうやら間違いだったようだ。

 

 

『わーっ!先生、ありがとう!』

 

 

そう言って笑う彼は、近年では稀に見る素直ないい子のように、私には見えた。

少し周りが見えない所があるようだが、あそこまで全てに素直に向き合っている生徒は、今では珍しいのはないだろうか。

 

私は、先程西山君に手渡した小学生用のパソコン教材を思い出し、笑みがこぼれるのを止められなかった。

今頃生徒会室のパソコンを使い、アレで遊んでいるのだろうか。

 

今、生徒会はイロイロ問題があると秋田君は言っていたが、教師と言う私の目から見れば至って健全のように見える。

そう、私が今の生徒会について考えを巡らせていると、突然静かだった部屋に、控えめなノック音が響き渡った。

 

 

 

「佐藤先生、失礼します」

 

「あぁ、いいよ」

 

 

噂をすれば何とやら。

失礼します、そうピシリとお辞儀をして入って来たのは私の担当する風紀委員の委員長、秋田壮介君だった。

 

 

「先生、こないだの体育祭の違反者のリストと、問題事後処理の書類、まとめ終わりました」

 

「そうかい。御苦労さま」

 

 

私はいつものように秋田君から書類を受け取ると、秋田君はなにやら私の机を見て訝しげな表情を浮かべた。

あぁ、アレが目に入ってしまったようだね。

 

 

「……先生があのようなモノをお飲みになるなんて、珍しいですね」

 

「あぁ、あれかい?」

 

 

秋田君の視線の先にあるもの。

私は飲みかけのソレに手を伸ばすと、少しだけ秋田君に意地悪をしてやることにした。

 

 

「コーヒー牛乳、おいしいんだよ」

 

「へぇ。先生は紅茶派だとばかり思っていました」

 

「うん、私もさっき西山君に貰うまで、飲んだ事なかったから。意外とおいしいんだね」

 

 

私が何の気なしにそう言うと、予想通り、秋田君の表情はみるみるうちに驚きの色に染まって行った。

 

 

「っは!?西山?西山とは、西山秀の事ですか?」

 

「そうだけど。どうかしたのかい?」

 

「どうかって……佐藤先生、西山がどうして佐藤先生の所に来るんですか……?」

 

 

少しずつ鋭さの増す秋田君の目に、私は大人げない事に、少しだけワクワクしてしまっていた。

この子は、いつも冷静沈着で、周りの生徒からも教師からも信頼される生徒だった。

 

それはもちろん私だって同じ。

だけど、こうしてそんな秋田君の冷静な仮面が破られる瞬間と言うのはいつも決まって西山生徒会長が絡む時。

 

だから、私も時々凄く彼をからかいたくなるんですよね。

いつも冷静な彼の、仮面の下の、普通の17歳の顔を見たくなったりしてね。

 

 

 

「どうしてって……、そりゃあ教師と生徒だもの。イロイロな繋がりはあるよ。私だって、そして西山君だってね。彼がどうして此処に来たのか、何か秋田君に関係のある事なのかい?」

 

「っそうではありません……。ただ、ヤツは生徒会ですし……。それにどうして、アイツがそんんあモノを先生に渡したのか……。いや別にそれはどうでもいいんですが……」

 

「どうでもいいなら、まぁ気にしなくてもいいじゃないか。ねぇ、秋田君?」

 

「………そう、ですね」

 

 

あぁ、なんて楽しいのだろう。

そう考える私は、なんて悪い大人なんだろうね。

 

けえど、こうして悔しそうに私を見てくる秋田君を見ると、どうにも楽しいので意地悪は止められそうにないね。

 

 

「……それでは、用は済みましたので、俺はこれで」

 

 

そう言いながらでさえ、私の手のコーヒー牛乳から目を離さない彼は、どこまで行っても17歳の若い男の子でしかない。

だから、悪い大人は最後にもう一つだけ意地悪をしようか。

 

 

「秋田君」

 

「なんでしょう」

 

 

そう言って振り向いた彼に、私は笑顔で言う。

 

 

「これ、西山君のお気に入りなんだよ?こうして私に“先生、ありがとう”って言いながらお礼でくれるくらいだからね」

 

「………」

 

「秋田君も、買ってみるといいよ?本当に、おいしいから」

 

「………失礼します」

 

 

秋田君は私からすぐに視線を逸らすと、そのまま勢いよく部屋から出て行った。

あぁ、本当に私は嫌な大人だなぁ。

秋田君、素直じゃないから、ぜったいにコレ買ったりしないだろうなぁ。

 

 

気になって、気になって、仕方なくても。

 

 

あぁ、本当に若いって楽しいね。

 

 

私はクスクス笑いながら、ストローに口をつけると、甘いソレを飲み下した。

 

 

 

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