第14話:*****

 

余りに予想外の事態に俺がガッツリ固まっていると、突然、俺の後頭部に重い衝撃が走った。

 

 

「ったぁぁぁ!!」

 

「俺様ナルシストも大概にしやがれクソ会長さんよぉ!?」

 

「ちょっ!悠氏!秀様になにしてんだよ!このバカ!っ大丈夫ですか!?秀様!ごめんなさい!」

 

「お前は黙ってろ、このクソビッチ!つーか、俺が聞きたいのはテメェのナルな独り言じゃねぇんだよ!この記事に書いてある事はマジなのかガセなのかって事だよ!?」

 

 

そう俺に向かって怒鳴りながら俺の目の前に新聞記事を突き出してくる悠氏先輩に、俺は言葉の意味がわからず思わず首をかしげた。

しかし、そんな俺の態度が気に食わなかったのか、悠氏先輩は新聞を持つ方とは逆の方の手で思いきり拳を作って震わせている。

 

 

え、どんだけっすか。

どんだけ俺の一挙手一投足がお気に召さないんですかね。

 

 

「だーかぁら!これはマジなのかどうなのかって事だよ!?」

 

「うえっおっ!ちょっと!悠氏先輩どうしてそんなに拳を振りかぶっていらっしゃるんですか!?」

 

 

本格的に俺を星にする準備の整った悠氏先輩に、俺はとりあえず自分の腕で自分をカバーしようと手を前に出した。

しかし、それと同時に怒りに打ち震える悠氏先輩の拳を、隣に居た野伏間君の一回り大きな手が包み込んだ。

 

その瞬間、般若の如く歪められていた顔が、一瞬にしてに恋する乙女のような儚げな表情を浮かべた。

最早それは顔芸のレベルだ。

 

とてもじゃないが、ごく日常的な顔の動きじゃ、顔の筋肉はあんなに激しく収縮しない。

うん、絶対。

 

 

「悠氏センパーイ。そんな事したら、センパイの奇麗な手が赤くなっちゃうよ。ね?止めましょう?」

 

「っぁあ!太一様!すみませんっ!俺ったら太一様の前でこんなはしたない事しちゃって」

 

 

俺が悠氏先輩によって振りあげられた拳に頭を抱えて丸まっていると、俺の頭の上からなんとも色っぽい言葉の応酬が聞こえてきた。

少しだけ腕の隙間から悠氏先輩を見上げてみると、そこには悠氏先輩を後ろから抱き締め、耳元で囁く野伏間君の姿が合った。

 

囁かれた悠氏先輩は最早自分で立つ事は叶わないようで、完全に腰砕けの状態だった。

 

 

うーわ、エロボイス、エロボイス!

野伏間氏のエロボイス発動。

男同士なのに、無駄にエロイのは二人とも美形だからだろうか。

 

 

俺がそんな事を思っていると、蹲っていた俺の頭上にボフンと、先程とは違った衝撃が走った。

俺の頭の上に乗っかってきたもの。

それは、先程まで俺の隣でアワアワしていた悠木君だった。

え、何、何、何。

この訳のわからない状態。

 

 

「俺がっ!俺が悠氏の拳を代わりに受け止めますから!秀様を守りますー!」

 

「首っ!首がっ!首が体にのめりこんじゃう!!いだだだ!」

 

 

まさかの悠木君の予想外行動は、体を張ったバリアーと言う名の一撃必殺だった。

もちろん俺への。

 

おう、これ、ガチ首が痛いね!

いやっ!俺の首がなくなっちゃう!つか折れちゃうっ!

 

 

このままでは、悠木君もろとも地面に倒れこんでしまう。

そう俺の力の限界を感じた瞬間。

今度も運良く、俺の頭の上の攻撃的防空頭巾は取り除かれた。

 

もちろん、エロボイス、野伏間君によって。

 

 

「悠木センパーイ?カイチョーならもう大丈夫ですよー」

 

「ひゃっ!ちょっと!離しないさい!俺の触れる事が許されて居るのは秀様ただ一人ですよ!?」

 

「はいはーい。お離ししまーす」

 

「秀様―!俺、秀様以外の殿方に手首を掴まれましたー!」

 

「…………野伏間君、本気で助かったよ。ありがとう」

 

「どういたしましてー」

 

「秀様―!秀様―!」

 

 

どうやら、悠木君の悲痛の叫びによると野伏間君が、悠木君の腕を掴んで俺を救出してくれたらしい。

マジで、心の底から恩に着ます。

 

俺が双子のダブル恐怖から逃れ、少しだけ泣きそうな目で野伏間君を見ると、野伏間君は、最早当たり前のように俺の頭を撫で始めた。

うん、もういい。

もう、俺まいったなんて言わない。

 

野伏間君について行く。

 

 

「はい。時間もあんまりないし、話を戻すよー。俺は本当に時間ないからねー」

 

「はーい」

 

「わかりました!太一様!」

 

「うううー、手首―」

 

 

若干1名、腕をさすりながら泣きに入っている子がいるが、俺はスルーさせて頂きます。

だって、俺も早く風紀の会室に行かないといけないから。

 

 

「とりあえず、カイチョー?カイチョーは秋田と付き合ってるの?」

 

「ちょっと待ってよ!?俺男の子!男の子だよ!?そして秋田壮介はラスボスだよ!?付き合うとか冗談はよし子さん!」

 

秋田壮介と付き合う場所なんか、きっと地獄の沙汰以外にねぇわ。

 

そう、俺が慌てて首を振ると、野伏間君の隣に居た悠氏先輩が中指を立てん勢いで眉間に皺を寄せて俺の事を見ていた。

え、何何。

その不満そうな顔は……!

 

 

「ヤリチン魔の癖に今さら何言ってんだっつーの!すーぐ転校生にも腰振って近寄ってった癖によぉ」

 

「ほーら、センパーイ。はしたないですってー」

 

「きゃっ!俺とした事が!」

 

 

きゃっ!とか言いながも、悠氏先輩の指はとうとう中指を立て始めてしまった。

つか、何?

男同士とか、そう言うのはこの学園じゃ総スルーなんですね。

 

なんとなく……昨日の悠木君からの熱愛告白とか、さっきの野伏間君と悠氏先輩のやり取りとか見てて予想してたけど。

へぇ。

 

……へぇ。

じゃあ、俺もその事実から総スルーで行こう!

たとえ、この体のヤツがヤリチン魔でも。

 

 

 

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