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第16話:俺の俺による俺の為の
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さて、どうしたものだろう。
俺は、ホーム画面のまま止まった自分のパソコンを前に、手も足も出せないまま時計の時間だけが過ぎて行くのを感じた。
現在、午後2時30分。
授業時間的には現在5限目に入ったところだろう。
奥の席では、出会った当初のように野伏間君が鬼の形相でパソコンをブラインドタッチしている。
しかし、俺はもう最初みたいに「わぁ、ブラインドタッチかっけー」などとお子様な事は言わないし、思わない。
ただ、少しだけ大人になった俺は、野伏間君の形の良い唇にしか目がいかない。
そして、また体が熱くなるのを必死で抑えると、ブンブンと頭を振って思考を元に戻した。
そう、俺は知ったんだ。
正直、ブラインドタッチが出来ても、今この瞬間の俺には一切役に立たないスキルでしかない事を。
現に、今俺はホーム画面から一切画面を動かせずに居る。
佐藤先生、ごめんなさい。
あのゲーム、面白かったけど一回り成長した俺にはあんまり役に立ちそうにありません。
どうせなら、ワードとかエクセルとか、そう言うのを習えば良かったって思います。
なので、今度はそっちを習いに行きます。
もう、ブラインドタッチにはこだわりません。
ちょっと大人になった俺を見て下さい。
追伸
この学園には悪魔が居ます。
佐藤先生も、コーヒー牛乳をぶっ飛ばされないように注意してください。
俺より
と、心の中で佐藤先生にマインドレターを送ってみる。
そして、それは今の俺にとってはただの現実逃避でしかない事を、俺自身理解している。
さて、どうしたものだろう。
俺は机の上にある大量の書類の山を横目に見ると、溜息が出そうになるのを堪え、必死にない頭をふり絞る事に意識を集中した。
どうして、俺が今こんな手も足もでない状況に陥っているのか。
理由は約1時間前。
俺が悠木君と風紀委員の会室から生徒会室に帰って来た頃までさかのぼる。