第16話:*****

 

 

 

 

———–

 

 

さて、どうしたものだろう。

 

あの時、俺はどうしてあんな事を叫んだんだろう。

 

俺はやはりホーム画面のまま動かす事のできないパソコンを前に、あの時の自分の暴挙を思い出して頭が混乱するのを感じた。

意識はあるのに、自分の言葉や行動に何か別の力を感じた。

 

アレは、一体なんだったんだ。

 

 

わからない。

全然わからない。

 

でも、今はそんな事よりまず

 

 

「………どうすっかなぁ」

 

 

手元にあるのは去年の文化祭の資料と言うヤツを見ながらポツリと呟いた。

何の力にせよ、俺はあそこまで野伏間君に向かって啖呵を切ったのだ。

この仕事とやらを明後日までに仕上げねばなるまい。

 

うおおお。

もう!

 

どうして啖呵を切った時の体の違和感が今になって奇麗さっぱり消えてるんだよ!

どうせなら、あの時の勢いのままこの仕事もしてほしたかったよ畜生。

全くこの体め。

 

俺はグッと自分の拳に力を入れると、その拳をジッと見下ろした。

 

あの時みたく、自動で無意識で動く、なんて今は期待できそうにない。

だって1時間待っても、どうにも変化はないから。

 

 

俺はボリボリと頭を掻きながら、意を決してもう一度パソコンと資料を交互に見た。

 

 

 

先程、秋田壮介から渡された資料。

 

それは見て見ると、様々な部活動とサークルの行う舞台や出しモノの集計のようだった。

そしてその下は、その出しモノに掛る予算とその内訳。

 

で、こっちの資料が去年のモノで、それを集計して表にしたもの。

バラバラだった予算の山が見事に奇麗な表にされている。

 

多分、赤い文字のヤツは予算をオーバーしてるって事だろう。

この場合は去年の資料には下に青文字で訂正予算が書き込んであるから……

 

これはその後、予算案改定をそれぞれの団体に打診した結果だろう。

今年のそれぞれの予算は、コッチの今年の書類に書いてある分で進行していけばいいわけか。

 

んで、こっちの書類はそれぞれが使用したいと思っている教室と体育館の場所の振り分け。

 

これはまだそれぞれの希望が出されているだけだから、今からこっちの去年の書類のように、それぞれの希望が通るようにまとめいかないといけない。

しかも、こっちは学校の立体図の中にそれぞれの部活動やらサークルの使用教室を時間ごとに書き込んで行かないといけないようだ。

 

これだと、もし、ダブルブッキングがある場合は、それぞれの部活動に当たって代替案を提案して使用教室をズラしていかないといけない。

まぁ、今年の書類を見る限り教室がブッキングする事はない。

問題なのはこの体育館の方だろう。

 

時間がブッキングしたり、イロイロと無理な面がかなりある。

 

こちらも今からそれぞれの団体に当たって調整していく……明後日までに。

 

 

…………いやいやいやいや。

無理しょ。

 

確実、無理っしょ。

 

 

まずもってパソコンが使えないし。

これ、この立体図みたいなのに至ってはどうやって作ってるかさっぱりわかんねぇし!

この箱は万能なように見えて、使う人間がバカだとソレ相応にしか働いてくれないし!

と言う訳で俺のパソコンはこのホームから一歩たりとも動いてくれねぇってわけさ!

 

さて、マジでどうすんの!?

 

 

俺は書類の山を見渡しながら一人うおおおおと頭を抱え込むと、チラリと鬼の形相でパソコンへ向かう野伏間君を見た。

 

 

やっぱり、そこには寝不足で目を真っ赤にしながらパソコンに向かう野伏間君が居た。

しかし、そこにはさっきまでの不安そうな表情を浮かべる野伏間君は居ない。

 

ただ、必死に今自分のやるべき事に立ち向かう野伏間君の姿がある。

 

俺はそんな野伏間君を横目に見ながら、チラリと先程、野伏間君が叫んでくれた言葉を思い出した。

 

 

 

『俺は嫌だ!生徒会、辞めたくない!せっかくカイチョーも戻ってきてくれたのに!こんなグチャグチャなまま生徒会を辞めるなんて絶対に嫌だ!』

 

 

 

あの瞬間、俺は野伏間君に自分を重ねると同時に、もう一つ別に湧きあがってきた感情があった。

 

 

「せっかく、カイチョーも戻ってきてくれたのに、か……」

 

 

そう、野伏間君は確かにそう叫んだ。

野伏間君の言う“カイチョー”って言葉が、もともと居た、この体の持ち主である西山 秀と言う人間に向けられた言葉である事くらい、俺にもわかる。

 

この体のヤツ、思いのほか仕事は出来るらしいし、顔も実際スッゲーかっこよかったから。

 

こいつは、本当に俺とは正反対の生徒会長だよ。

悔しいくらいに。

 

 

けど、どうしてだろう。

やっぱり、秋田壮介に最初に“愚か者”って言って怒られた時みたく、俺は自分が言われたみたいな気持がして、凄く、

 

 

本当に凄く嬉しかったんだ。

 

俺も生徒会に必要とされてたんだって自然と思えてきたから。

 

だから、野伏間君の言葉で、俺は凄くヤッターって気分になれて。

凄く幸せな気分になれたんだ。

 

役立たずで、無能で、バカだって。

たくさん言われたけど、此処に来て俺もやっと必要とされたんだって。

 

夢で白木原が俺に言ってくれた言葉を、俺は現実世界でも誰かに言って欲しかったんだ。

 

 

だから。

 

 

出来ないじゃない。

無理じゃない。

 

俺はしなきゃいけないんだ。

やりたいんだ。

 

やっと、俺がすべき仕事が回って来たじゃないか。

 

 

「………やる。やってやる」

 

 

 

俺はパソコンに向かう野伏間君から目を離すと、自分の仕事に目を向けた。

そして。

 

マウスに手をかけ、マウスポインタを左下へと向ける。

そして、俺はシャットダウンの文字をクリックすると、パソコン画面を完璧に終了させた。

 

 

あぁ、もういい。

使えないモノを使いこなそうとするから先に進まなくなる。

要はコレを書いて最後に提出すればいいだけの話だろう。

 

書いて出す。

そんなもん、俺の生徒会選挙の時の立候補手続きと同じだろうが。

 

 

これは最初の俺のミッションだ。

RPGで行くと、最初の主人公の試練だ。

最初のダンジョンだ。

 

これが出来なきゃ主人公は先へは進めない。

先に進むためには、ここを通過しなければならないのだ。

 

 

しなければ、ならない事はわかった。

あとは、

 

 

「やるだけだ」

 

 

俺は小さく呟くと、机の上にあった全てのモノをどかし、一気に手を動かした。

 

 

 

 

 

タイトルとURLをコピーしました