※会計の独白と言う名の戸惑い

 

 

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※城嶋学園高等部 生徒会会計 

野伏間 太一の独白と言う名の戸惑い

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『俺の幸せはここにある!』

『野伏間君!野伏間君!野伏間君!』

 

 

 

彼は安心させたくなる人。

そっと手を差し伸べたくなるような、肩を貸してあげたいような。

抱きしめてあげたいような。

 

一生懸命な姿が似合う人。

隣に立って一緒に居たいと思う人。

 

 

 

 

『お前も生徒会なら、もっとしゃんとしてろ!野伏間!』

『さっさと仕事終わらせんぞ!秋田のクソに生徒会潰されてたまるかっての!』

 

 

彼は他人を安心させる人。

大きな何かに包まれているような、その大きな背中を見ていたいような。

全てを引っ張ってくれるような。

 

正々堂々とした姿が似合う人。

ずっとその背中を追いかけていたいと思う人。

 

 

 

その全く別の二つが、同じ人間の中にある。

それは、おもしろいと同時に、大きな戸惑いを俺へと与えた。

 

 

『野伏間君!』

『野伏間!』

 

 

俺は自分に与えられた大量の仕事と懸命に向き合いながら、先程の、会長の全く別の二つの顔を思い出していた。

 

ヘラヘラと笑い、肩を震わせて俺に泣きついてきた会長も、俺の最近知った会長の姿。

そして、不遜な態度でふてぶてしく笑い、弱いところなど誰にも見せない、俺が昔から知る会長の姿。

 

それは二つとも西山秀と言う人間の本来の姿なのだろうか。

いや、その疑問自体がおかしいのはわかっている。

 

どちらも俺の知る“西山 秀”だ。

そうでなければ、一体彼は何だと言うのだろうか。

 

 

しかし、俺は会長の見せる余りの大きな変化に、ただただ戸惑う事しかできなかった。

 

守ってあげたいと思いながら、それと同時に守られている自分。

俺は西山秀と言う人間にとって、どう言う存在になっていけばよいのだろうか。

 

会長は一体、俺に何を望んでくれるだろう。

 

まぁ、この問いの答えはどうしたって俺には出せないモノなのだが、考え出すとどうにも止められない。

 

 

あの人に、何かしてあげたい、助けになりたい。

 

そんな想いが頭の中を駆け巡る。

 

 

しかし、そんな風に思った矢先、俺はまた会長に助けられた。

今もこうして、会長の大きな背中の後ろで守られるような安心感の中、会長を通して現実に向き合っている。

 

でも、背中に隠れているばかりではいけない事も、俺はこの2日で理解した。

会長の震える肩と、小さな背中、そして涙を湛える瞳を、俺は確かにこの見たのだ。

 

だから、助けたいと思う。

手をとって、肩を貸して、共に隣を歩きたいと思う。

 

 

こんな強い気持ちは、俺自身生まれてこのかた感じた事がなかった。

こんな感情知らない。

だから、俺自身戸惑っていた。

 

こんな自分、初めてだ。

 

 

 

そんな俺の戸惑いを、俺以上に敏感に感じ取った人が居た。

 

 

 

 

『太一様!』

 

 

 

俺の親衛隊隊長。

渡辺悠氏。

 

俺が高校に上がると同時に、自ら俺に抱かれに部屋を訪ねてきた人。

来るもの拒まず、去る者追わず。

 

そんな風に、俺は沢山の人間と肌を重ねてきた。

俺は毎日別の人間を誰でも同じように自分の部屋へ招き入れた。

 

一人を特別扱いすると、争いが起こる。

それで、面倒な目に何度もあってきた。

 

別に特別にしたいと言う人間も居なかったし、俺は若い自分の体を持て余していたから、相手は誰でもよかった。

 

そんなだらしのない不届きな俺へ、悠氏先輩や他の親衛隊の子達は、それを理解した上で、それでも俺を好きだと言って毎日部屋へ来てくれていた。

だから、俺もそれに対しては誠意なんて奇麗な言葉じゃ罰が当たりそうなけど、俺なりのせい一杯を返して行こうと決めていた。

 

だからこそ、俺は誰も特別にしないし、逆に言えば誰もが特別だともいえた。

それで、彼らも満足してくれていたし、安心してくれていたようだ。

俺も、それで今まではなんら問題なかった。

 

 

しかし、今日。

悠氏先輩は、不安そうな目で俺を見てきた。

 

 

『太一様……大丈夫ですよ、ね?』

 

 

会長と悠木先輩が居なくなった後の生徒会室で、悠氏先輩はすがるように俺に抱きついてきた。

 

大丈夫ですよね。

 

それは彼の中にある大きな不安を表す言葉。

 

太一様、あなたの心に、特別な人など居ませんよね?

皆、特別ですよね?

 

そう、先輩の目は俺に問うてきた。

不安が募っていただろう、彼は絶対に外ではしないであろう事を俺にしてきた。

 

不安を拭い去るように、追い払うように、必死に求めてくる先輩の唇に、俺は応えようとした。

 

 

心配いらない、俺に特別なんて居ないから。

 

 

そう、返してあげようとしたのに。

 

 

 

『太一様、太一様……』

 

 

先輩の不安はなくならない、むしろ増したように、求められる唇。

そんな先輩の苦しげな表情に、俺は全く思いとは裏腹に気持ちが返せていない事を悟った。

 

 

どうしても、頭をよぎるのは、何故か会長の事。

 

今頃、風紀の会室で何やっているんだろうとか、きっとまたコーヒー牛乳

を買ってくるんだろうな、とか。

 

そんな、どうでもいいような事ばかりが頭を占めて、上手く頭がまとまらないのだ。

 

 

麻痺したように痺れて自分の思うように動かない自分の思考に、俺はただただ支配されるしかなかった。

 

 

ねぇ、先輩。

これが今まで周りに言われてきたような“特別”な感情なんですか。

何かしてあげたいと思うこの気持ちも、“特別”なモノなんですか。

 

俺にはわかんないや。

 

 

わからないので……

 

あと、もう少し考えさせてください。

そうすれば、俺もわかると思うので。

 

 

 

守りたい気持ちと、守られる現状。

 

とりあえず、今はこの気持ちと葛藤しておきますから。

 

 

 

 

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