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第17話:生徒会長の奔走①
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うおおおおお。
やっぱり、金持ちの学校はその全てが俺の想像を遥かに超えてる。
生徒会室もそうだし、風紀委員の会室もそう。
それに中庭には俺と白木原が張り切って泳げそうな噴水まで完備してある。
挙句、職員室はもう部屋ではなく棟だし。
なんかね、今回も来るかなぁって思ってましたよ。
予想してた。
凄いの来る予想はしてたけど、どんなんが来るか全く想像してなかったから結局、俺はビビる羽目になったわけだ。
そんな内心ビビる気持ちを抑え、俺はガラス越しにこちらを興味深げに見つめてくる生徒達に片手でOKサインを出した。
すると、隣に座っていた別の男子生徒が俺に合図を出す。
その瞬間カチリと乾いた音が小さく俺の耳に響いてきた。
あぁ、さすが金持ち。
やる事なす事半端じゃねぇ。
カチリと響いた音の後に続けて鳴り響いく聞き慣れた音に、俺はスゥと息を吸い込んだ。
キーンコーンカーンコーン
うん、すげぇよ。
この……
『皆さん聞いてくださーい。生徒会長です!』
放送室。
いやいや、これも既に室のレベル超えてるな。
これ放送局だわ。
うん、室じゃない、局だ。
『今日は文化祭についてのお知らせをしに参上しましたー!早く帰りたいだろうけど、ガッツリ聞いてくださーい』
もう、ここはどこのラジオの収録スタジオかってくらい本格的な放送器具が揃えられている。
俺じゃあ、どこをどういじったら放送できるのかわからないので、全て放送委員の皆さんに丸投げの状態です。
……マジで、高校はどこへ向かいたいんだろうね。
『文化祭の出しモノで、体育館を使用しようと許可書を提出した団体!ちょっと用があるから、今すぐ体育館に来てくださーい!できれば部長副部長、団体リーダーだけじゃなくて団体全員で!』
放送室の中は完全防音になっているから、これが本当に学校全体に放送されているのか、俺にはハッキリと実感が持てない。
けど、そのお陰で逆に俺は全く緊張せず放送マイクに向かう事ができた。
放送の原稿も作らず、ついさっき地図だけを頼りにこの放送室もとい局に駆けこんで放送ジャックをしたから。
まぁ、だから今やってる放送は、俺のテキトーなセリフ回し。
俺の登場に最初、放送部の皆さんはかなり「わお」って顔をしてた。
『もし、今回、体育館の使用許可届を出しておきながら、体育館に来なかった場合!無条件に文化祭での体育館の使用希望を取り消しますので、あしからず!』
けど、まぁ……俺は生徒会長だし。
顔、かっこいいし。
皆、すーぐ許可くれたよね。
うん、つーかね。
さっきめっちゃ鏡で自分の顔見てみたけど、なんか、ずっと見てたら俺って昔からこんな顔だったような気がしてきたんだよね。
あれ、俺昔からけっこうイケメンだったんじゃね、って。
そう、俺はなかなか都合よく己の過去を捏造して、悦に入ったりしてました。
ふふん。
まぁ、それは置いといて。
何故、この俺が突然、生徒会室を飛び出してこんな事をしているのか。
理由は……まぁ、あの大量の書類と仕事を終わらせるっつーミッションを遂行するためっすよ。
『では!この後、文化祭の体育館の使用許可を貰いたい団体はすぐに体育館に集合してください!第1回!体育館ドラフト会議を行います!』
俺は、そう言い放った瞬間、またガラス越しに色々器具を操作していたメンバーに手でOKサインを出す。
とりあえず、放送はこれで済んだぜ。
うふふふ。
俺、一回こういう校内放送してみたかったんだよなぁ。
前はみどりちゃんが全部してたし。
新谷君には荷が重すぎますよ。
ってニコリともせず緑メガネの奥の冷めた瞳で言われた時は「あれ、俺って何だっけ」ってリアルに自分の存在意義を問い直したからね。
だから、1回やってみたかったんだー。
みどりちゃん、俺、意外と放送上手くできたよ。
俺が内心そうみどりちゃんに問いかけながら一息つくと、またどこかでカチリと乾いた音が聞こえてきた。
そして、またあの馴染みの音が放送局にも流れる。
キーンコーンカーンコーン。
うん、いつ聞いても安心する音だわ。
俺は耳の奥に流れる懐かしくも古臭い鐘の音に、放送後の満足感を抱いていたのであった。