第17話:続、生徒会長の奔走①

 

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場面は戻って放送局。

 

 

 

 

「ありがとー!スッゲー助かったわー。やっぱ放送だと早いねぇ」

 

「いえ、まさか会長が自ら放送されるとは思ってもみませんでした」

 

 

俺は椅子の背もたれにダラリと体を預けると、隣に座っていた放送部の部長の肩をポンポン叩いた。

部長は、文化部らしく少し体がポッチャリしてるけど、凄く雰囲気がいい。

 

だって、突然「放送ジャックに来た生徒会長ですが!」とか言って乗り込んだ俺をポカンとしつつ、快く受け入れてくれたからな。

うん、俺だったらそんな不審者、理由も聞かずに叩きだします。

 

 

「うーん。一回放送ってしてみたかったんだよ。俺。だから、楽しかったー」

 

「会長が放送に興味を持っていたなんて知らなかったです!嬉しいなぁ!」

 

 

そう言ってポヤポヤしたほっぺでニコニコ笑う部長さんに、俺は心が安らぐのを感じた、これは、アニマルテラピーと言うヤツかもしれない。

こう……ほら、老人ホームとかに犬連れてって婆ちゃんに抱っことかさせて癒しを期待する……あれ。

 

あれと似てるね。

 

 

そんな事を考えてると、外でワラワラこっちを見ていた他の放送部の子達も俺達の居る部屋に入ってきた。

うん、うん。

そんなに俺が気になるかい。

 

 

「そう言えば、さっき会長がおっしゃってた体育館ドラフト会議って……何ですか?」

 

「あぁ、あれ名前テキトー!気になるなら皆も見に来てよ!今年の文化祭を決める大事な会議です!」

 

「わぁ、ワクワクするなぁ。僕達放送部は何も今回は出店しないんですけど、そう言うの聞くと楽しみです」

 

 

ねぇ、みんな。

そう言ってニコニコ皆に笑いかけるポッチャリ部長に、同じく同じような体格の部員さん達も「そうですねー」と頷き合っている。

え、何ここ。

最強の癒しスペースじゃね。

 

 

「それならさ!放送部も何かすればいいじゃん!文化祭だよ!文化系の祭りだよ!絶対なんかした方が楽しいって!部長、何しようよ!」

 

「……で、でも」

 

「何か問題でもある?何かあるなら、俺に言ってよ!俺は生徒会長だぞ!」

 

 

うおお。

マジでこう言う本格的な行事とかせずに前の会長終わっちゃったから、たぎるな。俺アニマル達の中で一人たぎっちゃってますよ!

 

 

「えっと……僕達、放送部……今年は予算が削られて……あの……お金が……」

 

 

そう、モジモジと言いにくそうに口を開くプニプニ部長に、俺は肩がガクリときた。

たぎった気持ちがみるみるうちにしぼむ。

 

金かよ……金が問題ですか。

そりゃあ、俺もどうする事もできないわ。

 

 

「………せちがらいね」

 

「……はい。せちがらいですね」

 

 

金持ちの癖に放送部の部費削るとかやめろよ。

それなら中庭のあの噴水いらねぇから放送部に回してやれよ。

 

あの噴水、正直、俺泳げる泳げるとか言って喜んでっけど、泳がないからね。

俺、絶対泳がないから。

 

そのくらいの落ち着きはあるからね。

 

 

「つーかさ、どーして放送部の部費が減ったのさ?去年はもっとあったんでしょ?去年の文化祭じゃ、放送部は大々的にラジオドラマみたいなのをしたって去年分の予算には載ってるよ」

 

「……えっと。今年は運動部が全国大会に行ったりして活躍したから、僕達みたいなただの放送部はお金かからないだろうって」

 

「おのれ、学校のスーパースターめ!」

 

 

俺は高校時代、中学の時の全国大会のメダルを「ほらほーら」とこれ見よがしに見せつけてきた白木原を思い出して拳を握りしめた。

畜生、過去の栄光をひけらかしやがって。

 

……いや、まぁ、なんかめっちゃ盾とかトロフィーとか賞状とかあって凄かったけども。

全国1位になれる程の実力って凄いですけども。

 

でもさ!

こうやって陰ひなたにひっそり頑張っている文化部から部費を削るなんてなんたる極悪な奴らだ(主に白木原)。

 

しかもスポーツができるとそれと比例するようにモテるのが俺的には許せない。

俺のような万年幽霊園芸部の文化部にも輝ける舞台があっていいじゃないか!

 

 

「諦めたらそこで試合終了ですよ!?」

 

「っは、はい!」

 

「放送部の皆!やたらとモテる極悪スポーツプレイヤー達に屈する事はない!ここにはこんなに素晴らしい設備があるじゃないか!放送部の武器の声とここの器具で文化祭に花を添えてやろうぜ!」

 

 

俺はポヤポヤアニマル達に拳をつきつけると、アニマル部員達は最初はポカンとしていたが、すぐに皆さんいつものニコニコ顔で頷いてくれた。

特に俺の隣で一生懸命「そうですねっ!」と頷く部長さんはあごのお肉が揺れ動いて、お肉をつまみたい衝動を俺は一生懸命抑えた。

 

 

「でも、お金をかけないで出しモノってどうやったらいいんですか?」

 

 

そう改めて首をかしげて聞いてくる部長に、周りの部員も「そうですよねぇ」と同じくぽよぽよ頷く。

 

ええええ。

さすが予算削られる放送部でも、根幹はお金持ちッ子だな。

本来、文化祭っつーのはそうそう出費を出してやるもんじゃねぇっつーのに。

 

……これだから、お金持ちは。

 

 

「部長さん。器具はある。一式凄くいいの揃えてもらってる。あと必要なのはみんなの声だよね。声はタダ。あとは少しのアイディアなわけ」

 

 

俺の言葉にウンウンと頷くアニマル達。

そこに俺は俺の持って来ていた筆記用具と、ルーズリーフを取り出して手を動かした。

 

 

「だいたいね、放送って他の文化部みたく特定の場所を用意したり無駄に宣伝しなくても、ここで音声流せば、学校中に広がるんだよね。この時点で、今体育館の場所取り争いしている花形文化部の連中より一歩リードしてるんですよ。おたくらは」

 

「あぁ!そうですねっ!そう言うの、ずっと放送部してるのに気付きませんでした!」

 

 

そうやって目をキラキラさせる部長さんと部員達に、俺は紙にガサガサ出しモノの案を書いて行く。

中学の時、放送部の文化祭の出しモノの話し合いに関係ないのに乱入してた事があったなぁなんて思いながら。

 

 

「つーわけで、体育館とか他の教室の使用に邪魔にならない時間に何かの放送を流せばいいね」

 

「あ、それなら全く情報を外に漏らさずプログラムにも載せないでいきなり放送したら、おもしろいかもしれませんね!会長のおっしゃる通り、放送は宣伝しなくても誰の耳にも届きますから!サプライズみたいに!」

 

 

俺の言葉に続いて、思いついたように一人の部員が声を上げる。

おう、そのアイディア頂き。

 

 

「いいねぇ。文化祭のお茶の間をジャックしちゃおうぜ。で、やるなら、ここからは普段とは違った感じにいたいよね。文化祭だし。……一番てっとり早いのは、誰もが知ってる学校の気になる有名人を呼んで対談したり……とか」

 

「有名人、ですか……」

 

「うん、対談形式で、司会を部長さんとかそこら辺がしてさぁ。それこそ対談させたら絶対おもしれーぞって人間を呼ぶ!」

 

 

俺がガサガサノートに書き込みながら、部員の皆を見上げて「そう言う人いない?」と聞くと、何故か皆して俺の方を凝視してきた。

 

あれ、俺。

ひゅう、俺?

 

 

「あの、それなら……会長さんと秋田さんに出てもらえたら……きっと凄く盛り上がると思うんです」

 

「………えぇぇぇ」

 

 

 

秋田って秋田壮介だよな。

えぇぇ、アイツ俺のコーヒー牛乳ぶっとばしたからなぁ。

また、ぶっとばされたら、俺立ち直れない。

 

けど……

 

 

「わぁ!それ、絶対面白いです!犬猿の仲で、しかも今日の号外で熱愛が騒がれているお二人なら、きっと全校生徒も喜んでくれます!」

 

「そうですね!このお二人なら、放送の流れも凄く面白い物が作れそうな気がしますよ、部長!」

 

「凄い!なんかワクワクしてきました!」

 

 

あー、はいはい。

これはもう空気からして俺を四面楚歌にしてくる戦法ですね。

これは現代の若者なら、誰でも持ちえる高度な空気を読むスキルを逆手にとった「究極の周りから攻めて行く」戦法ですね。

 

くっそう、可愛いアニマルの皮の下は天才軍師っすか、部長!

 

 

「……わかったよう。わかりましたよう。出ますよう。また放送してみたいし対談してみたいしやってみますよう」

 

 

俺がそう見た目渋々、しかし内心「面白そうだぜひゅう」と言う気分で答えると、プヨプヨのアニマルちゃん達が皆してジャンプするからまた可愛い。

やったーって、ジャンプする子ブタちゃん達はまさにアニマルセラピー。

 

 

「じゃあさ、詳しい内容と放送時間については決まったら俺に知らせてよ。秋田壮介には俺から言っとくから。あと、これ以外にしたい事あったら、ドンドンやっちゃいな!」

 

 

俺がそう部長さんと部員の皆に言うと、皆、最初なんかよりかなり明るい声で「はい!」って頷いてきた。

ほら、やっぱ文化祭とか行事ごとは参加しなきゃ。

 

こう言うのは、やってる方が一番楽しいって言うし。

母ちゃんなんかさ、俺の中学の文化祭を「お前らの自己満足の結晶」とか鼻で笑ってきた事あったしな。

 

「楽しいのは、やってるあんたらだけよ。お母さん、覗きに行ったけど全然どこが面白いのかわかんなかったわ。若さの暴走ね」

 

 

って。

辛辣……!

つか、酷くね!?

あの母親マジで酷い!

あの時は畜生の嵐だった。

 

けど。

まぁ、それならそれでいいんだよ。

 

その後、俺はそう思った。

 

文化祭は学生の。俺達の祭りだ。

つーより、学校の行事は全部俺達ノモノなわけ。

 

別に母ちゃんを満足させる祭りじゃない。

俺達の俺達による祭りなんだわ。

 

俺達はプロじゃない。

ただの高校生だ。

 

だから、できれば俺は全校生徒に「やる側」に回って欲しいんだよ。

そうすれば、皆主催者だろ。

 

主催者が一番こう言うのは楽しいんだ。

だから、出来る限り、文化部も運動部も全員が主催者側に回って、全員がお客さんにもなってほしい。

 

ほら、だってさ。

 

 

「当日の活動内容が出来次第、会長に持って行きます!」

 

 

もう既に、主催者になった彼らはこんなに楽しそう。

 

 

俺はアニマル達の楽しそうな顔を見て気持ちがほっこりするのを感じると、ふと部屋の真ん中にかけてある大きな時計に目をやった。

 

 

「……あ」

 

 

そう言えば、俺放送して体育館に人集めなかったっけ。

あーいたたたた。

これは本気でまいっちんぐだわ。

 

俺は「やらかし!」と心臓を撥ねさせると、勢いよく立ちあがって荷物を腕に抱えた。

 

ただ、さっきまでガサガサ書いてた放送部の文化祭ネタ帳だけは置いて行く。

まぁ、これ今自分で見直しても正直何書いてんのかわかんないけど。

 

んんー、エジプトの象形文字のようだ。

ヤベェね、俺の字。

 

 

「ごめん!じゃ、俺体育館に行くわ!」

 

「っは、はい!ありがとうございます!会長!」

 

「いーや!お互い文化祭、楽しもうね!」

 

「はいっ!」

 

 

俺は笑う子ブタちゃん達に手を振ると、一気に足を前へと動かした。

目指すは金持ちの体育館。

 

 

 

花形文化部達の体育館争奪戦だ。

 

 

 

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