第18話:生徒会長の失敗

 

 

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第18話:生徒会長の失敗

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うああああ。

どうしよ……。

 

やらかし、やらかしとは思ってみたものの……

 

本気でやらかした!

 

今、俺、そんな感じです。

足とかガクブルです。

心臓出そうです。

 

俺は一人、ある建物の前でバクバク鳴り響く心臓を必死に抑えつけるべく、もう一度息を吸い込み建物の外観を見つめた。

 

広く大い、豪華な外観の建物。

新しい中に古さも感じさせる、その建物の入り口には【鹿鳴館】とか建物の名前らしきものが彫ってある。

 

しかなるかん……?

いや、マジここでもこう言うの金持ち気どりキタよね。

しかなるかんて何だよ。

鹿は鳴らないよ。

鳴るのは鈴。

小鳥は鳴くし、私は歌うの。

金子みすずも言ってる。

 

つか、大体さ。

体育館の癖におしゃれぶるなって言いたい!

何だよ、しかなるかんって!体育館って素直に書けよ!?

 

 

俺はその“しかなるかん”の入り口で、一人、中を覗き込みながら「うおおおおお」と頭を抱えた。

別に、俺は体育館の名前が“しかなるかん”だったから「うおおお」ってなってるわけじゃない。

 

俺だってそのくらいで心臓飛び出る程バクバクしない。

 

じゃあ、何でかって?

そりゃあ、アレですよ。

 

俺が早く皆に来いとか校内放送とかしておきながら、その俺がガチで遅刻しちゃったからですよ。

既に中には100人位の生徒さん達がひしめきあってますよ。

 

友達と遊ぶ約束して、言いだしっぺの自分がガチで寝坊して遅刻するパターンです。この上なく体裁悪いパターンです。

 

ヤバーい。

俺、マジやらかしたわ。

呑気にアニマル達の中でセラピってる場合じゃなかったわ、マジやらかした。

 

もし、ここにみどりちゃんが居たら、それこそ黒魔術等の封印されし暗黒の力で俺は滅ぼされるかもしれない。

最早、俺は何度妄想の中で死亡すればいいのだろうか。

 

 

いや、つかそれより今はコッチだ。

これ、どうやって中に入ろう。

 

何事もなかったかのように「生徒会長です、こんにちは」とか言って入った問題ないだろうか。

 

それとも「遅れてごめーん、で、話しだけどさぁ」って、すぐさま話を本題に移して、誰にも文句を言わせる間を作らないパターンでいこうか。

 

いや、それよりも入ってすぐに「遅れたけど何か!?俺、生徒会長ですけど何か!?」って無駄に逆切れするパターンとかどうだろうか。

 

 

うん、迷うわー。

こう選択肢多いと迷うわー。

 

 

「………おい」

 

「うおおおお、俺マジでやらかしたぁぁ」

 

「……おいって」

 

「逆切れのパターンとか後が怖すぎるぜ……」

 

「おいっ!聞けこのバカ!」

 

「っうお!?」

 

 

俺は突然掴まれた肩にビクリと肩を揺らすと、聞き覚えのある声に、とっさに振り返った。

 

 

「悠氏先輩……!」

 

「お前、ここで何やってんの。お前が呼びだしたんだろうが」

 

 

俺の目の前には俺より頭一つ分小さな身長で、ギロリと俺に鋭い視線を向けてくる双子ちゃんの片われだった。

目つき悪くても可愛いその顔に、俺はバクバクテンションの上がっていた心臓が落ち着いていくのを感じた。

 

よ、よかった……!

知り合いが来た……!

マジ、ありがとう、悠氏先輩、俺の女神!

 

 

「おう!しかなるかんの前に降り立った俺の女神!よく来てくれた!」

 

「………お前何言ってんだ。やっぱバカなのか、お前は」

 

「もう、そんな可愛い口からバカって言っても今の俺には女神の囁きにしか聞こえないぞ!」

 

 

俺が知り合いに会えた喜びから、そう大仰に言ってみせると、先輩は……まさにこの世のものとは思えない顔で俺を睨んできました。

きゃっ、顔がこわい!

 

でも今の俺にはそんな顔もフェアリーの変顔くらいにしか感じないぞ。

 

 

「お前キモイ。もう俺に話しかけんな。死ねよ、バカ」

 

「うぁぁぁ、ちょっ!ちょっと待って!悠氏先輩行かないで俺と居て!」

 

 

けどいくら可愛いフェアリーでも、俺を置いて行こうと背を向けるのは止めて欲しい。

 

俺、ものっそい一人でこのしかなるかんの中に入るのは嫌なわけよ。

だって、わかるでしょ。

めっちゃ体裁悪いじゃん、俺。

 

俺はグイグイ先へ進もうとする先輩の腕を一生懸命引っ張っていると、悠木先輩は般若のような顔で俺の方へと振り返ってくれた。

 

怖いけど、俺に背中をむけるよりはいい!

 

 

 

「せっ!先輩!先輩はどうして此処へ来たんですか!?」

 

「……はぁ、テメェが体育館の許可希望出した部活は出て来いって放送したんだろうがっ!?用がねぇなら誰がんなとこ来るか!?テメェに付き合ってる暇があったら太一様の所に行くっつーの!」

 

 

太一様、の部分だけ、何故かとろけるような表情で言ってのける悠氏先輩はやはり顔の筋肉が柔軟だと思う。だってそれ以外の部分は般若みたいな顔だったから。

 

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!先輩も文化部だったんですよね……!えっと、何部でしたっけ!?」

 

「演劇部だっつーの!文化祭は3年にとっちゃ最後の舞台だからな!?体育館の使用許可がねぇと演技できねぇから仕方なく来てやったんだよ!?部長はとりあえず絶対参加なんだろ!?」

 

 

そう、吐き捨てるように言ってのける悠氏先輩は、まさかの演劇部でした。

しかも部長。

 

なんてこった。

野伏間君の親衛隊隊長もして、演劇部の部長も務めるなんて、大学入試の時めっちゃアピールするとこがあって羨ましい。

つか、かっこいいね。

 

そんな上の役職を二つも兼任できるなんてさ。

 

うん、スゲェや。

悠氏先輩。

 

俺がそう内心、悠氏先輩に尊敬のまなざしを向けていると、先輩は少しだけ、般若の表情を緩め、伺うように俺をチラリと見上げてきた。

 

「………仕事、終わりそうか?」

 

「は?」

 

「だーかーら!仕事!ちゃんと明後日までに終わりそうかって聞いてんだよ!?」

 

 

悠氏先輩は激しい口調で俺に向かって叫ぶと、ついでに俺の胸倉を、一生懸命背伸びしながら掴んできた。

何これ、ちょっと可愛い。

 

つま先立ちなのが、可愛い。

でも、ちょい苦しい。

 

 

「お前がその仕事を終わらせられなかったら、今度こそ生徒会は終わりなんだよ!?太一様の今までの苦労が水の泡なんだよ!?わかってんのか!?太一様は生徒会を潰したくないんだ!」

 

「……う、うん。知ってますよ!」

 

 

俺はグリグリと力を増して行く先輩の右手に、息を必死に吐きながら頷く。

そんな俺に、先輩の手の力は更に強くなる。

 

 

「生徒会がここで終わったら、俺は絶対お前を許さないからなっ!?絶対俺はお前をぶっ殺してやる!」

 

 

必死に、しかし、どこか縋るようなその表情に、俺は悠氏先輩の右手を掴むと、そのまま力を入れて胸倉から引きはがした。

苦しいし、あのままじゃ上手く話せやしない。

 

 

「おいっ!わかってんのか……!お前!?お前のせいでここまで学園も生徒会もグチャグチャになったんだ!お前が太一様を追い詰めたんだぞ!責任は絶対とれ!」

 

「先輩」

 

「何だよっ!?なんか文句あんのか!?あ゛ぁ!?」

 

 

そう、俺に手を掴まれながらすごんでくる悠氏先輩に、俺は少しだけ、先輩の手を掴む手に力を入れた。

思いのほか力の強いこの体に、悠氏先輩は少しだけ痛みに顔を歪めると、歪めながらも必死に俺を睨んできた。

 

 

「先輩、俺、生徒会長ですよ」

 

「……だから、何だって言うんだよ……」

 

「生徒会長だから、仕事きっちりします。理由は生徒会長だからです」

 

 

俺は思ったまま悠氏先輩にそう言ってのけると、何故か悠氏先輩は疲れたように息を吐いて俺から視線を外した。

 

 

「………バカが」

 

「よく、言われます。俺はけっこう本気でバカですから」

なにせ、学年順位186人中180番位ですから。

 

「生徒会長の癖に……バカってどうなんだよ……バカ」

 

「バカでも生徒会長はやれます」

 

「じゃあ……さっさと中入って、仕事しろよ。バカ」

 

「………先輩!一緒に中に入ろうね!」

 

 

俺は少しだけ、表情が穏やかになった悠氏先輩の手を離すと、一緒に中に入ろうとガッツリ隣を陣取った。

もう、一人で中に入るなんてガクブルですよ。

 

俺は不安の余り先輩の肩に手を乗せると、その手は見事に叩き落とされました。

しかも、先輩は俺を置いてガツガツ先へ進んで行ってしまいます。

 

しかし……

 

 

「早く……仕事しろよ」

 

「おっす!」

 

 

俺を振り返って顎を引く先輩に、俺は急いで後を追うと、しかなるかんと掘られた入口へと足を走らせた。

 

あぁ、ほんと。一人じゃなくて本当によかった。

 

そう、俺が内心安心しながら先輩の隣を歩くと、先輩は俺を横目に見上げながらハッと鼻で俺を笑ってきた。

 

 

「おい、バカ。これ、“ろくめいかん”って読むんだぜ」

 

「……………」

 

 

 

いやぁ。

マジ、やらかしたよね。

 

 

 

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