第19話:生徒会長の奔走②

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第19話:生徒会長の奔走②

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「こう言うの困るんだよ!?」

 

「いくら生徒会だからって、こんな横暴ありかよ!?」

 

「いきなり、こんな訳のわからない事してさぁ!?」

 

「ふざけんなっての!?」

 

 

 

響き渡る怒声。

怒れる生徒達。

彼らは、全ての憎しみを俺に向けてきた。

俺は、それを甘んじて

 

 

「だーまーれぇぇぇぇ!!!!」

 

 

誰が受け入れるか。

 

 

 

俺はステージの上に立つと手に持ったマイクを通して大音量で叫んだ。

 

キーン、と言う嫌な音と、俺の声が体育館(ろくめいかん)中に響き渡る。

俺はハァハァと肩で息をすると、眼下に見える耳を必死に抑える多くの生徒達に、心から詫びた。

 

ごめん、ごめんよ、君達。

君達には何の恨みもない。

だって君たちは俺が呼びだしたんだから。

 

俺はステージの前方で耳を抑える悠氏先輩と、悠木先輩のエンゼル双子を見て「ごめんね!」と抱きしめてあげたくなった。

そう言えば悠氏先輩は演劇部だと言うから、悠木先輩も演劇部なのかと思いきや違った。

 

悠木先輩は被服部の部長らしい。

編み物、裁縫、ハンドメイドが大得意というんだから、俺は今まで見てきたどの女の子達より悠木君は女子力が高いと思った。

「ラーメン臭ぇんだよ!?」と言い放ち真冬のベランダに俺を追い出した女子達に、悠木君の爪の垢を煎じて飲ませたい。

 

つーかさぁ!

ラーメンの匂いも臭いけど、女子が体育の終わりに使う8×4とかBANとか制汗剤のいろんな匂いが入り混じった匂いだって、相当臭かったんだからな!

フルーツ系とかフローラルとか!

入り混じって、最終的に一体何の臭いかわかんねぇし!

教室に異臭漂わせやがって!

 

だいたい、脇からフローラルの匂いが香ってきたら、それはそれで怖いわ!

 

 

と、俺が過去の女子達への待遇を思い出し沸々としている間に、またしてもステージの下から文句が上がってきた。

それは、俺が遅れて登場した事による、文化部からの非難の声じゃない。

 

ステージ側、体育館前方に集まっている文化部の彼らは、俺の怒鳴り声と、背後から聞こえてくる怒声に若干怯えている。

 

そう、怒鳴ってんのは俺が放送で集めた花形文化部及び個人サークルではない。

 

 

もともと、この体育館を放課後使用していた……あのにっくき極悪運動部共だ。

 

 

 

「だいたいよぉ!俺ら新人戦が控えてんだよ!?突然こんな横暴で体育館の使用禁止されたんじゃたまったもんじゃねぇんですけど!生徒会長さんよぉ!」

 

「仕事ボイコットしてるヤツの道楽に付き合ってるほど、こっちは暇じゃねぇんだよ!」

 

「早く出て行けよ!」

 

 

そう、文化部の背後で怒鳴り散らしていた……あれは多分ユニフォームからしてバスケ部だろうか。

そのバスケ部が、その怒鳴り声にビビりまくっていた悠木先輩の肩を乱暴に掴んだ。

 

その瞬間、周りに一緒にいた被服部のちっちゃいボーイズ達が一斉に騒ぎだす。

 

低い怒鳴り声と、キャンキャン高い怒鳴り声。

その、ちっちゃいボーイズ達が発する超音波のような高い声に、俺は若干過去のクラスの女子達の怒鳴り声を思い出して、頭が痛くなった。

 

にしても、本当に運動部の奴らはカッコイイヤツらが揃ってんな。

いや、もちろん文化部も軽音とかそこらへんに奴らは、どっちかって言うと運動部寄りな美形が揃ってるんだが。

 

運動部の美形と、文化部の美形って、なんか種類ちがうよね。

 

 

俺がぼんやりしていると、チラリと視界に映った悠氏先輩が、俺を般若のような形相で睨んでいた。

 

あー、はいはい。

わかった、わかったよ。

 

しかも、口をパクパク動かしてるからキミの気持ちはよくわかる。

 

 

ど・う・に・か・し・ろ。

 

 

はい。分かってます。

どうにかします。

 

 

俺はもう一度マイクを手に取ると、そのマイクを勢いよくステージ上へ叩きつけた。

もちろんスイッチを入れたまま。

 

ゴーン、キーン。

とか、そんな感じの鈍い音がまたしても体育館中に響き渡り、体育館中の意識が俺へと集まる。

自分でやっといてなんだが、スゲェうるせぇ。

 

俺は足元に落ちたマイクを見下ろし、勢いよく顔をあげた。

 

マイクは……もう使わない。

何か、マイク越しの声って、どっか他人行儀っつーか当事者じゃないっつーか。

 

とりあえず、ステージ下の奴らと俺に1枚の大きな壁が出来上がってるみたいで、凄くやりにくいから、もうマイクは使わない事にした。

俺の声、デカイし。

 

大丈夫。

 

全校集会とかそう言うのも、俺マイクなしで十分だったし。

 

大丈夫。

 

 

「おい!花形スポーツ部の野郎共!よぉぉおく聞け!」

 

 

 

俺が地声で叫ぶと、後方に立っていた運動部達の目が一瞬大きく眉を動かした。

もう既に、文句を言い返してきそうな顔をしているので、ここは相手に文句など言わせない位の勢いで奴らをまくしたてないといけない。

 

そう。

文句なんて挟む隙、誰がやるか。

 

 

「新人戦前だ、全国大会前だ、だからどうした!?テメェらの実力は1日、ちょっと部活の時間を削られた位で無になるようなモンなのか!?あ゛ぁ!?だいたいなぁ、テメェらは体育祭と言う運動部の祭典で、思いきりその運動神経をひけらかして楽しんだ挙句、クラスのヒーローとしてチヤホヤされたんだろうがっ!?文化祭っつーのはなぁ。今度はこの人達の祭典なんだよ!?見せ場なんだよ!?体育祭でお前らをチヤホヤしてくれた人達なんだよ!?お前らだって協力してやったていいだろうが!つーか新人戦前で体育館が十分に使えない学校だってこの世には山ほどあんだよ!?やりたくてもできないヤツは大勢いるんだ!けどなぁ!体育館が使えないから練習できなくて負けたなんて言う甘えが大会で通じないんだよ!?だから、そいつらは体育館が使えないなら使えないなりの練習を毎日工夫してんだよ!?だいたいお前らは何でも十分に与えられてる癖に、ちょっと足りないと文句言って環境が悪いだのコンディションがどうだの言いやがって!マジ甘えんな!?体育館が使えないなら、他に自主練の方法もいくらだってあんだろうが!基礎基本が大事だって安西先生が言ってんだろうが!IH目前に初心者桜木花道は一人だけ安西先生と残って、他の連中が他校との実践的な練習試合に向かってる間、シュート2万本をコツコツやり遂げただろうが!練習っつーのはそうやって自分のできる環境で、自分の弱点を最大限に克服する作業を“練習”っつーんであって、他人から与えられたメニューを漫然とこなす事を練習っつーんじゃねぇんだよ!?わかってんのか!?左手は添えるだけなんだよ!?桜木は庶民シュートからコツコツやってさぁ!でも、そこに至るまでは、いっつも花形のスラムダンクばっかりやりたがるんだよ!でもな!?最終回で桜木が最後に決めたのはタイトルのスラムダンクではなく、夏休みに安西先生とやり遂げた普通のシュートだっただろうが!わかってんのか!?左手は添えるだけだよ!?そして、もしスラムダンクを読んだ事ない非国民が居るなら、俺に言いに来い!貸してやるから!そして共に語り合おう!スラムダンクについて!」

 

 

俺は雄弁に語りながら、なんとなく気分がスッキリするのを感じた。

眼下に広がる生徒達の目が皆一様にポカンとしている事なんて、今の俺には関係ない。

 

俺はやり遂げたのだ。

何をやり遂げたのかと言うと、俺の好きな漫画についてここに居る多くの少年達にその愛を語る事を、だ。

 

スラムダンクまじ最高。

 

………でも、チラリと視界の端に入ってきた悠氏先輩が……なんかちょっと「テメェ意味わかんねぇよ」って顔して見ているので、もうちょっと捕捉を入れておこう。

うん、悠氏先輩のポカン顔ってぶっちゃけ睨んでる姿より……なんか怖い。

 

嵐の前の静けさみたいで。

 

 

「と、まぁ。それは置いおいて……。体育館の使用は、出来るだけすぐ終わらせますので。花形運動部のキミらにも、多分、退屈させないようなドラフト会議にするから、ちょっと見ててよ。絶対、面白いからさ。それにさ、お前らだって、部活参加はなくても各クラスで出店があるんだから、そっちの参考にだってなるよ、うん。言っとくけど、今年の文化祭はいつもの文化祭とは一味違う。お前らはその一端をここで垣間見れるんだ。目ん玉かっぽじって見て行くがいいさ」

 

 

俺は今度こそ大丈夫だろうと、視界の端で悠氏先輩を捕えて見ると、うん。

今度は大丈夫みたいだった。

悠氏先輩、ふんって顔してるけど、まぁ睨んでないから。

 

 

加えて悠氏先輩同様、黙って何も文句を言う気配のなくなった花形運動部の連中に俺は胸を撫で下ろした。

運動部の勢いって……実はちょっと苦手だったりする。

 

まぁ、俺は万年幽霊園芸部……もとい帰宅部生だからな。

 

 

俺はホッとしながら「ごめんね!ありがと!」と運動部君達に向かって叫ぶと、足元に落としたマイクを拾いあげた。

すると、奥の方で少しザワザワし始めたので、まだ文句があんのか?と俺は眉を潜めたが、次の瞬間、俺はそれどころではなくなった。

 

 

電源入れたまま(叩き)落とした筈のマイクがウンともスンとも言わなくなっていたのだ。

 

うーわ、うーわ。

 

これ、完全にご臨終されてますけど。

(副音声:このマイクは俺によって壊されました)

 

俺は遠い虚空を一瞬見つめると、そのマイクをそっと、また床に下ろした。

 

………まぁ、完全にこれはアレですね。

さっき俺がぶち落とした事で、ご臨終されましたよね。

 

ヤベェ。

弁償とか言われる前に、コイツはそっと隅っこに隠しておこう。

 

 

 

「……それでは、これより第1回体育館使用権、ドラフト会議を行います!」

 

 

 

俺は、明るい顔でそう言い放つと、もうそこには俺に文句を言ってくる人間は一人もいなかった。

(副音声:それはまるで壊れたマイクのようにシンとしていた)

 

 

 

 

マイクっていくらくらいするのかな。

 

 

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