※風紀委員長の独白と言う名の疑問

 

 

 

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※城嶋学園 風紀委員長

秋田 壮介の独白と言う名の疑問

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——風紀委員会室

(17:50)

 

 

 

 

「秋田さん。言われた通り、西山会長のおっしゃっていたドラフト会議見てきましたよ」

 

 

秋田さん。

そう言って顔に笑顔を作る3名の男達を前に、俺は少しだけ納得のいかぬ思いで奥歯を噛んだ。

行かせたのは1人の筈なのに、どうして報告には3人で来るのだ。

 

まぁ、予想はつく。

他の2人はあの西山の放送を聞き、風紀委員あるまじき野次馬根性で鹿鳴館まで乗り込んだのだろう。

それは、俺の代わりに見てくると言って、鹿鳴館へ向かったもう一人も同じ気持ちなだろうが。

 

あぁ、納得いかない。

 

本来ならば、あの腐敗した生徒会が動くと言う事の大きさ上、自分が出向きその動向を見極めるべきだというのに。

今回は、この俺にむかってやたらと生温かい笑顔を浮かべてくるコイツらのせいで、行きそこねてしまった。

 

いや、別に西山が気になるわけではない。

決してない。

 

ヤツがまた、よからぬ事を引き起こすのではないかと風紀委員長として心配しているだけだ。

決して、個人的に西山 秀と言う男の行動に気をとられているわけではない。

 

 

俺は誰に言うともなく、心の中で必死に言い訳じみた事ばかりをグルグル思いを巡らせる自分に沸々と嫌気がさしてきた。

これではまるで、本当にアイツの事を気にしているのと同じではないか。

 

俺はチラリと浮かんだ嫌な考えを振り払おうと、意識を目の前の委員達に向けた。

 

 

 

「で、どうだった。そのドラフト会議とやらは」

 

「名前の通り、文化祭当日の体育館の使用を賭けた場所取り合戦のようなものでした」

 

 

 

そう、冷静に返される言葉に、俺は「そうか」と小さく呟くと、自分の引き出しにしまってある体育館使用希望の書類を取り出した。

 

俺の手の中には50枚の使用希望書の束。

その書面上には、それぞれの体育館の使用希望時間と出しモノの概要が書かれている。

 

50枚の書類があると言う事は、50の団体が体育館の使用を希望していると言う事だ。

中身を見れば、その種類は様々で、どうしたってその団体全てに、体育館の使用を許可する事はできない。

 

なんたって城嶋祭は1日しかないのだ。

スポーツ、勉学、その2つに主な力を注ぐ城嶋学園は、体育館の使用の面からも、授業進度の面からも、学園祭の為に2日も3日も時間を裂く事はあり得ないとしている。

 

例年ならば規模の大きな文化部から優先的に体育館の使用を認めて行くのが常だ。

 

妥当な所から言えば、演劇部、映像工学部、あとは音楽系統の部活といった規模も、実績も高い言わば花形とも言える文化部だ。

去年の大会優勝の件を加えるならばダンス部も枠に入るだろうか。

 

まぁ、そうすれば自ずと個人、及び規模の小さな団体の殆どは体育館の使用は難しくなる。

 

 

俺は書類を片手に眉を潜めると、もう一度全ての書類に目をやった。

 

 

「(………使用希望団体50。去年より13団体も多いな)」

 

 

この絞り込みを、西山はどうやって行ったのだろうか。

 

 

毎年そうだが、この絞り込みは、かなり揉める。

規模の大きな部活、実績のある団体に優先的に体育館の使用を認めるというこのやり方は、生徒からは毎年反発の声が上がるのだ。

 

しかし、来賓や外からの客も多く訪れるこの城嶋祭は、そう言う観点から言って出来の良い、そして質の良いモノを外に公開して学園の品位を落とさないようにとの学校側の配慮が強く働く。

故に、実績のない小規模な団体に、使用許可が下りるのはかなり稀だ。

 

賭けと言っても過言ではないかもしれない。

 

よって、毎年の事だが、許可の下りなかった団体生徒からは大きな反発の声が上がり、去年なんかは、この体育館の使用権の話し合いだけで約1週間、時間を要してしまった。

 

 

 

「で、どこまでアイツは絞り込んだ。去年より数が多いし、半分、いや3分の1にまで絞れたらいい方だろう」

 

 

俺は書類を見たままギリリと奥歯を強く噛むと、小さな声で視察に入った委員に尋ねた。

 

どうせ、期限までに手渡した書類全てがこちらに提出される事はないだろう。

体育館の使用権、予算案の提出。

前者だけでも明後日までに終了させるのは無理かもしれない。

 

そうなれば、仕事を怠った生徒会の信用は落ち、現行犯として風紀からリコールを提示する事ができる。

 

それは、俺の想い描いていた通りのシナリオだった。

己の仕事を怠慢し、転校生にうつつを抜かした生徒会に、与えられるべき罰だと思っていた。

 

しかし。

しかし、どうしてだろうか。

俺は、自分がわざと書類の手渡しを遅れさせた癖に、どうにも釈然としないモヤモヤとした気分が頭の中を渦巻いていた。

 

俺はそんな己の不可解な感情を一蹴すると、書類から顔を上げた。

しかし、その瞬間、俺は妙な違和感を覚えた。

 

 

「…………何を笑っている」

 

 

目の前に立っていた委員の生徒は三者三様に顔に笑顔を浮かべていた。

しかも、その目にはどこか興奮したような色まで伺える。

 

 

「……何かあったのか?」

 

 

俺はどこか落ち着かない、ムズムズした気分で尋ねると、机の下に隠してあるコーヒー牛乳のパックにコツリと爪先が当たるのを感じた。

その、ムズムズとした気持ちが、興奮だったと言う事に気付くのは、後に俺が冷静になってからだった。

 

 

「絞り来みどころか、体育館の使用団体、全て決定しましたよ!」

 

「使用許可の下りた団体、その数35!許可の下りた団体は主に個人団体ばかりです!去年まででは考えられませんよ!しかも、演劇部もダンス部もブラスバンド部も、去年まで常連だった部活は殆ど今年は使用許可が下りていません!」

 

「しかし、50の全ての団体が、城嶋祭での演目の公開場所を決めました!どの部活も公開可能です!秋田さん!今年の城嶋祭、すごく面白そうですよ!?」

 

 

目の前で興奮気味に報告して来る委員メンバーに、俺は手に持っていた書類を思わず落としそうになった。

 

まさか。

何だって。

たった1時間程の話し合いで全てが決まったのか。

 

そんな筈ない。

去年は1週間もかかったのだ。

 

生徒からの反発も大きく、風紀もかなり手を焼いた。

 

それなのに、たったの1時間で。

 

 

「……おい!西山はどうやってその35の団体を決めた!?使用から漏れた部活からの抗議は出ていないのか!?」

 

「今のところ全く出ていません。多分、このまま抗議は出ないと思われます」

 

 

どこか自信満々に答えてくる相手に、俺はやはり自分で見てくるべきだったと激しく後悔すると、もう一度冷静に頭の中を整理した。

 

使用団体50のうち35。

通常ならば、時間の関係から50の団体があれば基本的にはその半分も許可は下りない。

 

しかも、その中に常連の文化部は使用から漏れている。

なのに、どの部活も演目の公開場所を確保している。

 

文句も出ていない。

 

 

 

「ドラフト会議と言ったな。その詳しい内容を教えろ」

 

 

俺は腑に落ちない気分で、もう一度その方法について委員メンバーに尋ねてみる。

 

あぁ、わずらわしい。

やはり、自分で見てくれば。

 

モヤモヤする気持ちは抑えられない。

 

 

「簡単でしたよ?体育館の使用時間の枠を10分、20分、90分の3種類に分け、それぞれの時間枠に希望団体を分けるんです。定員は10分枠が25団体。20分枠が9団体。90分枠が1団体」

 

「しかし、それだと時間枠ごとにあぶれる団体が出てくるだろう。特に90分の使用を求める団体は、今年は3団体あった筈だ。西山はそれをどうやって35にまで絞りこんだ!?」

 

 

俺は先急ぐ気持ちを抑えられず、どこか楽しそうな委員達を前に拳を握りしめた。

そんな俺を前に楽しそうな表情を浮かべる委員メンバーは、何かを思い出す様な笑顔で俺に向かって言い放った。

 

 

「あみだくじですよ」

 

「あみだくじ……?」

 

「あとは、会長の人がらと……ひらめきでしょうか?」

 

「……人がら?ひらめき?」

 

 

俺は思わず何の反応も取れずに3人を見つめていると、何かを思い出しているのか相手は3人で楽しそうに口を揃えた。

 

 

「「「ドラフト会議ですからね」」」

 

 

 

……訳がわからん。

 

 

俺は眉を細めると、もう一度、足元の空の紙パックをコツリと蹴りあげた。

 

 

 

 

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