※風紀委員長の独白と言う名の懐古

 

 

————-
※城嶋学園 風紀委員長
秋田 壮介の独白と言う名の懐古
————-

最近、違和感を覚える。
どんな時か。

アイツと、西山 秀と居る時だ。

 

俺と西山はいつも向かい合っていた。
互いに睨みあって、いつも反発し合っていた。

西山がイエスと言う事は、いつも俺にとってはノーだった。
逆に、西山がノーと言う事は、いつも俺にとってイエスだった。

そんな俺と西山は、示し合わせたように今まで一度も同じクラスになる事はなかった。
幼等部の頃から高校2年に至る13年もの間、ずっと。

西山は理系クラス。
俺は文系クラス。
そうなると、もう残りの1年も、どうしたって西山と俺は同じクラスになる事はない。

だから。
俺とアイツが出会う時は、常にいつも向かい合わせだった。

真っ向から意見を対立させる。
その時が、いつも一番俺と西山の距離が近くなる時なのだ。

それなのに。

 

『秋田 壮介!』

そう言って近付いてくる西山は俺の正面ではなく、何故か俺の隣に居た。

その距離感、立ち位置。
全てが俺にとっては違和感だらけだ。
正面から対立し合っていた時の距離感を、遥かに凌駕する近さで、ヤツは俺の隣に立つ。

それも自然に。

当たり前のように。

『秋田壮介!』

そう俺を呼び肩を叩く西山は、まるで今までの諍いなどなかったかのように。
昔からの友であるかのように、俺に笑顔を向けてくる。

そのうち、

『なぁ、文化祭どうしよっか!』

と、笑顔でそんな事を言ってきそうで恐怖すら覚えてくる。

そんな西山のせいで、俺は最近よく考える事がある。
何故、俺とヤツはこんなにも対立し合うようになってしまったのだろうか、と。

そんな事を考えるようになって、俺は改めて西山とは馬が合わない事が多かったなと言う事実を再認識させられた。

その西山との対立の一番古い記憶。
確かあれが、俺がアイツを意識した最初だったと思う。

あれは、小等部の頃。
俺とアイツが9歳で、夏に行われるキャンプの話し合いの時だった。

全クラスのグループのリーダーが集まって、キャンプ中のレクリエーションで何をするかを話合っていた。

今でも覚えている。

15人の一癖も二癖もあるリーダー達の中で、西山は一番目立っていた。
あぁ、もちろんその癖のあるリーダー達の中に、俺も含まれている。
俺は、自分が相当の頑固者で、融通の利かない、頭の固い奴であると理解しているからだ。

まぁ、その話しは今の思考では関係が無いので置いておこう。

何故、ヤツは15人のリーダー達の中で、そうも目立っていたのか。

その頃から既に、ヤツの容姿が誰からも感嘆の声が漏れるほど整っていからか。
否。

親の会社が、日本でも有数の資産家だったからか。
否。

空気の読めない発言ばかりを繰り返していたからか。
半分、否。

答えは……ヤツの目にあった。

ヤツは、一番キャンプを楽しみにしていた。
リーダーの中で、いやキャンプに出掛ける100人余りの小等部3学年の中で、一番目を輝かせていたのだ。

その目が、西山をこれでもかと言うほど目立たせていた。

俺は話し合いの中、アイツの真正面の席だった。
だから、俺はキャンプの話し合いが行われる間中、ずっとヤツの輝きに満ちた目を見ていたわけである。

そんな話し合いの席でのことだ。
西山はキャンプの夜のレクリエーションを、キャンプファイヤーだけでなく、花火をしたいと言い出した。

『はーい!俺、打ち上げ花火がしてー!火ぃ囲むだけなんてつまんねーよ!』

ヤツのキラキラとした目と、発言の魅力に、他のリーダー達も「いいね」と同じく目を輝かせ始めた。
そんな中、俺は一人違っていた。
頑固で、融通の利かない俺はヤツの意見に対して真っ向から対立した。

『はい!キャンプファイヤーの周りで花火なんて、危ないと思います!しないほうがいいと思います!』

そう、手を上げて大声を上げた俺の言葉に、周りで話し合いを聞いていた先生達も「そうだなぁ」と俺の意見に頷き始めた。
それはそうだろう。
この小等部では日本でも屈指の資産家や財閥の子供を預かっているのだ。
その大事な未来の二世三世に、怪我でも負わせたら学校側は責任が取れない。

9歳と言う、まだ幼い年齢も合い成って、俺の意見は全ての教師の頷きを得る事になった。

そんな俺に、ヤツはみるみるうちに眉を吊り上げると、これでもかと言う勢いで俺に反論を投げつけてきた。

『じゃあ!キャンプファイアーなんかしないで打ち上げ花火をしたほうがぜってー楽しいと思います!火の周りで歌ったって楽しくねー!』

『キャンプファイアーは毎年している決まった行事だから、勝手に変えたらいけないと思います!』

『変えちゃいけないってだれが決めたんだよ!おもしろい事した方がぜってー楽しいだろ!』

『そんな事して誰かがやけどとかしたらどうするんですか!にしやまくんに責任がとれるんですか!』

『やけどなんかしませーん!遠くで花火を打ち上げまーす!』

『かじになったらどうするんですか!にしやまくんに責任が取れるんですか!』

『かじになんかなりませーん!ちゃんと打ち上げた後、水にいれまーす!』

そんな、幼稚な俺達の言い争いは平行線をたどり、結局。

『西山君?花火は小学5年生のキャンプの時にやってみような』

そう言った、先生の言葉で幕を閉じる事になった。
俺は、そんな先生の言葉に得意気にヤツを見た。

すると、西山は本当に。
本当に悔しそうな目で、俺を見ていた。
俺を睨む西山。
その目を見ながら、幼い俺はまだ気付いていなかった。

ヤツの目が、まだ何も諦めていない事を。
先生に宥められるヤツを見て、自分の意見が正しかったと言う幼い、愚かな優越感に浸る事でいっぱいいっぱいだったのだ。

しかし、今の俺ならわかる。
ヤツと10年以上の時間を真正面から共にしてきた俺なら。

ヤツが、キャンプの時に何かしでかすであろう事を。

 

 

 

————-
風紀委員の会室

 

 

俺はぐったりとしながら、いつもの自分の席に座った。
どっしりと構えた委員長専用の重厚な椅子が、俺の体を受け止める。

俺はやっとの事で抜けだした新聞部やその他のギャラリー達の人ごみを思い出し、自然と頭を抱えてしまった。

あの大人数、あの多大なカメラのフラッシュ。
俺はそれらすべてに酔ってしまったのだ。
クラクラする頭をかかえた俺は、最後に笑顔で俺に手を振っていた西山を思い出し、ムカムカと腹が立つのを抑えきれなかった。

元はと言えば、アイツが朝から訳のわからない事を人前で叫ぶからいけないのだ。

俺とアイツが何をするって?
あんな事やそんな事って何だ。
密室で俺とアイツが何をするって!?

俺は腹が立つ想いと、徐々に体が熱くなる感覚に勢いよく机を叩いた。
重厚な椅子同様、長い年月をかけてどっしりと重みを増してきた机が、俺の拳に鈍い音を部屋に響かせる。

一体、何だと言うんだ。
俺は、最近、アイツに振りまわされてばかりだ。

俺は一人小さくため息をつくと、ふと、ポケットの中で眠る小さな紙切れの存在を思い出した。

あぁ。
そういえば。

俺は急いでポケットの中へ手を突っ込むと、西山が最後に俺に押しつけてきた紙を出した。
アイツが言うには、この中にアイツの言う俺とアイツの……あんな事やそんな事に関する何かが書かれているらしい。

俺はどこか居たたまれないような、中身が気になるような……どうにも形容し難い気分で紙を見下ろしていた。
しかし、これを開かねばヤツの企みが何かもわからない。
そうしなければヤツへの対策もとれないのだ。

だから、開けなければならないのだ。

俺はそんな誰に言うでもない大義名分を心の中で唱えると、勢いよくその紙を開いた。
すると、そこには、いつものヤツの下手くそな字でこう、書いてあった。

 

 

【今日の昼休み。一人で生徒会室に来い。いいな?お前が、一人で、来い】

 

と。
どこか、
本当にどこかで聞いた事のあるようなセリフが、その紙には書かれて居た。

俺は思わずグシャリとその紙を手の中で握りつぶすと、心の奥底で燃える対抗心のような熱い固まりにその身を埋め尽くしていた。

いいだろう。
行ってやる。
お前がその気なら、こちらだって受けて立ってやろうじゃないか。

生徒会の予算改定を行ったり、屋外ステージを作ったり、俺を利用して何かを企んだり、挙句当たり前のように俺の隣に立ったり。

西山。
お前と居ると違和感を覚えると思った。

だが、それは違ったようだ。
違和感ではなく、それは今までお前に感じてきた感情そのものだ。
お前は常に俺の予想の範疇に収まるようなヤツじゃない。
そんなお前に、いつも俺は掻き乱されてきた。

だから俺はいつもお前にムカついて……俺はお前に対抗心を燃やすのだ。

これはいつもの俺とお前の姿そのものだ。
おかしな所なんて、違和感なんて、

何もない。

俺は手のひらの中でグシャグシャになった紙を更に強い力で握りつぶすと、あの時

初めてヤツに対抗心を燃やした、キャンプの夜の事を思い出しながら、小さく笑みを浮かべた。

あぁ、全くお前はムカつく奴だ!

 

 

 

 

————
ヤツは花火を諦めてはいなかった。

その証拠に、ヤツはキャンプファイヤーを囲む晩。
火を囲む俺達から班ごと抜け出して、どこかへ消えてしまったのだ。

『Aクラスの1班はどこに行った!?』

そう、ヤツが居なくなった事に気付いた教師が火を囲む俺達の傍で騒ぎ始めた時だった。

 

俺は空を見た。

 

微かな爆発音と、空に浮かぶ大輪の花とは言い難い、小さな打ち上げ花火。
それが、俺達の目の前で燃え盛る炎の上を飛ぶように何発も、何発も打ちあがっていた。

教師達も生徒達も……そして、俺も。
皆騒然としながらも、どこか魅力にあふれた、その光の花に目を奪われて居た。

歓声を上げるクラスメイト達。
我に返って花火の上がる方へと走る教師達。

その中で、俺はひたすら真っ黒な空に打ちあがる花火に目を奪われ確かに思ってしまった。

なんてきれいなのだろう

と。

そう思った瞬間、俺はどこか心の片隅で小さな敗北感を覚えるのを感じてしまった。
そして、その敗北感は、教師に連れられ俺達の元へと帰って来たヤツを見て、決定的なものになった。

『ほーら!楽しかっただろーが!』

アイツは誰に言うともなく、火を囲む生徒達に向かって叫んでいた。
しかし、俺には分かった。

その言葉が誰に向けられたものなのか。
その楽しそうな笑顔が誰に向けられたものなのか。

それは紛れもなく、俺に向けられたものだったのだ。

俺は思いきり小さな手に拳を作ると、ふんとヤツの方から目を逸らした。

きれいなんて思っていない。
楽しいなんて思っていない。

そう、誰に言うでもなく心の中で叫ぶ俺。

そんな俺の向こう側からは、教師にこっぴどく叱られるヤツらの声。
その花火をしかけて教師に怒られる、西山率いる班のメンバーが、今の生徒会のメンバーになろうとは、その時の俺は知る由もないのだが。

俺はとりあえず、ムッスリと不機嫌な気持ちで、目の前に煌々と燃え盛る大きな火を眺めていた。

それが、俺とヤツの対立の始まりだったと思う。

 

後日、花火の主犯格だった西山は学校に親を呼び出され、ヤツの親父からもこっぴどく叱られたと聞いた。
まぁ、キャンプ明けの学校に現れたヤツの頬が真っ赤に腫れていたのが、その証拠であろう。

その頬を見て『ほーら、やっぱり怒られてる!』と、わざわざ笑いにヤツのクラスまで走って行った俺は、今思い出すと

その……まぁ、相当ガキだったと思う。

しかし、俺はそれを言わずにはおれなかった。
何故なら俺はヤツに対してこう思っていたのだから。

 

あぁ、まったくお前はムカつくやつだ!

と。

タイトルとURLをコピーしました