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新谷 楽を生徒会長に推薦する、2年2組の白木原 了です。
立候補者が一人なのに、こんな推薦文を読まされる羽目になってしまった可愛そうな友人代表です。
まず、新谷はバカでアホで要領が悪くて頭も悪い、一言で言うとバカです。
高1の入学式の日に間違って中学校に行ってしまうくらいバカです。
バカなのに一生懸命何にでも首を突っ込もうとするので被害が拡大する事が多いのですが、本人にその自覚は全くないようです。
しかし、だから新谷は面白い。
一生懸命、本気でバカをやれる人間は、この学校に彼以外いません。
新谷なら、この後、次の生徒会選挙までの1年間。
この学校を最強に楽しく変えてくれると思います。
俺はここに宣言します。
新谷 楽はこの学校の生徒会長にふさわしいと。
彼なら絶対に学校を楽しくしてくれると。
彼以外に、生徒会長はありえないと。
俺はここに宣言します。
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『白木原休み!?先生!今日生徒会選挙の日なんだけど!俺どうしたらいいの!?』
『他に代理を立てるしかないなぁ』
白木原が休みって聞いて、俺、凄くがっかりしたんだ。
生徒会に立候補する時って、友達とかに推薦人を頼まなくちゃならないだろ。
『ないなぁって……えっ、ええぇぇ。えっと、ねぇ、みんな!って!何で皆して目逸らすの!?先生、みんなが目を逸らします!』
『5限目までに代理を立てとけよー』
そんでさ。推薦人は推薦者の事を推薦する為の推薦文を描かなきゃないんだ。
だから。
白木原なら、俺の事どんな風に推薦してくれるのかなって楽しみにしてた。
なのに。休みなんてさ。
『立てとけよーって……推薦文の原稿は!?あるの!?』
『さぁな。白木原だけは出せっつっても推薦文見せにこなかったからなぁ。何回も言ったのに。まぁ……書いてたら机の中とか入ってるんじゃないか?』
『白木原めぇぇ!』
俺、楽しみにしてたのに。
白木原はきっと推薦文、書いてくれてなかったんだって。
俺、悲しくなったんだ。
でも、違った。
『…………あった』
推薦文。
ちゃんとあった。
白木原の机の引き出しの、一番奥に。
あったんだ。
白木原は俺の推薦文、ちゃんと書いてくれてた。
『俺、自分で言う』
白木原の綺麗な字で、白い紙に走り書きみたいにして書かれたその紙を見つけた時。
俺、自分でこれを読もうって思った。
俺はここに宣言する。
俺はこの学校の生徒会長にふさわしいと。
俺なら学校を最強に楽しくできると。
俺以外に、生徒会長はありえないと。
俺はここに宣言する。
『俺はここに宣言する!』
俺はあの日。
自分で、自分を推薦した。
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きっかけは、些細な事だった。
別に大した事じゃなかった。
これと言って思い悩むような事でもない。
普通の、生徒会室での一コマに過ぎない。
いつもの俺達の“日常”の筈だった。
『カイチョー!どーすんのー?』
『あれがないと、また風紀からチクチク文句の嵐ですよ』
『…………風紀、いやだ』
『『俺達しーらない』』
『文句言ってねぇで、さっさと探すぞ!』
風紀に提出する筈の書類が紛失した。
多分、探せば部屋のどこかにある。
そんなに大した書類でもない。
別に、誰の担当の書類なんて決まってるもんじゃなく。
それは本当に、ほんの些細な事だったんだ。
『大体、カイチョーが余計な事ばっかやろうとするからぁ。で、探して無かったら、どーすんの?』
『いつも偉そうに何か言う割には、何かあるとコッチにも被害が飛び火するんですよねぇ』
『………迷惑』
『『えーっ!俺達まで探さなきゃならないのー!?会長がどーにかしなよぉ』』
『あーっ!ウゼェ!何だよ!?俺が悪いっつーのか!?あ゛ぁ?』
いつもの憎まれ口。
でも、その時俺は何故かプチンと頭の中で何かが切れた気がした。
どーすんの?
余計な事。
迷惑。
知らない。
わかっている。
この言葉に、何か大した意味がない事くらい。
コイツらのコレは会話の一種みたいなもんだって。
けど、何故かその時は我慢できなかった。
『っくそ!そんなに文句があんならテメェら先に帰ってろよ!?』
別に思い悩んだりしてたわけじゃない。
俺は確かに生徒会長になって、やろうと思っていた事をイロイロやろうとしてたから。
そのせいで、コイツらの仕事も必然的に増えてる事も知ってたから。
ワリィとは思ってた。
別に本気で、ムカついたわけじゃなく。
発言に伴う責任の重さは、俺だって理解しているつもりだから。
俺が発言した事によって増えた仕事だったから。
すげぇ、なんかキて。
『………余計な事して悪かったな!迷惑かけて悪かったな!いいぜ!自分でどうにかするからよ!?』
それから。
奴らが生徒会室から居なくなって、俺は一人で無くなった書類を探した。
どのくらい探しまわったか。
まぁ、1時間くらいだっただろうか。
外は大分暗かったし。
もしかしたら、もっと時間は経っていたのかもしれない。
時計なんか見てなかったから、正確な時間なんて知らねぇけど。
だから。
風紀に書類の事、言いに行った。
そしたら、まぁ当たり前だが、秋田から説教くらった。
『お前が言いだした事だろう。自分の言い出した事すらまともに果たせない奴が、出しゃばって無駄に手を広げるな。こっちが迷惑する。まともに仕事ができないなら、生徒会長など辞めてしまえ』
『うっせーな!いいから予備でもなんでもいい!渡しやがれ!』
『……予備などない。自分で言いだした事だ。自分で責任もってどうしかしろ』
『っくそ!わーったよ!悪かったな!?邪魔して!』
もう、今じゃ何の書類だったのかすら覚えてない。
でも、とりあえず1からまた自分で作らなきゃなんねーっつ事で。
スゲェ、面倒で。
スゲェ、大変で。
でも、やっぱ、これは俺の言いだした事だし。
俺がやりてーっつった事だったし。
言葉の責任っつーもんがあったし。
俺は一人、生徒会で仕事をしながらふと、思った。
なにやってんだ、俺。って。
俺、何でこれがやりたかったんだろう。
これだけじゃねぇ。
他にも、周りから迷惑と言われてまで、俺は今まで一体何でこんな事ばかりしたいと言い張っていたのだろう。
別に、絶対しなきゃならねぇ事なんて一つもねぇのに。
何で……俺。
こんな事“楽しい”なんて思ってたんだ。
“楽しい”から。
“おもしれぇ”から。
だから今までやってきた。
だけど、それは何の為だ。
誰の為だ。
俺の為なのか。
俺はどうしてやろうと思ったんだ。
『どーすんのさ』
どうしたらいいんだ?
『余計な事ばっかり』
やらない方がよかったか?
『迷惑』
迷惑かけたのは、俺か?
『知らない』
俺なら知ってると思ったか?
なぁ。
俺がやってきた事は……いらない、余計な、迷惑な事だったのか。
もう、わけわかんねぇ。
もう……なんか。
疲れた。
『秀ばっか無理しなくていーんだよ!』
っ!?
『秀ばっかり頑張る必要ないんだ!』
そっか。
そう、だよな。
どうせ迷惑な事なら。
どうせ余計な事なら。
『仕事を放棄するなら、生徒会長など辞めてしまえ!そうでなければ俺がお前をリコールしてやる!』
『…………………』
俺、やらなくてもいいのか。
生徒会長。
そうか。
いいのか……。
でも、何でだろうな。
皆、俺を見るんだ。
失望したような。
がっかりしたような。
泣きそうな。
悔しそうな。
皆、全然楽しくなさそうな顔してさ。
あぁ、この顔すげぇやだな。
もっと………もっと。
もっと、見たい顔が、他にあるんだ。
あぁ、クソ。
俺……どうすりゃよかった?
『………なぁ、誰か。教えてくれよ』
俺はあの日。
自分で自分を見失った。
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がたん。
「っう、っあぁー……あれ?」
その日、目が覚めた時。
俺はまたしてもベッドから落ちていた。
そして。
「あれ……?俺……」
何故だか俺は泣いていた。
理由はわからなかったけど、目からずっと零れてくる。
漫画が散乱して、夜はカップ麺食べたからその空が放置されたまんまの部屋で。
俺は泣いていた。
夢を見た気がする。
懐かしい夢だった。
「……………あいさつうんどー行かないと」
でも、よく思い出せない。
俺は後から後からこぼれてくる涙に。
俺はとりあえず欠伸をした。