第30話:早すぎた告白

 

 

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第30話:早すぎた告白

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「えっと、まず調理班と接客班を二つに分けて、時間ごとのシフトを作っていったほうがいいと思います」

 

「ほうほう。確かに確かに」

 

「で、分けた後です。それぞれ当日は部活や有志の関係でお店に出られない時間帯があると思うので、皆の当日の予定を確かめて調整しないといけません」

 

「ほうほうほう!そうだよね!確かに確かに!」

 

「というわけで、当日のシフト希望表を作ってきたので、できれば今週中に提出してください」

 

「おおおおおお!すっげー!シフト表まで出来てるー!!何これかっけー!」

 

 

 

昼休み。

俺は現在、2年A組の教室で、店員君を囲んでクラスメイト達と文化祭当日の作戦会議をしている。

俺は店員君が手渡してきた、きめ細やかに作られたシフト表を見て感嘆の声を上げた。

 

これはきっとエ……エ、クセル等の高等パソコン技術で作られたものに違いない。

コンビニの店員のスキルすげぇぜ。

 

 

「いえ、お店のシフト表をちょっとイジって使っただけですから」

 

「はーっ!でもスゲェ!俺にこれ作らせたら漏れなく手書きになってたよ。はい!委員長配って配って!」

 

「あ、はい。平山さん、ありがとうございます。本当に助かります」

 

「あっ、そんな!俺、このクラスで文化祭させて頂けるだけで嬉しいので!気にしないでください」

 

 

そう言ってペコペコと頭を下げる店員君に、A組のメンバーは笑顔でそれぞれお礼を言っている。

 

そう。

店員君をA組のメンバーに紹介したのは、クラスでメイド喫茶をすると決まった次の日の事だった。

放課後、A組全員で文化祭の作戦会議をすると言って、俺はレジ前でサクサク仕事をしている店員君を見事に拉致って来たのだ。

 

もちろん、店員君の代わりに生徒会の顧問と言うホスト野郎を代わりにレジにぶちこんで来た。

丁度、コンビニの前を暇そうに歩いてたから俺は先生を有効活用したのだ。

 

まぁ、あとから生徒会室で頭ボコボコ殴られたが、野伏間君の「お前仕事してねぇんだから少しは役に立てよ」と言うブリザードな一言で、俺への暴力は幕を閉じた。

ま、白木原の拳の方が圧倒的に強かったから、別になんともないけどな。

 

 

と、話は戻して。

 

A組に紹介された店員君は、もともとの丁寧な性格と、優しい気の付く性格から、すぐにクラスに馴染んだ。

それから、こうして店員君は昼休みや放課後。

時間が空けば俺達のもとで一緒にメイド喫茶の作戦会議に付き合ってくれているというわけだ。

 

 

「あの、俺はその日は全部空いてますから、足りないところに好きなように使ってください」

 

「なんて良い子!とりあえず、店員君の接客術を真似る為に店員君はフルでメイド服にて接客を頼む!」

 

「……やっぱり俺も着るんですか?」

 

「あったり前じゃん!メイド服が似合わない野郎を集めた珠玉のメイド喫茶が俺のコンセプトだからね」

 

 

俺が拳を握り締めながら店員君に力説していると、シフト表を配り終わった委員長がいつの間にか俺の隣に立って居た。

 

 

「平山さんは十分アリです。俺が保証します。むしろどんど来いレベルでアリです」

 

「……だから、委員長のストライクゾーン広いよ!そしてキミも漏れなくメイド服着るんだからな!?」

 

「西山会長、俺がシフト表の調整等やります。あの、だから……平山さんと一緒にできればやりたいです。俺こういうの初めてなので……いろいろわからない事があったら聞きたいですし」

 

 

俺のツッコミをフルシカトした委員長は俺にシフト表を手渡しながら、微かに頬を染めて店員君を見つめていた。

 

あー、はいはい。

俺の事なんか見ちゃいないよ、この委員長め。

眼中にねぇってか、俺は。

この色ボケ委員長め。

 

店員君はというと、そんな委員長の熱い視線に気付いているのか気付いていないのか笑顔で「いいですよ」と返事をしている。

 

よし、これは間違いなく店員君は委員長の熱い視線に気付いていない。

俺はクラスメイト達を見渡しながらアイコンタクトを送ると、皆一様に俺に向かってコクコクと頷き返してくれた。

 

 

「………よーし。じゃあシフトの調整は店員君と委員長でやってもらおーう。皆それでいーかなー?」

 

 

俺がクラスメイトに大声で尋ねると、皆一様に委員長へ生温かい視線を送りながら良い子の返事をしてくれる。

よし、皆ほんとうに空気の読める良い子達だ。

これからも空気は読んで生きて行こうな。

 

 

「じゃあ、店員君。シフトよろしくね。うちの委員長、こういうの初体験だから、イロイロ手取り足とり教えてやって!」

 

「そんな、俺の方がわからない事ばかりですよ!委員長さん、こちらこそイロイロ教えてくださいね」

 

「も、もちろんです!あ、あの。早速なんですけど聞きたい事が……」

 

「はい、何でしょう?委員長さん」

 

 

そう言って笑う店員君に、委員長は蕩けるような表情で店員君に向かって何やらイロイロと尋ねている。

委員長。

お前、そのポジションをフルに活用してお前の恋路を突き進め。

 

俺は他のクラスメイトを引き連れ、やんわりと二人から離れた場所に集まると皆でコソコソと二人の後ろ姿を見つめた。

そう、店員君を皆に紹介したその日、俺らクラスメイトはまた別の同盟を裏で組んだのだ。

 

それは……

 

 

「ほらー、カイチョーが新垣のこと委員長なんて呼ぶから、平山君まで委員長呼びになっちゃったじゃん。あれ、もう定着しちゃってるって」

 

「っ!うおあああ。そうだった忘れてた!今日からさりげなく委員長の事、新垣って呼ぶ筈だったのに……!」

 

 

俺の隣でコソコソと耳打ちをしてくる野伏間君に、俺には失敗できない重要なミッションがあった事を唐突に思い出した。

そうだ、今日は店員君に委員長の事を“新垣”呼びさせる為に俺がまず新垣って呼ぶ筈だったのに。

すっかり忘れてた!

 

 

「そっすよ、会長。皆で周りでジェスチャーしてたじゃないっすか」

 

「うそ!何かしてたっけ?」

 

「してましたよぉ。僕達、周りでノート広げて新垣呼びするように伝えてたのにぃ」

 

「あれそう言う意味だったの!?なんか新しい踊りかと思った!」

 

「あの場面で踊ってるほうが不自然だって」

 

 

周りで口ぐちに俺の失態を茶化すクラスメイトに、俺は小さな声で謝罪と土下座をした。

不甲斐ない応援団長でごめん、みんな。

 

そんな俺の頭の上からは、小さく皆が笑う声が聞こえる。

野伏間君は「さすがカイチョーだねぇ」と言いながら俺の腕を引っ張って体を起してくれた。

その時触れた野伏間君の手が、いつもより熱を帯びていた事に俺は若干の違和感を感じたが、見上げた野伏間君はいつもの通りだった。

 

 

「委員長、上手くいくといいなぁ」

 

「そうだねぇ」

 

 

そう、今俺達はAクラスの力を結集して、委員長……いや、新垣 真(あらがき まこと)の恋を応援しようプロジェクトを発動しているのだ。

もちろん、相手は店員君。

 

学校行事に恋つきもの。

一つのイベントを共に乗り越えた男女は、絆が強くなるのだ。

……まぁ、男女っつーか男男だけど。

 

恋に性別なんか関係ねぇよ。

(副音声:本人達さえよければ何でもアリだろ)

 

委員長……じゃなかった新垣の好きなタイプがまさか可愛い系より、むしろ平凡男子系だとは知らなかったが、それも全てクラスメイト達の口から聞く事ができた。

だから、委員長……じゃなかった新垣は俺のメイド服もアリだとのたまったのだ。

道理でおかしいと思ったぜ。

 

委員長……じゃなかった新垣はストライクゾーンが広いと言うより、ある一方に固まって存在しているという感なのだろう。

好みとは本当に分からないものだ。

 

 

「でも、こないだよりは、随分打ち解けてるみたいじゃん?」

 

「そうだね。文化祭の終わりまでに、アクション起こしまくらないとね」

 

 

俺は笑顔で委員長……じゃなかった新垣に話しかけている店員君に拳を握りしめると、心の中で委員長……じゃなかった新垣にエールを送った。

 

 

もう、委員長でもいいんじゃなかろうか……。

委員長って呼び方も素敵だと思うよ、俺は。

 

 

「あ、そうそう。そう言えばBクラスは執事カフェやるって言ってたんだけど、俺らと内容かぶっちゃヤバいよね?ちょっとメニュー変えた方がいいかもしれないよ」

 

 

俺は委員長達から目を離すと、今度は料理長役になった副委員長に向かって、今朝秋田壮介と遭遇した時に思った懸案を提案した。

 

そう、喫茶とカフェって言い方は違うが、そんなもんオレンジとみかんぐらいの違いしかないのだ。

つーか、ほとんど一緒だ。

 

これはBクラスとの差別化を図らないと、当日、隣同士で客の取り合いなんて事になりかねない。

そんな身内同士の争いなどしていては、売上トップ、集客トップなんていってられないだろう。

 

俺の目指すはあくまで売上、集客共にダントツ1位だ。

 

 

「そうですね。向こうは秋田や生徒会の方々の執事服で勝負をかけてくるみたいなので……せめてメニューだけでも、こちらが上をいかないと……」

 

「副委員長!聞き捨てならないぜ今の言葉!メニューだけじゃない!勝負なら他にもある!俺達の勝負メイド服による接客が!」

 

「話題にしかなりませんね。そこからはどうしましょう。不安です……」

 

 

くはっ、副委員長が天然の毒舌で俺のやる気を打ち砕いてゆく。

くそう、話題になれば人は集まるだろうがー。

いざとなったら、俺がメイド服で学校中を駆け巡ってやるから見てろ。

可愛さを学校中に振りまいてみせる。

 

 

「俺もそう思うー。話題にはなるかもだけどさぁ」

 

「野伏間君まで!一緒に絶対領域作ろうねって約束したのに!あれはウソだったの!?」

 

「……若気の至りだよねぇー」

 

 

野伏間君は、微かに熱を帯びたような頬を手で撫でながら虚空を見つめていた。

 

え、何。

今さらメイド嫌って言ってももう遅いからね。

もう、今さら止められないところまで話は来ているんだからね。

今日の放課後は悠木君にメイド服の制作を頼に行くんだからね。

 

俺は絶対メイド服着るんだからね!

 

 

「とりあえず、調理班で少しメニューについて練り直してみます。メニュー案が出たら、また報告しますね」

 

「俺の女装の力も頼りにしててね!」

 

「コアな客層の受け入れを見込んだメニューを考えておきます。ガチムチ系の客向けにプロテイン入りのコーヒーとか……」

 

 

くはっ。

何それ、俺を好む客層がガチムチ系だっていうの。

………ちょっ、マジで怖いからそういうのやめて!

俺だってけっこうカッコイイ顔してるんだから、女の子の客を呼んでみせるよ。

姉妹校の女の子達を。

 

……でも、そういや俺はメイド服着てるんだった。

ヤッベェ……冷静になってきたら俺スゲェ変態じゃん。

 

女の子どん引きする可能性高いんじゃなかろうか……。

 

……でも女装はしてみたいんだよ。

一生に一回でいいからやってみたい事、第1位なんだよ。

 

 

「よーし、文化祭は我を忘れてガンバルゾー」

 

「我を忘れなきゃやってられないよねぇ……」

 

 

俺は両手で顔を覆う野伏間君の肩を抱き寄せ、オーと拳を突き上げた。

ここまで来たら、腹をくくらねばな。

そして、やっぱり野伏間君の体はちょっと熱い。

 

どうしたんだろう。

 

 

俺が不自然な体温の野伏間君に、やはり違和感を隠せずに居ると、今まで石のように黙っていた陣太がオズオズと俺に向かって話しかけてきた。

コイツは本当に図体ばっかり大きくて、動きの小ささのギャップがスゲェな。

 

 

「会長……俺も、ほんとに……女装……?」

 

「当たり前だっつーの!今さら待ったは聞きません!」

 

「で……、でも……俺……」

 

 

そう言いながらきゅうっと更に体を小さくする陣太に、俺は肩をバンバン叩いて俺の方を向かせた。

つっても、陣太の方が15……いや20センチ以上高いから必然的に俺が見上げる事になる。

 

 

「心配すんな!俺が一番似合わねぇから!お前一人が女装すんじゃねぇんだからな!俺も一緒だ!だから心配すんなってな?」

 

「………一緒……」

 

「そ!俺だけじゃないぞ!野伏間君だってぜってーメイド服似合わない!けど彼は勇敢にも絶対領域を作るとおっしゃった勇者様だ!野伏間君についていけば、まず間違いない!」

 

「……いやいやいや、何その絶対領域のリーダーみたいな扱い。カイチョーがリーダーでしょ?」

 

「俺はメイドリーダー!野伏間君は絶対領域リーダー!」

 

「何それ!?変なリーダーに担ぎあげるのよして!」

 

 

隣で野伏間君がマジ顔をしながら嫌がっているのを横目に、俺はその表情から少しだけ緊張や恐怖の抜けた陣太の顔を見てニッと笑ってやった。

 

 

「赤信号、みんなで渡れば怖くない!」

 

「漏れなく全員車に轢かれそうだけどね……」

 

「野伏間君!いちいち水を差さない!」

 

「だってぇ……」

 

 

野伏間君は未だにすっきりしない表情を浮かべながら、俺の肩に頭を置くとグリグリと頭を擦りつけてきた。

どうしたんだろう。

野伏間君のキャラが女装を前にちょっとおかしくなっている気がする。

 

まぁ、もう腹をくくって貰うしかないぜ。

野伏間君。

 

俺はグリグリしてくる野伏間君の頭を撫でながら、いつの間にか小さな声でくつくつ笑い始めた陣太に拳を突きつけてやる。

笑うくらいの余裕があるなら大丈夫だろ。

 

 

「よし、今日の放課後は一緒に被服部に行くぞー。陣太は規格外だから一着だけオーダーメイドにしてもらおうな!」

 

「……が、がんばる」

 

 

オズオズと、しかしハッキリとそう呟いた陣太に俺が笑顔を返した時だった。

俺らクラスの集団の奥から、まさかの……

 

思いもよらない大声が教室中に響き渡った。

 

 

 

 

「平山さん!好きです!付き合ってください!」

 

 

 

 

その声に皆が目を見開いて教室の奥へ振り返ると……

 

そこには店員君を抱きしめる委員長の姿があった。

 

 

おい、委員長。

告るの早すぎだろ……。

 

 

A組の心が一つになった瞬間だった。

 

 

 

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