第31話:天使VS天使(勃発直前)

 

 

(何で、皆に出来る事が俺にはできないんだろう)

 

(何で、こんなに役立たずなんだろう)

 

(何で、俺はこんなにバカなんだろう)

 

(何で、何で、何で)

 

 

心のどこかでずっとそう思ってきた。

 

だから、俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第31話:天使VS天使(勃発直前)

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現在、4時40分。

俺は恋愛の不可解さと言うモノについて頭を悩ませていた。

 

 

「恋愛と言うモノは時として予想もしない事態を引き起こすものである………」

 

 

俺がポツリと呟くと、左隣を歩いていた野伏間君が「は?」と俺の方を覗きこんできた。

右隣を歩いている陣太は、デカ過ぎてもう何がなんだかわからない。

とりあえず、ちゃんと黙ってついて来てるからよし。

 

 

「あーっ!どうしてあんな事に!」

 

「まぁーだ言ってんのカイチョー?」

 

「…………」

 

 

まさか、まさかの委員長のスピード告白に。

まさか、まさかの店員君のスピート頷き。

 

俺は昼休みの委員長の強行を思い出し、ガシガシと頭をかきむしった。

なんだよ!俺らの委員長の恋を応援しようミッションはこれからだったのに。

 

 

「せっかくこれからラブミッションを次々打ち立てて行く筈だったのに!」

 

「他人の片思いっておもしろいもんねぇ。付き合い始めたらクソだけどー」

 

「……………」

 

 

俺は隣を歩く野伏間君の言葉に「うあああ」と項垂れると、頭の中で萎んでいくラブミッション達にさよならを告げた。

あぁ、さよなら楽しい恋愛イベント達。

 

つーか。

まさかあの状況でOKが出るなんてだれも思わないだろう。

多分、店員君の勢い余った「はっ、はい!」という返事は、コンビニ店員人生で培ってきたイエスマン精神が災いしたものだろう。

 

だって俺が以前にコーヒー牛乳を箱ごと欲しいって言ったら、笑顔で箱ごと出してくれた。

曰く、「お客様のご要望に対して、基本ノーとは言いません」って事らしい。

 

だから、俺は箱ごと購入したコーヒー牛乳が生徒会室の巨大冷蔵後にこんもり入っている。

巨大冷蔵庫にもかかわらず中身はコーヒー牛乳しか入っていない摩訶不思議だ。

 

いや、いや。

話の中心はそこじゃない。

結局、だ。

何度も言うが、委員長の勢い余った告白は、見事成就してしまったのだ。

まさか文化祭20日前に告白して、見事成功を納めるとは思わなかった。

 

普通、文化祭終わってから告るだろ。

あれでもしOK貰ってなかったら、委員長はどうするつもりだったんだろう。

これからの準備が激気まずくなる事は頭になかったのだろうか。

……あの勢いは絶対そんなの考えちゃいなかったろうけどさ。

 

 

「………成功、して、良かった……」

 

「……陣太!?久方ぶりに喋ったのがそのセリフってお前めちゃくちゃ良い奴だな!?やめろよ!俺だって良かったとは思ってるんだ!妬んでるわけじゃないんだ!俺心狭い人みたいじゃん!やめろ!」

 

「カイチョー、そのセリフが既に心狭いー」

 

「……良かったなぁ!委員長!俺もすっげー嬉しいわ」

 

「……………」

 

 

 

何やら含みのあるような目で俺を見てくる野伏間君の視線をフルシカトし、俺は俺の目的地のある第一校舎のはしっこまで足を動かした。

そう、俺には向かうべき場所があるのだ。

 

そこは………

 

 

「………うーわ」

 

「めちゃくちゃ忙しそー」

 

「…………」

 

 

第一被服室。

第一があるから第二もあるんだろうな、などと侮ってはいけない。

この学校は金持ちなのだ。

ものっそい、金持ちなのだ。

 

大事な事なので今まで何度も言ってきたが、正真正銘の金持ち学校。

 

そう。

まさかのこの学園は被服室だけで5つも所有しているのだ。

 

そんなに被服室は必要なのかという疑問は、既に出されつくした疑問であろうからもうこの場では取り上げない事にしよう。

だってどんなに疑問を持ったってあるものはあるのだから仕方ない。

 

まぁ、とりあえず俺達は、この第一被服室。

別名、被服部の部室に用がある。

 

もちろん、悠木先輩率いる被服部の部員の皆さんに、俺達の着るメイド服を作って貰うためなのだが……

 

 

 

「……これ、無理じゃね?」

 

「……無理っぽいねぇ……」

 

「……………………」

 

 

少し離れた階段の影から見える被服室は、既に何人もの生徒が行ったり来たりしている。何やら大量のミシンや、生地のようなものを持って。

これは……これは。

 

 

「なんか、頼んでも大丈夫かな?」

 

「……メイド服……何着作ってもらう予定だったっけ?」

 

「………10着」

 

 

無理っぽくね。

俺は物影から遠くに見える、これは全員女子じゃないのか?と思えるちっちゃな可愛い子らの集団を見て頭を抱えてしまった。

そうだ、俺は自分のクラスのメイド服を作ってもらおうなんて簡単に考えていたけど、悠木君達だってファッションショーをやるんだから、忙しいに決まってる。

 

10着もメイド服を作ってなんて、言える状況じゃないよな。

 

 

「……どうするの?カイチョー。メイド服」

 

「うええっと……」

 

「カイチョーがメイド喫茶って、言いだしたんだからね」

 

「っうあ………」

 

 

どこか言葉に疲れと溜息を忍ばせる野伏間君に、俺の心臓が無意味に跳ね上がった。

 

 

(カイチョー!どーすんのー?)

 

 

小さく頭の片隅で聞こえる懐かしい声。

懐かしいけど、思い出したくない声。

 

あれ、これは……。

俺がツキリと痛む頭に思わず目を閉じた時。

 

 

「……会長。あれ」

 

 

俺の遥か上で、陣太が被服室の集団に向かってオズオズと指を指していた。

そんな陣太に、俺も促されるように陣太の指差す方向を見ると……。

 

 

「なぁなぁ!俺達のメイド服作ってくれねー!?文化祭で使うんだー!」

 

 

そんな大声と共に被服室の前に現れた少年。

その、どこかで聞いた事あるような声と、しかしその実、全く見覚えのない容姿に俺は「んんー?」と眉を潜めた。

 

聞いた事あるけど、見た事はない。

俺は脳内が混乱するのを感じながら、とりあえずキラキラと光るような笑顔を湛えた少年をジッと観察した。

 

遠目でもわかる、その日本人離れした姿かたち。

 

黄金色の透き通った髪の毛。

大きくクリクリとした青い目。

そして、目鼻立ちの通ったその顔は、まさに天使と見間違えんばかりの愛らしい姿をしていた。

 

 

「もしかして……あの、声。ねぇ陣太あれって……もしかして」

 

「………たぶん……そう」

 

「え!?ナニナニ!?何あの空気クラッシャー!?」

 

 

俺を差し置いて、あの美少年に向かって声を潜める二人の隣で俺は一人話に付いて行けず何度もあの空気クラッシャーを見た。

その間も、空気クラッシャーは困り果てる被服部のメンバーに構う事なく「メイド服作って!」と叫びまくっている。

 

厄介だ。

厄介すぎる。

 

しかも更に厄介なのは、被服部を囲んでいるのは空気クラッシャー一人だけではないと言う点だ。

 

奴の他に、同じクラスと思わしき人間が数人いる。

その中にはメチャクチャ怖い不良っぽい奴まで居るではないか。

そのせいで、被服の子らは若干プルプルと縮みあがっていた。

 

ちょっ、アイツら何者だ。

あの迷惑そうな周りの顔が全く見えていないなんて、なんて強者なんだ。

 

そう思って俺が空気クラッシャーからチラリと隣に立つ野伏間君を見ると、野伏間君の眉間に盛大な皺が寄っていた。

しかも、少しだけ息も荒い。

 

 

「ねぇ、野伏間君……」

 

 

大丈夫?

 

そう俺が野伏間君に問いかけようとした時だった。

 

 

 

「いきなり来て、自分勝手な事を言わないでくれるかな。無礼にも程があるとは思わないの?朝田 静」

 

 

俺の耳に、いつもの、聞き慣れた可愛い声が響き渡った。

しかし、その声はいつもの甘えたような高い声ではない。

 

その声は、俺が今まで聞いた事のないような凛とした………

 

 

「悠木君……」

 

 

悠木君の声だった。

 

 

 

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