第32話:天使VS天使(若干不発)

 

 

 

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第32話:天使VS天使(若干不発)

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悠木君と空気クラッシャー……もとい朝田静とか言う奴が火花を散らしている。

 

そう。

天使と天使が闘っているのだ。

どちらも、その可愛らしい容姿とは裏腹に、醸し出す雰囲気は絶対零度。

静の方は見るからに怒っているのがわかるからまだいいが、悠木君の方は全くの無表情だから更に怖い。

 

いつも俺に向けてくる「秀様!」と言う笑顔はどこへ行ったのだろう。

俺はあの悠木君が一番好きなのに。

 

俺は目の前で巻き起こるピリリとした空気に、思わず拳を握りしめた。

 

 

「お前、こないだ俺を呼びだして秀に近付くなとか言ってきた親衛隊のヤツだな!また俺を目の敵にしようとして!お前らなんかが居るから秀たちに友達が出来ないんだ!」

 

「お前じゃないでしょう。朝田静、キミは1年、俺は3年だよ。たかが二つ上といえど俺はキミより年上、きちんと敬語を使いなさい。そして、秀様の事を勝手に語らないで」

 

「勝手なのはお前達だろ!秀の気持ちも考えないで親衛隊なんか作って!秀は嫌がってたんだ!お前らが勝手にいろいろするから秀はいつも一人ぼっちだったんだ!だから俺が友達になってやったんだ!」

 

 

そう、静とか言う美少年が叫んだ瞬間、悠木君の目が薄く細められた。

その目がまるで、本当に……本当に嫌な物でも見るような目だったから、俺は思わず自分の心臓が早くなるのを感じた。

あんな目で悠木君に見られたら、俺は立ち直れないかもしれない。

 

そのくらい、ダメージのある目だった。

 

 

「………もういい。キミとは話すだけ時間の無駄みたいだね。用がないのなら俺達は忙しいから他の連中も連れて、早くどこかへ行って」

 

「っ!待てよ!まだ話は終わってないぞ!」

 

 

そう、静が背を向ける悠木君の肩を掴んだ時だった。

 

パシン。

 

そんな小気味の良い音が廊下に反響した。

その直後、俺達の前には頬を腫らして、何が起こったのか理解できていない静と、それを冷たい目で見る悠木君が立って居た。

俺は余りに突然過ぎる状況の変化について行けず、ただ目を瞬かせる事しか出来なかった。

 

 

「俺に触るな。朝田静。以前、俺は言った筈だ。俺はキミが大嫌いだと」

 

「っあ、うぁ……」

 

 

やっと自分が悠木君に平手打ちされた事に気付いたのだろう。

赤くなった頬を撫でる静は、少しずつ目を潤ませていき。

静の周りに居たクラスメイトと思わしき連中も、まるで親の敵でも見るような目で悠木君を見ている。

 

ヤバイ、なんか見るからに不良っぽい奴が、今にも悠木君に掴みかかろうとせん勢いで悠木君を睨みつけている。

 

俺、思った。

このままじゃヤバいよな、絶対。

 

悠木君はどうってことなさそうな顔で静を見下ろしているけど、あれが悠木君の精一杯の強がりであろう事は俺にもなんとなくわかった。

あんな彼を、俺は昔見た事があった筈だ。

 

 

 

『すっ、好きです!西山君!ずっと、小学生の時から大好きでした!』

 

 

俺は瞬間的に頭の中に広がってきたリアルな光景に、思わず目を瞑った。

懐かしい光景。

懐かしい言葉。

 

彼は怯えながらそう言った。

だけど、俺を見る目は絶対に逸らしはしなかった。

彼の、先輩の、悠木君の強い目。

 

強い、言葉。

 

 

だけど。

 

あの時。

俺が13歳だったあの時も。

 

彼は、彼の手は。

 

 

「大嫌いだ。朝田静。俺は……お前がこの学園に来た時から……ずっと、ずっと大嫌いだ!」

 

 

震えていた。

 

奴らには見えないように手を後ろで隠しているが、脇から隠れている俺達にはよく見える。

叫んでいる言葉はあの時とは全く逆の言葉なのに。

悠木君の手は、あの時と同じように震えている。

 

そりゃあそうだ、こんな沢山の自分より体の大きい奴にばっか囲まれて睨まれたら、俺だって怖い。

 

そんな中でも泣かずに相手を睨み返している悠木君は、強いと思う。

 

俺だったら即謝る。

土下座せん勢いで謝る。

 

でも、悠木君は謝らないし、逃げもしない。

謝らないと言う事は、自分は間違った事はしていないという意地があるからだろう。

 

だったら、俺は。

 

 

「うっ、うっぁ……うぇぇぇ」

 

「静?泣かないで?ほら、叩かれたところ、見せてみて?」

 

「静。大丈夫か?………テメェ、よくも静を殴りやったな……覚悟はできてんだろうなぁ?」

 

 

とうとう腫れた頬を擦りながら涙を流し始めた静。

そんな静の涙を拭ってやる、爽やかな風貌の男。

そして更に、静をかばうように前に出てきた赤色が強い茶髪の不良。

悠木君を囲む状況は悪化の一途をたどり。

 

悠木君震える手を隠したまま、観念したような表情で不敵に笑って

 

 

言った。

 

 

「覚悟って……何の覚悟かな?庭 正和(にわ まさかず)。俺が、キミに犯される覚悟?そして、その事実を庭組の力でもみ消されて、泣き寝入りする覚悟?わるいけど、どっちの覚悟も、俺はごめんだよ、庭くん」

 

「ふざっけんなっ!」

 

 

そう、不良の握りしめられた拳が一気に悠木君に向かって振りあげられた。

 

 

だったら、俺は。

 

 

「はいはいはいはい!俺達もメイド服が作りたいでーす!!」

 

「っうあ……!」

 

「っちょっ!?カイチョー……!」

 

 

 

両手にイケメンを連れて悠木君達の前へ躍り出た。

理由は一人じゃ怖いから。

一人より二人、二人より三人がいいから。

 

手を繋げる相手は、居れば居るほど、心強い。

 

 

『西山君を見てると元気になれるんですっ!』

悠木君は俺の親衛隊隊長だ。

 

『学校が楽しいって思えたんです!』

悠木君は可愛いんだ。

 

『西山君みたいになりたいんです!』

悠木君は優しいし、凄く良い子なんだ。

 

『西山君が大好きなんです!』

うれしかったんだ。

 

 

だから、絶対に殴ったりさせない。

だって、この子は俺の事好きって言ってくれたから。

悠木君は……初めて俺に、告白してきてくれた人だから。

 

 

『西山君のお陰で、学校が楽しくなりました!』

 

 

俺は凄くあの時、嬉しかったんだ。

俺のしてきた事の結果が、あの笑顔だと。

 

そう、俺に思わせてくれたから。

 

 

「っしゅ、秀様!?」

 

「っうぇぇぇ、しゅー……!」

 

 

突然現れた俺に、被服部側も泣きじゃくる天使側も、同時に俺の方を見てくる。

だから俺は両手にひっつかんで来たイケメンを離して、どこか泣きそうな顔で俺を見てくる悠木君の前まで歩を進めた。

頭一つ分くらい下にある悠木君の顔がみるみるうちに青くなっていく。

 

俺の後ろではやかましい天使が「ソイツに叩かれたー!」と喚き散らしている。

 

うん。

とりあえず相変わらずうるさいのに静なんて、名前勝ちし過ぎだな。

 

モジャ男……じゃなくて、静は。

 

 

 

「おい、テメェ……」

 

「っあ、っはい……秀様」

 

 

俺が思わず口に出した “テメェ”と言う呼び名に、悠木君はどこか傷ついたような表情を浮かべる。

だから思わず俺は誤魔化す様にポケットに入れておいた1枚の紙を悠木君に突き出した。

 

 

「……悠木、せんぱい。た……頼みがある……ります。これを作りてぇんですけど、その……だから……」

 

 

俺の頭の中で静に向かって冷たく言い放った悠木先輩の言葉が頭をかすめる。

 

『いきなり来て、自分勝手な事を言わないでくれるかな。無礼にも程があるとは思わないの?』

 

そう、被服部にも文化祭でやるべき事がある。

悠木先輩にとっては最後の晴れ舞台がある。

悠木先輩が主人公になれる舞台が用意されてある。

 

だから。

 

 

『きちんと敬語を使いなさい』

 

 

「メイド服……作り方とか教えて欲しいんですけど。俺達、自分で作るんで……教えて、ください」

 

 

俺は今日の昼休み、皆で考えたメイド服の図案を握りしめながら悠木先輩に向かって紙を突きだす。

ヤバいな。

手汗で図案がびしょびしょだ。

 

俺は、どこか驚いたような表情で俺を見上げてくる悠木先輩になんとなく恥ずかしくなると、居たたまれない気分で足元に目を逸らした。

先輩、なんて何年ぶりに呼んだだろうか。

 

悠木先輩が俺に告白してきてくれたあの時からだから……

多分、4年振りくらいだ。

あぁ、なんか恥ずかしい。

 

俺が昔を思い出しながらもう一度チラリと悠木先輩を見ると、先輩はいつの間にか笑って俺の手から図案の紙を受け取っていた。

 

 

「西山君。こう言うの作るの、意外と大変だよ?買った方が楽ですよ。それでも作る?」

 

「おう、ネットで探してもいいのなかったんだからしょうがねぇんだ……です。10着いるんだ。文化祭までに間に合う……いますか?」

 

「西山君達の頑張り次第」

 

「頑張るから、教えてく、ださい。文化祭、すっげー面白い事しますから」

 

 

そう、俺が慣れない敬語に苦戦しながら言うと、悠木先輩はいつもの可愛い笑顔を浮かべて俺を見てくれた。

 

 

「はい!楽しみにしています!秀様!」

 

 

そう言って笑った悠木先輩に俺は「おう!」と元気に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(俺は、頭が悪くて、運動も出来ない)

 

(いっつも俺は皆に迷惑をかける)

 

(俺がグループに入ると、またお前かよって皆、嫌そうな顔をする)

 

(でも、俺も皆と一緒に野球やったり、サッカーしたり、発表したりしたい)

 

(俺も一緒に楽しい事したい)

 

 

ずっと、そう思ってきた。

だから俺は。

 

 

(バカになった)

 

 

 

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