※会長親衛隊隊長の独白と言う名の懐古

 

 

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※生徒会長親衛隊隊長

渡辺 悠木の独白と言う名の懐古

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俺は小さな頃から可愛いものや綺麗なものが好きだった。

可愛いぬいぐるみが好きだし、綺麗なお花も好き。

フワフワの女の子が着るドレスも好き。

お花柄のシールやテープ、レターセットに文房具。

 

全部、全部大好きだった。

俺には5つ上に優しいお姉さまが居る。

お姉さまは優しくて、綺麗で、俺にぬいぐるみの作り方やお洋服の作り方や、たくさんの可愛い綺麗なものを教えてくれた。

 

だから、俺はお姉さまが大好きだった。

 

俺には悠氏と言う双子の兄も居る。

俺達は一卵性双生児だから同じ顔をしている。

 

でも、中身は正反対。

悠氏はかっこいいものが大好きだった。

サッカーとか、野球とか、柔道とか、空手とか。

でも、そんなのよりダントツで好きなのが仮面ライダーみたいな特撮もの。

 

とりあえず、悠氏は動き回って闘って勝ったり負けたり、勝負事が大好きだった。

 

 

俺達は双子なのに全然違う。

別に俺はそれで良かった。

お姉さまが好きだし、悠氏も別に嫌いじゃない。

 

ちょっと乱暴でうるさいけど、まぁ我慢できるレベルだし。

 

俺は俺で楽しく毎日過ごしていたけど、そんな俺を気に入らない人が居た。

 

俺のお父様だ。

悠氏は多分完璧にお父様の血を引いている。

だってお父様は勝負事が好きだし、体を動かす事も好き。

 

「男たるもの……」なんて暑苦しい持論を持ち合わせた、現代の頑固おやじみたいな人だった。

お母様はそんなお父様をニコニコ笑って陰から支える良妻賢母の人。

 

お姉さまは100パーセントお母様似だ。

そして……俺も。

 

 

そんな俺をお父様は「男としてなっとらん」とか言って厳しくしつけてきた。無理やり空手や柔道もやらされた。

 

俺はそれが本当に嫌で嫌でたまらなかった。

けど、お父様は怖いから逆らえない。

子供のしつけは拳で……というのがお父様の持論だったから。

 

俺は何度も頭をバコバコ叩かれて泣いたりした。

悠氏はそんな俺を「弱虫め」なんて言いながら笑うだけ。

……たまに、助けてくれたりするから別に嫌いじゃないけど。

 

とりあえず、俺はお父様の愛あるしつけで、無理やり男らしさを叩きこまれていった。

そんな俺にお母様とお姉さまはお父様に隠れて、俺の喜びそうな可愛いものを教えてくれた。

 

お父様がお仕事の時は家でお姉さまとお洋服を作ったり、ぬいぐるみを編んだり。

 

楽しかった。

でも、そんな日常は突然崩れてしまった。

 

俺がお部屋でお姉さまとお母様とお洋服を作っていたら、突然お父様が家に帰って来た。

出張が突然短くなったらしい。

 

だから、突然帰って来たお父様に、俺がお洋服を作っている所を見られてしまった。

他にもたくさんのぬいぐるみや、可愛い雑貨や、綺麗なお花も。

お父様は一週間は帰って来ないと聞いていたから、俺の部屋にはいつもは隠されている可愛い綺麗なもので溢れていた。

 

そしたら……俺は案の定、お父様に頭を叩かれて小一時間お説教された。

当時10歳だった俺はシクシク泣きながら「ごめんなさい、ごめんなさい」なんて謝る事しかできず。

 

でも、今思えば俺は謝らないといけないような事なんか何もしてないって思う。

けど、当時はお父様に逆らったら「悪い子」って思いこんでいたから、俺はひたすら謝った。

けど、お父様はそんなメソメソ泣く俺も気に入らなかったみたいで。

 

次の瞬間、俺は絶望的な宣告を受けた。

 

 

 

『お前は来週から男子校に行け』

 

 

 

耳を疑った。

ただ、お洋服やぬいぐるみを作っていただけで。

可愛いものをお部屋に飾っていただけで転校させられるなんて。

 

思ってもみない事態だった。

しかも男子校。

 

お父様はお母様やお姉さまが止めるのも聞かず、本当に俺を男子校に入れる手続きを始めた。

さすがにお父様も、この俺を一人で男子校に入れるのが心配だったのかついでに悠氏も転校させるという事になった。

 

悠氏にとってはとんだとばっちりだ。

だからって泣いてる俺に回し蹴りをしてくる事はないと思う。

でも、最後は一緒に転校の準備を手伝ってくれたから、そんなに嫌いじゃない。

 

 

でもお父様は酷かった。

10歳の俺達を城嶋学園という、山奥にある大きな学校に……しかも寮に放り投げたのだ。

 

しかも小等部に入ったら運動部に必ず入る事。

なんて約束も無理やりさせられた。

 

酷い。

酷過ぎる。

 

俺はシクシク泣いた。

いきなり知らない学校に行くのも嫌だし、家に帰れないのも怖い、それに男の子ばっかりなんてそれも怖い。

 

 

でも一番いやだったのは。

 

 

 

 

『っひうぅぅ、えぅぅぅえ。おねぇさぁまぁ……おねぇさまぁ』

『悠木、ごめんね。私が一緒にお洋服作ろうって言ったせいで。ごめんね。ごめんね』

 

 

 

お姉さまに会えなくなる事だった。

 

 

俺は『ごめんね』と悪くもないのに謝り続けるお姉さまが悲しくて、たくさん、たくさん泣いた。

 

でも、泣いても結局は俺は男子校に行かされた。

 

 

男の子ばっかりしか居ない学校。

中には女の子みたいに可愛い子や、俺みたいに可愛いものが好きな子が居たけど……でも俺はお父様の言いつけで空手クラブに入らないといけなかったから凄くつまらなかった。

 

入らないとスパイの悠氏がお父様に言いつけるから。

 

いや、違う。

お父様が悠氏に逐一報告するように言っていたのだ。

学校での俺の様子を。

 

だから、悠氏と俺は寮の部屋も同じ。

その頃、スパイキッズを目指していた悠氏は嬉々として俺を見張っていた。

部屋でぬいぐるみでも作ろうものならお父様に言いつけられる。

 

でも、悠氏もお父様の言いつけを守らないと頭を叩かれるから、仕方なかったんだと思う。

 

だって、たまに……本当にたまに。

俺がお部屋でぬいぐるみを作っているのを見つけても、見逃してくれた事もあるから。

 

 

と言う訳で。

親の言う事がこの世を縛る法律と勘違いしていた当時は、生活の“好き”を殆ど奪われて毎日が最高につまらなかった。

本当はお裁縫したり、可愛いものを集めたり……お姉さまやお母様と美味しいお茶を飲んだりしたかったのだから。

 

それを全部奪われた俺は味気ない毎日を送っていた。

 

そんな城嶋学園に来て3年。

俺が小等部6年の時。

 

俺は“彼”と出会った。

 

 

 

 

『夏の野菜なんか植えたくない!』

 

 

 

俺より一つ下。

自信に満ちたその瞳と、キリリとつり上がった眉。

キレのあるその顔立ちは、11歳と言えど将来を有望視するには十分な顔立ちをした少年だった。

 

名前は西山 秀。

西山家の名前は俺もお父様の口から何度も聞いた事がある。

とりあえず、とても大きくて、実力のある資産家の名前だ。

 

彼はそのご子息らしい。

 

俺はそう言って厳しい顔で俺を見てくる西山君に眉をヘタリと寄せる事しかできなかった。

俺はこの西山 秀と言う男の子が苦手だった。

 

 

理由は簡単。

お父様に似ているから。

その男らしいしっかりとした目つきと、意志の強そうな風体は、俺のお父様を彷彿とさせて俺を震えさせる。

 

でも、何故そんな一つ下の彼と俺が、こうして向かい合って座っているのか。

それはこの城嶋学園と言う閉鎖された巨大な教育機関独自の特色が由来していた。

 

城嶋学園は中学も高校も併設した巨大な学園であり、その後の学校生活でも縦の繋がりが色濃く出てくる。

故に、その上下関係が強くなる中学高校の前の段階、つまり小等部の段階から先輩後輩の繋がりを作っておこうと言う学校の意向で作られた“縦割り班”という制度。

 

“縦割り班”というのは簡単に言えば、小等部の各学年を一人ずつ集め(つまり6人)1グループとした学年を超えたグループである。

 

俺は小等部6年として、下の学年5人をまとめ上げ、いろいろな活動を、この1年間やって行かねばならない立場にあったのだ。

俺にとっては凄く、苦手で、面倒で、……やりたくない活動時間だった。

 

 

その縦割り班、最初の活動。

 

 

『夏の野菜を育てよう』

 

 

それは4月に縦割り班一つ一つに与えられた花壇を用いて、各学年協力して野菜を栽培していこうというものだった。

そんな最初の縦割り班活動のテーマを彼、西山君は真っ向からぶった切ったのだ。

 

 

『西山君。でもね、お野菜を植えて、皆で最後に収穫してサラダにするんだよ。きっと、楽しいよ』

 

『やだ!絶対ヤダ!』

 

 

俺はもう必死に西山君に『楽しいよ?』なんて言って聞かせたけど、西山君は頑として首を盾には振らなかった。

『楽しいよ?』なんて言ってる俺も、実際は別に全然楽しみじゃなかった。

 

しろって言われたからしないといけない。

しないと怒られるし。

 

したくなくても、やらなきゃいけないんだ。

 

俺はお父様の存在から身をもって教え込まれた精神により、何事もなく全てを終わらせようと必死だった。

そんな俺の気も知らないで『ヤダ!絶対に野菜なんか育てない!』なんて言う、お父様ソックリの西山君が、俺はちょっとだけ憎らしかった。

 

俺だってこんな事やりたくないって叫びたかったから。

 

まぁ、西山君に『何で野菜を育てたくないの?』って聞いたら『トマトもきゅうりもナスもピーマンも大嫌いなんだよ!』って返事が来た時は、かわいいな、なんて思ったけど。

 

でも、可愛いなんて想いもすぐにどっかにふっとんで行った。

西山君が『食べれないんだよ!』って言った瞬間、まだあどけなさが残る1年生まで「はいっ!」と大きく手を上げてきた。

 

 

『どうしたの?』

 

『はい!ぼくは、なすびがきらいです!』

 

『……へ?』

 

 

俺は1年生の言葉に思わず目を見開いた。

いや、別に今は嫌いなお野菜の発表をする時間ではなのだけれど。

俺が1年生の言葉に困惑していると、それを見ていた他の学年の子たちも大きく手を上げ始めた。

 

 

『ぼくもなすび嫌いー!ぬるぬるするから!あとピーマンも!苦いから!』

 

『俺はきゅうりも嫌いだ。真ん中の種みたいなのが気持ち悪い』

 

『ぼくも……おやさい……きらい』

 

 

俺は目の前で『嫌い、嫌い』と叫ぶ年下の子達を見て頭が痛くなった。

確かに、俺もなすびとピーマンはあまり好きではなかった。

理由も2年生の子が言ったのとほぼ同じ理由で。

 

でも、今はそんな事を言う時間じゃないのだ。

来週植える野菜と、持ってくる物の確認の時間だ。

俺の班だけまとまりがとれていないなんて、そんな事になったら俺が先生に怒られていしまう。

 

怒られるのは嫌だ。

頭を叩かれて、怖い顔で見られる。

お父様みたいに、きっと怖いんだ。

 

そう思って、事の元凶である西山君を見て見れば、年下の子達を見て『だよなー。おいしくないよなー!』とニコニコ笑っている。

 

 

『なすびきらい!』

『なすびのサラダなんて食べたくない!ピーマンも嫌!』

『きゅうりだけ避けて食べたら怒られるよなぁ』

『サラダ……きらい』

 

 

そんな事を言って若干テンションの下がって来た子供達に、俺は焦った。

これは皆で協力してやらないといけないものだ。

観察日記もつけなきゃいけないし、かわりばんこで水をやったりお世話をしたりしなきゃいけない。

 

嫌いだからやりたくないなんて言われたらどうしよう。

 

俺がそんな事を思い、どうしようもなく頭を抱えていると西山君が椅子から立ち上がり叫んだ。

 

 

『まかせとけ!俺がなんとかしてやる!』

 

 

まかせとけ。

そう言って胸を張る西山君に、俺は溜息をつくしかなかった。

結局、どんなに嫌がっても、先生達の言った事には従わないといけないんだから。

 

何を考えているかはわからないけど、とりあえず問題を起こさないで欲しい。

 

そう思って俺はブンブン首を振る西山君を心の中で無視して、野菜を植える当日を迎えた。

 

城嶋学園はお金持ちの学校だから、こう言う活動の為に用意された畑もとても広いものだった。

俺達も自分達に与えられた花壇と言う名の畑で先生に渡された種や苗を植えようと腕まくりをした。

 

とりあえず、何かあったら先生を呼ぼう。

そんな頭で俺は、畑に来るまでずっと黙ったままだった西山君の方を見た。

すると、その瞬間俺とバチリと目が合った西山君は何を思ったのかニヤニヤと悪戯を思いついた子供のような目で俺を見てみんなを固まらせるように一か所に集めた。

そして……

 

 

『なぁ!なぁ!これ見ろよ!きれーだろー!!』

 

『……これは……』

 

 

西山君は自分の体操服の下から何やら一冊の本を取り出すと、全員に向かって突き出してきた。

夏の図鑑と書かれたその本には、青空の下、一面に咲いたヒマワリの花の写真が印刷されて居た。

 

 

『ヒマワリ……きれい』

『すげー!』

『俺、ここ行った事ある。凄く綺麗だった』

『いっぱい咲いてる!』

 

 

写真のヒマワリを見た俺達の班は皆一様に感嘆の声を上げた。

そして……俺も。

 

 

『本当に、綺麗』

 

『だろ!図書館で調べたらやっぱヒマワリが一番綺麗だったんだ!黄色だし!大きいし!だからさー、だからさー!じゃん!』

 

『……ヒマワリの種?』

 

『そう!つーはんした!ヒマワリ育てようぜ!俺達だけ!』

 

『で、でも……それじゃあ……先生に……』

 

 

俺は俯きながらそう言った瞬間。

俺の頭に軽い衝撃が走った。

 

 

『ばか!先生なんて関係ねー!食えねーもん育ててどーすんだ!自分で育てただけで食えるようになるなら給食であんな苦労しねーっつーの!つか、つまんねーだろ!ほら、畑の真ん中!俺達の班だけ夏になったら真っ黄色の大きな花が咲くんだぞ!綺麗なんだぞ!ワクワクするだろ!楽しみだろ!?』

 

『………お花がいっぱい』

 

 

俺は手の中に沢山のヒマワリの種を握りしめた西山君に、頭の中で一瞬、夏になった俺達の花壇を想像した。

そこには、青空の下緑色に染まった周りの花壇の横で、綺麗な黄色を咲誇らせるヒマワリの姿があった。

 

 

『みんなビビるぜぇ?先生達もビックリだ!ま。怒られても、その時には俺達のヒマワリは咲いてんだ!怒ってももう遅いってな!やりたい事はもう既に止められないんだよ!』

 

『っ!』

 

 

俺は笑いながら俺の肩をガッシリと掴んでくる西山君に、ゴクリと唾を飲んだ。

 

怒られても、やりたい事は止められない。

 

 

『それに、怒られないくらいスゲェの作ればいいんだ!』

 

 

怒られても、それを認めさせるくらい凄いものを作り上げれば。

 

 

夏に咲くヒマワリ。

本当は俺は6年生だから、西山君を説得して野菜を植えないといけないのだ。

けど、

 

けど。

 

 

『ヒマワリ……いいね!』

 

『だろ!きーまり!ほら!お前ら!夏に俺らの花壇でこの畑を盛り上げてやんぜ!サラダなんか誰が食えるかよ!給食だけで勘弁だっつーの!』

 

『わー!ヒマワリ植える植える!』

『写真みたいになる?』

『さすがにここまでは無理じゃないかな?でもけっこう此処も広いしね』

『ぼくたちの花壇ヒマワリだらけー!』

 

 

そう言って清々しく笑う彼と皆に、俺はどこか心に引っかかっていた重い、重い固まりがスッと溶けて無くなっていくのを感じた。

怒られるって、大した事じゃないのかもしれない。

やりたい事をやるって、本当はとても簡単な事なのかもしれない。

 

俺は先程西山君に叩かれた頭を小さく撫でると、いつの間にか自分が笑っているのに気が付いた。

 

 

お父様がどう言っても、俺がするって思ったら、結局は止められない。

だって、俺のしたい事は俺の自由なんだから。

 

 

怒られたっていい。

怒られても、俺はしたい事をするんだ。

 

 

そうやって、西山君とヒマワリの種を植えた3ヶ月後。

 

俺達の班の花壇は青空の下、綺麗な黄色の大軍を咲誇らせた。

 

 

毎日、毎日。

皆で咲く事をワクワクしながら水をやって育てたあの日から。

 

 

俺はいつの間にかいやいや通っていた学校を楽しめるようになっていた。

 

 

 

『ほーら!綺麗だったろ!』

 

 

そう言って代表で俺だけ先生に怒られて痛む頭を撫でながら、俺と西山君は笑ってヒマワリを見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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俺は急に住人の増えた第一被服室で、何故かワクワクしながら2枚の紙を見つめていた。

 

秀様達が文化祭で使うメイド服のデザイン。

プラスもう一枚が、憎き朝田静が持ってきたメイド服のデザイン。

 

どちらも、描いた本人の個性が強く出ているデザインだ。

とりあえず朝田静の方は破りたくて仕方ないのだけど。

 

でも、まさか秀様が泣きわめく朝田静の鼻をつまんで「お前らも作ればいいだろ!」と言い出すなんて思いもしなかった。

秀様は朝田静を気に入っていたから……最悪、お前らが作れ!なんて言われかねないと思っていたから。

 

 

だから今此処には、秀様率いるA組の野伏間君と岡崎君に朝田率いる1年C組のメンバーが俺を見下ろしていた。

 

その視線を感じながら俺はデザイン画を見て、今後のスケジュールを練る。

 

自分達の作品制作と同時進行していかなければならないこの状況。

けっこう大変かもしれない。

 

けど、俺の横で楽しそうに俺を見下ろす秀様の視線を感じると、何故だかワクワクして仕方がない。

大変でも、怒られそうでも、この人はきっと楽しませてくれる。

だって彼は言った。

 

 

文化祭、すっげー面白い事しますから。

 

 

と。

 

俺はあの日から、彼の……秀様の行動で様々な事を楽しんで来た。

つまらなかった学校生活を楽しいと思えるようになった。

 

秀様が笑う時は、きっと楽しい事が起こる時。

 

俺はそう信じているから。

 

 

俺は頭の中で出来上がったスケジュールと制作過程に、頭を上げると笑顔で俺を見ていた秀様とバチリと目が合った。

 

あぁ、なんて楽しげなんだろう。

 

なんて楽しみなんだろう。

 

 

 

「それでは、今後みなさんがやるべき事をひとつずつ説明していきますね」

 

 

 

俺がデザイン画を手に、そう口を開いた時だった。

 

 

ガラリ

 

 

「被服部に、執事服の制作を頼みたいんだが……」

 

 

 

そう言って扉の向こうに現れた彼の天敵に、俺はニコリと微笑んだ。

そんな俺と……この被服室に存在する色の濃い人間の集団に、彼は驚いたように目を見開いた。

 

 

「秋田君。働かざる者食うべからず、ですよ?」

 

「………は?」

 

 

 

彼の間の抜けた声が、俺達被服部のお城に綺麗に響き渡った。

 

 

 

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