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※城嶋学園 風紀委員長
秋田 壮介の怒りに満ちた独白
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これだから、
これだから生徒会という奴は気に食わん。
「「静をどこにやったんだよ!?」」
「いい加減に、白状したらどうですか」
「知っててもテメェらなんかに教えるわけねぇだろ!?」
「生徒会は黙ってすっこんでろ!」
俺は目の前で起こる、心底下らない内容で言い争う二つの勢力を前に、自然と舌打ちが漏れてしまった。
すると、その舌打ちが聞こえたのか、いつの間にか俺の隣に居た生徒会の岡崎陣太がビクリと体を揺らす。
どうやら、この苛立ちと舌打ちが生徒会に向けたものだと気付いているのだろう。
岡崎自身、あそこで下らぬ言い争いをしている生徒会のバカ3人には加わっていないものの、つい最近まではあの中に入っていた人間なのだ。
俺は多少の嫌みを込めて、手元にあるミシンや布生地を乱暴に脇にどけてやった。
そう、俺達は未だに被服室に居る。
まだ文化祭の衣装制作についての、実際の使用器具等を用いた詳しい説明段階に入ったところだ。
話しは……順調だった。
なのに、
この様はなんだ。
今は全ての作業が一時ストップし、ここに居る人間の目は全て、朝田静の取り巻き達と生徒会のバカ3人に向けられている。
アイツら……いや、西山と野伏間が放送で呼び出され、しばらくして此処にやってきたバカ3名。
バカはバカらしく開口一番バカ発言をかましてくれた。
『『『静はどこだ!(ですか!)』』』
その時、丁度「ちょっとトイレ!」と言って席をはずしていた朝田に、生徒会の3人はその場に居た朝田のクラスメイト達に食ってかかった。
そして……、
「一般生徒の貴方達が俺達にそんな口をきいていいと思っているんですか?」
「「そーだ!そーだ!お前らなんかと居ると、静に悪影響だしー!」」
今に至る。
「………っち!」
俺はもう一度生徒会の3人を見ながら舌打ちをすると、ついでに隣に居る岡崎も睨みつけてやった。
隣ではデカイ図体の癖に「あ、う……」と済まなそうな表情で眉を寄せ震える岡崎の姿。
しかし、そんな事では今の俺の苛立ちは抑えられるものじゃない。
だいたい、アイツらは何だ。
生徒会の仕事もろくにやっていないくせに、生徒会の特権だけはフルに活用し、一般生徒に権力を振りかざすなど。
これだから、顔だけの投票で選ばれた奴らの集団など役に立たない。
所詮は下らぬ生徒達からの娯楽投票で決められたヤツらだ。
使命感などある筈もない。
バカな烏合の衆になってしまうのも無理はないのかもしれない。
故に奴らは、自分の仕事を放棄し、己の欲望のままに動きまわるバカの集団でしかないのだ。
「………クソっ」
ついでに言うならば、腹立たしい事にあそこのバカ3人。
あれは俺と同じクラスだ。
生徒会の仕事もさることながら、クラス出店の仕事すらまともにしてこない。
こうして俺が慣れぬ針仕事に従事しているにもかかわらず、奴らは……
奴らは……
「おい……そこのバカ生徒会共」
考えれば考えるほど腹立たしい己の怒りにまかせ、俺は震える拳を衝動的に机にぶつけた。
ガタリと教室に響く鈍い打撃音。
ミシリと危うい音を立てる古い被服室の机。
物に罪はないが、今の俺はどうも力をセーブできそうにない。
俺が静に立ちあがると、騒がしかったバカ共の良い争いがピタリと止んだ。
隣では泣きそうな顔で俺を見上げてくる岡崎の姿。
あぁ、本当にイライラする。
生徒会と言う奴は。
本当に……腹が立つ。
「生徒会、俺は貴様らに言いたい事がある」
「……っ秋田」
「「………な、何さ……」」
あぁ、本気で頭にくる。
自分達の立たされている状況も理解できていないバカな生徒会。
全校生徒から、一心に期待を受けてその職に就いたであろうその誇りはどうした。
もしくは、もともと選ばれた誇りなどなかったのか。
どこか焦ったような表情を浮かべながら俺から目を逸らす生徒会副会長。
俺は五木 佐津間を睨みつけると心からの侮蔑の意を込めた目で口を開いた。
「五木、貴様は副会長たる職を一体何だと思っている。ソレは一般生徒に権力を振りかざす為に貴様に与えられた玩具ではないぞ」
「…………っ」
「生徒会に無能な子供は必要ない。五木、お前はそれをきちんと理解した上で、今こうして生徒会の権力を振りかざしているのだろうな?」
他人から押し付けられたものだと、本当はやりたくない仕事なのだと、途中で仕事を放棄したバカな集団を、俺はこれ以上許すわけにはいかない。
だいたい、アイツはどうした。
アイツは……
俺は頭の片隅に浮かんでくる、一番のイライラの原因を一旦頭から追い出すと、五木の隣に立つ同じ顔の二人に目をやった。
二人で寄りそうように肩を寄せ合う、生徒会監査の油屋兄弟。
「油屋。貴様らは自分たちが生徒会のマスコットだとでも思っていないか。どの組織でもそうだが、役に立たない奴など組織には不要だぞ」
「……う、」
「……あ、」
「生徒会にマスコットはいらん。周りに悪影響なんだよ、貴様らのような甘えた奴らは。二人で一つ?笑わせるのも大概にしろ。役立たずなど2人どころか1人もいらないんだよ」
お前らには怒る権利も言い返す権利もない。
生徒会はそれ相応の事をやっているのだから。
俺の言っている事は事実以外の何物でもない。
義務を果たさぬ奴に、権利などありはしないのだから。
「この、愚か者どもが」
俺は久々に感じた怒りの熱に、小さく息を吐くと、先程西山達の出て行った扉を盗み見た。
一体、アイツはいつになったら戻ってくる。
このバカ集団の長であるアイツが不甲斐ないが故に、こんなバカが俺達のクラスでも足を引っ張る。
風紀の仕事を増やす。
西山、早く戻ってこい。
生徒会を統べるのは貴様の、
西山 秀の仕事だろうが!
俺がそう心の中で毒づいた時。
遠くから複数の足音と声が俺の鼓膜を揺らした。
徐々に近づいてくる足音と、どこか俺をイラつかせるあの声。
被服室に居る人間の意識はいつの間にか、外から聞こえてきた激しい足音に奪われていた。
そして次の瞬間。
被服室の扉の前にユラリと2つの人影が揺れた。
「はい!俺がいっちばーん!」
「違う俺のが早かった!」
静まり返っていた被服室に、騒がしい二人の人間が同時に
飛び込んできた。