第41話:ふざけるな

 

 

 

 

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第41話:ふざけるな

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「はい!俺がいっちばーん!」

 

「違う俺のが早かった!」

 

 

 

そう言って俺に向かって口を尖らせる静に、俺は静の頭にチョップを食らわせてやった。

さっきのはどう見ても俺のが一歩早く被服室に入っていただろうが。

 

 

「ぜったい!俺のが早かった!秀のほうが一歩遅かった!」

 

「はいはい。俺の方が足が長いんだから俺の勝ちな。年上だし」

 

「そんなの関係ねー!」

 

 

俺は隣でワーワー喚く静をチョップから手のひらを広げて頭をガシガシ撫でてやる。

 

すると、先程まで騒いでいた静が突然、教室を見て「あ!」と大声を上げてきた。

それにつられ、俺も静から目を離し、教室の中を見渡す。

 

 

「佐津間!友也!友樹!お前ら、何でここに居るんだ!?」

 

「「し、静」」

 

「静……探しましたよ……」

 

 

そこには、静の言うように何度か静と一緒に居るのを見かけた静の家臣たちが立っていた。

しかも、その3人の前にはあの魔王秋田壮介が、本当の魔王みたいな顔で立って居る。

 

よくよく観察してみると、なんだか被服室に居る皆の表情は硬い。

奥に座ってる陣太も、俺の方を心配そうに見てくる悠木先輩も。

 

何故かへたりと眉を寄せている。

 

 

しかし、そこは静。

そんな教室の空気など全くお構いなしに、いつもの笑顔で家臣団の3人にニコニコ駆けよって行った。

 

よし、俺もよくわからんが置いて行かれないように何気なく教室に馴染もう。

 

 

 

そう、俺が何食わぬ顔で陣太の隣に足を向けた時だった。

 

 

「西山、貴様。今まで何をしていた」

 

「うあっ!えっ!?俺!?」

 

「貴様以外に誰が居る!西山!貴様今まで一体どこで何をしていた!?」

 

 

怒られた。

まさかの帰宅早々怒られました。

秋田壮介に。

 

え、何故……?

 

俺は何故か激しく虫の居所の悪そうな秋田壮介を前に、決まり悪く視線を泳がせた。

 

何をしてたって……えぇぇ。

どう言えば良いのだろう。

つーか、どうして彼は今こうも機嫌が悪いのだろう。

 

あぁ、ほんとにタイミングの悪い時に帰ってきてしまったもんだぜ。

 

 

「……何って……そんなの……」

 

 

とりあえず、生徒会室で先生に怒られて落ち込んだ挙句泣いた事は言わなくてもいいだろうか。俺にも男のプライドってもんがあるからな。

 

そう俺が一人ゴチャゴチャと呟いていた時。

 

 

「秀はな!生徒会室で柳場っちに怒られて泣いてたんだぜー!だから俺が助けてやってたんだ!」

 

「……はぁ?」

 

 

あはははは。

静めぇぇぇ。

さっきまではすっげぇ良い子だと思っていたが前言撤回する。

 

お前ちょっとやっかいだわ!

何で、何でそれをわざわざ言うんだよ!?

恥ずかしいだろうが!

 

 

家臣団や取り巻きに囲まれながら、めいっぱいの大声で此方に向かって叫んでくる笑顔の静に、俺は恥ずかしさの余り逃げ出したい衝動にかられた。

しかし、それすらも許してくれそうにない目の前の秋田壮介。

 

もう、ものっそい怪訝そうな目で俺の事見て居ますね。

やべぇ、羞恥プレイも甚だしいぜ。

 

 

「西山、一体、貴様何があった」

 

「……えーっとぉ……あのぉ」

 

「秀!今ここで誰か手伝ってくれる人いないか聞けばいいじゃん!一緒にステージ作ってくれる人いませんかーって!」

 

 

な!

そう、得意満面な顔で俺を見てくる静に、俺は頭の中がグワングワンと重く回りだすのを感じた。

 

いや、ここに居る大半がそんなに仲が良い人じゃないんですけど。

しかも被服部の人に至っては体が女の子みたいに細っこくて、可愛らしい子ばかりだから頼みづらい。

 

しかし、遠くからは更に「な!な!聞いてみようぜ!」と仲間達の間から飛び跳ねて提案してくる静がキラキラした目で俺を見てくる。

 

 

「うー……」

 

まぁ、どのみち誰かに協力を要請しないといけなかったわけなので。

それなら、よく知らない可愛らしい被服部の方々より、静の取り巻きより。

 

 

頼みやすい……頼みたい相手に聞いて貰う方が……いいのかもしれない。

 

 

俺は目の前で心底怪訝そうな目を向けてくる秋田壮介に目をやると、小さく息を吸い込んだ。

 

 

「秋田壮介!このとーり!一生のお願い!屋外ステージ作るの手伝ってください!」

 

「………何だと?」

 

 

勢いよく頭を下げた俺の頭上から、微かに息を呑む声と、驚きを含んだ声が聞こえる。

何故か教室中の視線が集まっている気がするのは、俺の気のせいだろうか。

 

 

「文化祭の屋外ステージなんだけどさ。業者に頼むんじゃ、予算が足りなくて……。だから、佐藤先生の監修で、材料だけ揃えて自分達だけで作る事になったんだ!それで人手が要るんです!お願いします!一緒にステージ作ってください!」

 

「………佐藤先生が」

 

 

俺が頭を上げて秋田壮介を見上げると、そこには何やらブツブツと何かを呟く秋田壮介の姿があった。

そして、一旦俺へと視線を戻すと、いつものような厳しい目で俺を睨みつけてきた。

 

 

「それは、お前ら生徒会から、俺達風紀に対する人員の要請だと受けてもいいのか」

 

「……えっと、それは……」

 

「風紀としても、本来の仕事で手いっぱいだ。各々のクラスの出店の方でも委員のメンバーは手を焼いている。それを割いて、更にお前の言うステージ設置とやらに協力せねばならない義務は、風紀にはない。それに……」

 

 

つらつらと、しかし確かに正論と言う鋭い棘を持った言葉が秋田壮介の口から紡がれる。

 

しかし何故だろうか。

その棘は、俺にというより他の誰かに向けられているような気がしてならない。

 

現に、秋田の目は俺ではなく……俺の、もっと後ろの誰かに向けられているようだ。

 

 

「生徒会役員がこうも腑抜けて暇そうにされてはな……。人員を割く俺達風紀が、腸が煮えくりかえるような思いをせねばなるまい。まずはそっちの人員でどうにか補え。話しはそれからだ」

 

「違う!野伏間君は今熱で倒れてるんだ!具合悪いんだ!別に腑抜けてるんじゃない!」

 

 

秋田壮介の口から出てきた言葉に、俺は思わず叫んでいた。

 

腑抜けてるなんて、そんな事絶対に言わせない。

野伏間君は、ずっと一人で頑張ってくれていたんだ。

絶対にそんな事は言わせない。

 

 

しかし、俺の必死な言葉とは裏腹に、秋田壮介は一瞬怪訝そうな目で俺を見てきた。

あれ、俺、何か変な事でも言っただろうか。

 

 

「何を言っている。野伏間の話ではない。……野伏間ではなく……他の生徒会役員について言っているんだろうが」

 

「……他の……?」

 

 

他の生徒会役員。

そう、秋田壮介が口を開きながら、確実に誰かを見ているもんだから……。

 

俺は思わず秋田壮介の見つめる先を振り返った。

 

そこ居るのは、静とそれを囲む数名の生徒達。

何故か、その生徒達の中で、メガネをかけた奴と、あのにっくきハモりの双子の3人が俺の顔をジッと見てきた。

焦っているような、しかし、どこか期待するような。

 

よくわからない表情で俺の事を見てる、彼ら3人。

 

しかし。

 

 

「何だよ!生徒会は、俺と野伏間君の二人だけだ!」

 

 

俺は叫んでいた。

 

だってそうだろ。

いつも生徒会室には俺と野伏間君しか居なかった。

他にも机はあったけど。

居たのは野伏間君だけ。

 

 

一緒に走ってくれていたのは、

 

 

野伏間君だけだったじゃないか。

 

だから生徒会は俺と野伏間君の二人だけ。

そうだろ?

 

 

そんな思いで、俺が秋田壮介を必死に見つめて居ると。

 

 

ガタリ、

 

 

被服室の奥で、椅子を引く音が聞こえてきた。

 

それは、どうやら陣太が椅子から勢いよく立ちあがる音らしかった。

 

 

どうしたんだろう。

どうして陣太はあんなにも悲しそうな顔で俺を見ているのだろう。

 

 

「西山……お前……」

 

 

目の前には、驚きに染まった秋田壮介の表情。

背中に突き刺さる3つの視線。

 

 

なぁ、言いたい事があるんならハッキリと口に出せよ。

じゃなきゃ伝わんねぇだろ。

なぁ、お前らさ。

 

 

戻りたい場所があるんなら………自分の足で向かうしかねぇんだよ。

 

 

俺の中に湧きあがって来る、よくわからない感情。

俺の頭の中に浮かんでくる、誰に向けたかわからない言葉。

 

 

その宛先不明の気持ちが、

 

 

いつの間にか、

 

 

 

伝わった。

 

 

 

 

「ふざけるなっ!」

 

「っ!?」

 

 

 

誰かが俺の肩を勢いよく引いた。

俺の体が、その力と共に引き寄せられる。

 

 

「………っお前……」

 

「ふざけるなっ!ふざけるな!ふざけるな!」

 

 

 

肩を引かれた先。

そこには、何故か、泣きそうな顔の五木 佐津間が居た。

 

 

 

 

 

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